よんひくいち
ひと通り吐くものは吐いたのか二人とも青い顔で。
「そうは言ったってよ、あんな速度で車が走るとは思わないだろ」
「そうよ、だいたいなんであんな速度で飛ばすわけ?!アキちゃん憤慨!」
あんたたち、もういい年なんだから10分先のことくらいは自分の頭で判断しなさいよ。
「カズトもアキも自分の娘の門出くらいしゃんとできないものですかねえ」
「そういうヤスも足が生まれたての子鹿みたいなんだけど」
私の親は本当にダメな奴ばかりだ。だいたい、どうやって私を育てたのか。
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その辺にあった自動販売機で買った水を口にしながらヤスが周りを見回す。
「ところで、式はどちらで行うんでしょうか」
この状況下では一番まっとうな意見だ。足はまだふるえているが。
「この手のが体育館でなかった試しがねえ」
どや顔で案内図の体育館を指さすカズとそれを感心した様子で見るアキ。
「自信満々のカズには悪いけど、講堂が別にあるみたいね」
「はぁ!?」
いや、アンタたちにも渡しただろ、入学案内。
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まだ軽く酔いが回っているアキはカズの周りをくるくる回りながらカズを煽っていく。
「あははー、カズのクソ雑魚ー」
「アキ、やんのかオラ」
この状況下では一番のクソ雑魚なのでは。そもそも案内板に寄りかかってる時点でアウト。
「女性に暴力なんてサイテー」
「こういいときだけ都合よく女の権利振りかざすのはサイテーじゃないんですかねぇ」
「私生活でクソ雑魚は黙ってなさい」
カズを黙らせるだけなら家事を担当する私とヤスに勝てる存在はいない。
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講堂につくと中にはすでにぎっしりと人が詰まっていた。
「あっちが保護者席で、こっちが生徒用ね」
受付で渡された紙には前方の大きな塊が生徒用、後方の塊が保護者席と書かれていた。
「じゃあ、私たちは後ろで見ていますので」
ヤス、できることなら帰ってくれると嬉しい。
「緊張で吐くなよ」
この馬鹿をつれて。というかアンタこそ吐いて恥かかせないでよ。
「ああ、アキはヤスと手をつないでなさい」
「なんでよー、アヤカと違って子供じゃないんだから」
世間ではアンタの容姿は私より幼く見えるのよ。
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アキは 知らない女の人に 腕を捕まれた!
「そっちは保護者席、というか制服は!?」
メガネをかけた、いかにもできる女という雰囲気の女性。胸元に「教員:高橋」とあるので先生だろう。
「ああ、遅かった」
ちなみにこの流れは中学の入学式でもあった。上の兄弟二人も同じ光景を見ているらしいので最早我が家の恒例行事なのかもしれない。