オトコノコの受難(飛び火)
「でもでも、内通者がいる状況ならクリアも早いよ」
立ち上がったアキは涙目で私に訴える。が、問題はそこではないのだ。
「堂々とチート宣言してんじゃないわよ。あと、早くなった分アンタはどこでナニするつもり」
「がんばってくれたお礼にご褒美を」
再びその頭に平手をたたきつける。今度は当たり所が良かったのかアキはその場でしゃがみこんで頭を抱える。
「4人いないとクリアできないっていってるでしょうが。明らかに途中でいなくなる人間を看過できないわよ」
っていうか、堂々とエロいことしますとか宣言するんじゃない。野々村さんが顔真っ赤で興味津々な表情でこっちを見るだろうが!
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「ところでアヤカちゃん、何でこんなレクに必死になってるの?」
三度立ち直ったアキはプリントを指さしながら首をかしげる。
「いつもならアヤカちゃんってこういう遊びみたいな行事は出席だけしてぼーっとしてるタイプでしょ」
その通りだ。そもそも、私は学校に勉強をしに来たのであって遊びに来たつもりはない。
「これを見なさい」
私が指差すのはプリントの一番下。小さな文字で「なお、スタンプラリー制覇者には授業点が加算されます」の一文がうっすらと書かれている。
「やってやろうじゃない、合法休みのために!」
私は学校に勉強をしに来ている。しかし学校が休みになれば遊び倒すのが私の流儀だ。
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「そういうわけで、戦力になりそうな仲間を捜すわよ」
しかし、女子はグループを作り上げてしまっていて、捕まりそうにない。かといって男子はこの輪の中に入ってくれそうにない。
どうしたものかと考えていると、突然アキが大声を上げた。
「かんちゃん発見!おーい!」
「なに、環がいるの」
アキが手を振る方向を見ると、確かに女子グループに捕まって困っている環の姿があった。
私たちの姿を見つけると、捕まっていたグループに頭を下げながらこちらに向かってくる。
「かんちゃん?たまき?」
野々村さんは誰の事だかわからないようだ。それも当然か。
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こちらに向かってくる環に向かっておざなりに手を振りながら野々村さんに簡単に説明する。
「うーん、まあ私の親戚みたいなもので、幼なじみよ。おーい、たまきー」
「アヤカ、本当に同じ高校に来たのかよ……」
顔を合わせるなり、ご挨拶なこの男は門脇 環。顔良し、頭良し、性格良しの三拍子そろった面白みのない奴だ。
「鈴村さん、だいぶ嫌われてない?」
思春期の男子なんてそんなもんでしょ、とは思う。女子と話すたびに顔真っ赤にしてて将来に不安を覚えなくもない。
「アキもいるよー」
「アキさんは本当になんでいるんですか?!」
おお環、それは私も聞きたいところだったが、あるがままを受け入れるしかないんだよ。
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「そうだ、野々村さん私のことはアヤカでいいわよ。ここには鈴村が二人いるし」
そろそろ私と野々村さんの関係もワンランク上のものを目指してもいい頃だと思う。出会ってから一時間くらいしかたってないけど。
「それじゃあ私も音でいいよ。でも、アキさんは「アキさん」って感じだから別に気にしてなかったけど?」
「音ちゃん、私はできる限り鈴村の血筋であることを忘れていたいの」
「…大丈夫、アヤカちゃんも十分非常識だよ」
そんな慰め方されてもなあ。