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ぷにぷに のち お姫様

*5/13 突きました。



 ぷにぷにぷにぷに。


「…………」


 うにょうにょ動いているスライムを前に、アレックスは暫し無言だった。

 瘴気が滲み出したという報告のあった村の広間。長閑で平穏だった村のただ中で、スライムは妙な踊り(?)をしていた。


「……焼き尽くせ」


 瞬間、灼熱の焔が立ち昇り、スライムを焼き尽くす。

 だが色取り取りのスライムたちはうにうにしながら次から次へと際限なく湧き出てくる。

 ぷにぷにぷにぷに。うにょうにょうにょうにょ。


「…………」


 ぷーにょぷにょっ。うにににににににっ。


「………………」


 うにっ。スライムが最後のポーズを決めたと同時に、アレックスはぶちっと何かが頭の中で盛大に切れる音を聞いた気がした。


「うがーっ! なんか苛々するっ!」



 その日、村では盛大な篝火が上がったそうな。



 * * * * *



「ただいまー……」


 疲れた顔をして『月の音色』に来たアレックスに、シェルは目を瞬かせた。


「随分お疲れのようね。相手はスライムでしょう?」

「なんか、精神的に疲れた……」


 ぐったりと椅子に身を委ねるアレックスの前に、シェルは茶を出してやる。


「焔をぶっ放したようだけれど、森の中だったらどうするつもりだったの? 生態系が変わってしまうではないの」


 労いはなく、代わりに辛辣な言葉が降ってきた。どのような鋼でも切り裂くという聖剣よりも鋭くぐさぐさと刺さってくる言葉に、アレックスはテーブルに突っ伏す。


「少しは俺に優しさを……!」

「嫌よ。面倒臭い」


 切って捨てられた。一応幼い頃から馴染みがあるというのに、何でこんな扱いを受けるのだろう? 他の人は彼女の営業スマイルと無表情しか知らないから、会話が成立しているだけまだマシなのか?


「それはそれでなんか……」

「何ぶつくさ言っているの? 鬱陶しい」

「…………」


 マシだと思いたい。




「パーティのことのなのだけれど」


 シェルはぴらりとリストを差し出してきた。流麗な文字が白い紙の上に連ねられている。


「どうだった?」

「強い者の名を書き出してみたのだけれど、これがなかなか難しいのよね」


 シェルは考えるように白い指を口元に添える。


「一番有力な剣士がいたのだけれど……」

「だけれど?」

「この間貴族のお姫様と駆け落ちして行方不明よ」

「……は?」


 カケオチ? かけおち。かけおち……駆け落ち?


「護衛として雇われていたようなのだけれど、密かに想いを通じさせ、愛を育み、最終的に周りに祝福されて駆け落ちしたらしいわ。発端は令嬢が彼に一目惚れして押して押して押しまくったことにあるみたい」

「それは駆け落ちなのか……?」

「駆け落ちなのでしょう? その貴族は公表していないし、何よりも当の2人は逃げたわ」


 何処に逃げたかは知っているけれど、2人の蜜月を邪魔するのは気が阻まれるから、彼は除外ね。シェルは剣士の名を横線で消す。

 アレックスはその他の名前に目を通した。剣士、魔法使い、盗賊、弓使い、聖職者……etc.

 ふとアレックスはとある名前で視線を止めた。リリアーナ。その名前に聞き覚えがあり過ぎるほど、アレックスは彼女を知っていた。


「何で王女の名前があるんだ!?」


 この国の王女である少女の名前に声を上げると、カップを傾けていたシェルはしれっと言い放つ。


「魔法使いとして名高い姫だもの。一応候補に考えておいて」

「いやいやいやいや。お姫様が戦場で使えるとは思えない」

「人は見かけによらないのよ?」


 それは身を以って知っている。


「それに、王女が戦場に出てきたがるとは思えない」


 アレックスは何度かリリアーナと顔を合わせたことがある。常に微笑みを絶やさない、可憐な美少女だ。確かに魔法の素質があるとは聞いてはいても、その細く小さな手で戦えるものだとは到底思えなかった。


「けれども、1人で城下に出てくるだけの度胸はあるみたいよ?」


 シェルは小首を傾げてアレックスから視線を逸らした。同時に涼やかな音を立ててドアベルが音を立てる。来客を告げる音に釣られてそちらを見やり――――アレックスは唖然と目を見開く。


「あのぅ……こちらに、シェルという方はいらっしゃいませんか……?」


 波打つ淡い金の髪に、澄んだ琥珀色の瞳の愛らしい少女。

 『楽園』の第1王女リリアーナが、店の戸口に立っていた。




魔物と聞いてまず思い浮かんだのがスライム。

不思議の世界のスライムは踊れます。ポーズも決めるよ!

きいろ辺りがかわいいと思うのです。

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