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おともだち

作者: 杜々裏戸

絵本のような物語がテーマ、冬童話2013投稿作品になります。

下書きもせずに考え付くまま、20分で仕上げた代物ですので、荒い部分がありましたらご容赦下さい……orz



「お前はおれが嫌いなんだ」


 狼さんは拗ねたように呟きました。


 ここはとある小さな森、動物たちはみんな仲良く暮らしています。

 狼さんも……狼さんの顔を覗き込む、小さな白ヤギさんもです。


「どうしたの、狼さん。今日はずいぶんご機嫌斜めだね?」


 白ヤギさんは不思議そうに首を傾げます。

 狼さんはむっとして、鼻にシワを寄せました。

 なんて怖い顔でしょう、口から突き出した大きな牙は、今にも白ヤギさんに噛み付きそうです。

 けれど白ヤギさんはといえば、そんな狼さんの目の前で、不思議そうに首をかしげるばかりです。


「お前はおれが怖いんだ」


 狼さんが言います。


「どうして?」


 白ヤギさんは驚いた顔。


「おれがお前を食べるからだ! 一本の毛も残さずに食べて、食べて、残ったお前の骨まで噛み砕くからだ!」


 白ヤギさんはますます分からない顔です。


「どうして?」

「どうしてだって?」

「だって、君はそんなことをしないもの」

「いいや、するさ! しようと思えばいつだって出来る!」


 狼さんは、白ヤギさんの前でカチカチと歯を噛み鳴らしました。


「だっておれは狼だ。ヤギなんてご馳走じゃないか!」

「いいや、君はそんなことをしないよ」


 白ヤギさんはもう一度首を振りました。

 分からない顔になったのは、今度は狼さんの方です。

 困ったように眉を下げて、黒い毛皮に覆われた頭を、凶暴な爪でかりかり。


「何でそんなことが分かるんだよ?」

「分かるとも。だって君は、今まで一度も、ぼくにその爪を振り下ろさなかったもの」


 狼さんは、あわてて爪を背中の後ろに隠します。


「分からないぞ。今すぐこれを振りかぶって、お前のことを八つ裂きにするかもしれない」

「君は、今まで一度も、ぼくにその牙を立てようとはしなかったもの」


 狼さんは、あわてて口を閉じました。

 大きくて鋭そうな牙が、口の中に隠れます。


「分からないぞ。今すぐ大きく口を開けて、お前を頭から丸かじりにするかもしれない」

「しないよ、おかしな狼さん。だって君は、いつだってぼくを食べられたのに、一度も食べようとはしなかったもの」


 白ヤギさんは、それはそれはおかしそうに笑います。

 真っ白で、雪のような毛皮に覆われた、小さなご馳走。

 そのはずです。

 それなのに狼さんは、一度だって白ヤギさんを、おいしそうだと思ったことはありません。

 そうですとも、白ヤギさんのいうとおりなのです。


 困りきった狼さんは、白ヤギさんに背中を向けました。

 いかにも怒っているんだと主張するように、腕を組んで尻尾をぱたぱた振り回します。


「何をそんなに怒っているの、狼さん」


 白ヤギさんがちょこちょこ、目の前に回ってきても、狼さんは座ったまま、すぐに背中を向けてしまいます。


「お前はおれが嫌いなんだ」

「狼さん、さっきもそういったね。どうしてそんなことを思うんだい?」

「だってお前は、一度もおれのことが好きだなんていわないじゃないか」


 そうなのです。

 狼さんが怒っているのは、そのことなのです。


 狼さんは白ヤギさんが大好きです。

 だから白ヤギさんを食べたいとは思わないし、ほかの動物から守ってやりたいのです。

 困っていた助けてあげたいと思いますし、好きだから好きというのです。

 友達なのだから、当たり前です。


 けれど白ヤギさんは、一度もそんなことをいってくれません。

 いつも一緒にいてくれて、困ったときには助けてくれます。

 それでも、白ヤギさんは一度だって、狼さんを好きだといってくれたことはないのです。


「なんだ、狼さん。そんなことで怒っていたの」


 狼さんの訴えに、白ヤギは呆れたような、困ったような、それでいてとても嬉しそうな顔をしました。


「そんなことって、なんだ。おれはお前が好きだから、いつも好きだっていってるのに、お前は一度もいわない」


 つまりお前は、おれのことが嫌いなんだ。

 怒った声で、拗ねた声でいう狼さんの目の前に、ちょこちょこ回って、白ヤギさんは嬉しそうに笑いました。


「ぼくと狼さんは友達でしょう?」

「分かるもんか! おれは、おれを好きな奴としか友達になんかならないんだ!」


 大声でいった狼さんに、白ヤギさんはいいました。

 馬鹿だなあ、狼さん。


「ぼくは君を大好きなんだよ!」




 ここはとある森、動物たちは、みんな仲良く暮らしています。

 狼さんと白ヤギさんも、仲良く暮らしているのです。




読んで頂き有難うございました!

少しでも気に入って頂ける作品になっておりましたら幸いです。


ご意見・ご感想・誤字脱字指摘・批判・アドバイス・リクエスト等ございましたら、どんなものでも大歓迎です!

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― 新着の感想 ―
[一言] なんか「あらしのよるに」みたいですね おもしろくて優しいお話でした! 読ませていただき、ありがとうございました
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