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二人のバカ、もう一人もバカ

 そう、あれは私が中学校に入学する時の出来事。

「お嬢さん。私とこのあとお茶でもいかがですか?よろしければ、そちらの素敵な娘さんもご一緒に」

「カズト、その方の後ろの熊みたいな男性が見えないんですか?……あちらの奥さんなどが後腐れなく手ごろそうに見えますが」

「別に俺は熊に負けるつもりはねえけど、そっちのほうがいいかな」

 たった今話しかけていた家族にまたねー、とにこやかに手を振っているカズト。

 熊と呼ばれた人が静かに間に立っているのが、好印象だった。

「ヤス、それなら新任の養護教諭の人が私はいいなー。女医さんだよ女医さん!」

 アキはヤスの袖を引き、ヤスはカズトの腕を掴み、むやみに女性を襲わないようにセーブしていた。

 ……つまるところ、桜がひらひらと舞い散る遊歩道でこの3人は、ナンパをしていた。

「アキのリサーチには毎度驚かされます。カズトに異論がなければそれ(女医)で行きましょう」

「異議なーし」

 手をひらひらとさせながら、その足はすでに保健室に向かっていた。

「では行きましょうか」

「「れっつえんどごー!」」



「あの後大変だったのよ?!養護教諭からは何かあるたびに物を渡されるし、ナンパされた子のお母さんが旦那さんと離婚してうちに嫁ぐとか言い出したりとか!」

 渡されるものは丁重にお断りし、離婚騒動のときはわざわざ家に出向いて「これ以上我が家の人間関係ややこしくしないでください」と頭を下げにいった。

「前者は知ってたけど、後者は知らなかったぞ」

「カズトに言わなかったのは懸命ですね、言っていたら今頃お母さんが2人になってましたから」

 ノーサンキュー。しかももれなく妹までできてたわ。

「んー、アキちゃん的にはそれもよかったんじゃないかなあって思うんだけど」

「母さん的によくても私が心労で倒れてたわよ……。て言うか、カズト!何で養護教諭からの贈り物は知ってたのよ?」

 おかしなことにならないようにわざわざ遠ざけていたというのに。

「だって、「受け取ってくれなかった」っていってウチに持ってきてたし」

 しれっと驚愕の事実を吐く。

「ありゃあ、口実にされてたな。完全に」

「ちょっと待ってくださいカズト、その話は私も知りませんでしたよ」

「アキも知らなかったよー」

 にわかに空気が不穏なものになっていく。

「だって、あの時ヤスお隣さんで忙しかったし、アキに言ったらあの人がアヤカの新しいお母さんになってたと思うぞ」

「新しいお母さんっていうのが「離婚して」じゃなくて「二人目の」って意味に使われるのは日本全国探しても我が家くらいのものよね……」

 もうイヤ、アタマ痛くなってきた。

「ま、そんなしけた面するなよ。学校には後10分もすればつくし、軽く飲んでおくか」

 備え付けの冷蔵庫からカズトがワインのボトルを数本取り出す。

「そうですね、祝い事の席ですし」

 ヤスは手際よくワイングラスを4つ並べた。

「じゃあ、景気よくそのピンドンあけようよ!」

「あんた達は本当に入学式に行く気あるの!?」

 いや、或いはコレこそ口実にされているだけだ!

「まあまあ、これから高校生になるお前に飲ますわけじゃないんだから」

 そう言ってかカズは勢い良く注がれたワインを飲み干す。

「そうですね、お酒は大人のほの暗い楽しみなんですよ」

 ヤスは空になったワイングラスに次々に注ぎこむ。

「私は楽しく飲めれば何でもいいんだけどねー。はい、アヤカにはぶどうジュースね」

 あははー、とこちらも流しこむように酒を煽る。

「運転手さん!飛ばして!この駄目な大人たちが酔いつぶれる前に早く!」



「ついたな」

「ついたね」

 馬鹿な方の親二人が何か感慨深く校門の前で仁王立ちしたかと思えば。

「「おえええええええ!」」

 ゲロった。ちょいちょい固形物が見えるが、おそらく朝食だろう。グラタン通り越しておかゆみたいになってる。うっぷ、こっちも吐きそうになってきた。

「あんたたち、ほんとに人の入学式を祝う気あるわけ!?」

 

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