二人のパパ、一人のママ
ノンプロットが辛かったのでお茶濁しにお蔵出し。
日が沈む。空が赤く染まる。ああ、これは夢なのだ。
「おとうさん、なんでうちにはおとうさんがふたりいるの?」
幼い頃の私は二人の父に手を引かれながら河原のあぜ道を歩いていた。
そんな私の至極当然で、日本ではかなり異常な事態に対する質問に二人は困った様子もなく『二人いたほうがお得だからだよ』なんて言っていた。
当時の私は「じゃあなんでお母さんは一人なんだろう。お得じゃないのかな?」なんて軽く考えていたわけで。
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時は過ぎた。私も幼い頃の分別の付かない少女ではなくなっていた。今日、私は女子高生になる。
「懐かしい夢を見た……」
ベッドから体を起こし、やかましく鳴り響く目覚まし時計を止める。ふと長針と短針の位置が気になった。
……時は過ぎた。女子高生になった私は、寝坊で遅刻なんてもっての外だ。
「ち、遅刻する!?おかーさーん!なんで起こしてくれなかったわけー!?」
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「アヤカ、そんなに慌ててどうしたんだ?」
無精髭を剃ろうともしない、朝からリビングで酒をかっくらうどうしようもない方の父ことカズト。通称カズ。
「アヤカさん、慌てなくても入学式は逃げませんよ」
優雅にお茶をすすっているのは我が家の稼ぎ頭、まともな方の父ことヤスアキ。通称ヤス。
「アヤカ、途中で転んじゃうわよ。めっ」
そして愛玩動物の母ことアキ。
「「ヤスとの扱いが違いすぎる!?」」
「うるさい!文句は働いてから言え!」
叫びながら時計をちらりと確認する。
「あ、やば!このままだと入学式に遅刻しちゃう!」
「なに、そんなことで慌ててたのか。ヤス」
カズトはヤスに目配せすると、ヤスは静かにうなずき、
「では、コンコルドの手配を」
「ホワイ!?」
私の学校は地球の裏側になんてない!
「それじゃ校庭に降りれないからだめじゃない」
母はあきれるように二人の父を見て、手を上げ、
「やっぱりハインドよね!」
サムズアップ!
「同レベルか!」
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結局、私が時間ぎりぎりまで粘り、車を出してもらうことになったけれど……。
「なんでハイヤー?なんで外車?なんで3人とも付いてきてるのよ?!」
心の叫びが狭い(といってもほかの車に比べるとかなり広い)車内に木霊する
「入学式なんてのは親が付いていって何ぼだろ」
「カズトが暴れるのを止める役が必要かと思いまして」
「娘と桜をバックに写真を取るのがアキちゃんの夢だったのよねぇ」
「自分達が中学の入学式にそれが出来てたか思い出してみなさいよ!?」