3児の母、コスプレに目覚める
「世の中の化粧品をどう組み合わせたらこの存在を維持できるのかしら」
私のひざの上から腕を伸ばし母のほっぺたをぐにぐにと摘まむ野々村さん。よく伸びる頬だとはワタシもおもう。
「みじゅとせっふぇん!」
事実、この人は朝に顔を洗うくらいのことしかしていない。
「神は死んだ、あるいはあなたが神か」
まあ、世の中の女性からしてみれば、ろくにスキンケアもしていない人が赤ちゃん肌なんて信じられないよね。
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「ちなみにこれ、一応3児の母だから」
「常識にパワーインフレが起きているのを感じる」
これでもまだ少年漫画で言ったら10巻くらいのレベルなのだけど。
「あと、私が一番下」
「アキさんはどこかの研究所に一度送られるべきだよ」
冗談めかしたトーンで話しながらわたしをみる野々村さんは、しかしその表情はいたって真剣で。
「何度か化粧水のテスターやったけど、参考にならないからもういいっていわれたよ」
あ、野々村さんがついに固まった。いや、よく耐えた方だと思うよ。
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「かわりにモデルやらないかっていわれた。あと芸能界とかテレビに興味はないかって」
たしかに、テレビのCMに出ようものなら化粧品なら売り上げ倍増だろう。
「それは私の下に兄弟が増えそうだからやめさせたけど」
「そういうのって普通、親が娘を止めるものだと思ってた」
「音ちゃんドラマの見過ぎだよー」
あはは、と笑っているけれど、あんたの貞操観念なら冗談も本気になりかねないから言っているのだ。
ちなみに、私はその事実を中学生になって初めて知ったよ。
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そうこう話をしている間に入学式も終わり、次のイベントに移っていた。
「保護者は親睦会、生徒はレクリエーションか」
講堂を出る際に手渡された紙を見ながら私がつぶやくとアキが横から顔を突っ込んできた。
「アヤカちゃん、私はどっちに行けばいいかな!」
「親睦会にいっても無駄だろうからレクリエーションでも参加すれば?」
というか、またどうせ生徒と間違われてつまみ出されるのが目に見えてるし。そもそもその制服のままいくつもりだったのか。
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「失礼な、カズよりは頭いいもん」
頬を膨らませながら「怒っています」のポーズをとってる人間の説得力のなさは政治家のマニフェストよりも信用度がない。
「ミジンコがプランクトンをバカにしても人間からはどっちも無能よ」
「やった、アキちゃんカズより上!?」
「ミジンコもプランクトンよ」
「そんな」
常識欠如の人間が世間一般の人様とタメを張れると思うなよ。