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32F☆vs宰相ユート

この話で初めて行われる,唯一と言っていいような真面な戦闘階です.

*3/3 一部の誤字修正


 うーさうーさと賽子が転がって行き、4を示す。投げた本人である魔王(ぬいぐるみ)は悲壮な顔をして、悲痛な悲鳴を上げた。


「4……33Fか!」

『やだぁーっ! 吾輩はまだ遊びたいのにーっ!』

「ゴールしてしまうわね」

『やだやだーぁっ! まだ遊びたいーっ!』


 シェルにしがみ付いて駄々を捏ねる魔王(ぬいぐるみ)に、アレックスはこめかみに青筋を立てた。ぺりっと引き剥がし、適当に放り投げると、ちょうど転移魔法が発動して魔王(ぬいぐるみ)の小さな身体は魔方陣の中に吸い込まれてしまった。29Fには『いーやーだぁー……っ!』と、魔王(ぬいぐるみ)の声が断末魔となって響く。


「————次はおにーさんたちの番ですね!」

「早くゴールできるに越したことはないが、5以上が出た場合どうなるんだ?」

「余分な分だけ戻るようになっています!」


 それはつまり、同じ階に行く可能性があるということか。

 とりあえず、アレックスは賽子を振ってみることにした。うさうーさっさっと転がっていく賽子が示したのは3。

 転移魔法が発動し、一同は32Fへと飛ぶ。


「————ようこそ、32Fへ」


 だだっ広い32F。その中央に、ひとりの青年が立っていた。


「私は『黒兎の国』宰相ユートだ。勇者一行を歓迎しよう」


 そう名乗り上げた彼は痩躯を漆黒の衣装を纏い、右目に銀色の片眼鏡(モノクル)を身に着けていた。宰相と言うだけあって洗練された身のこなしで、動作のひとつひとつには無駄がない。

 やはり頭に備わっているうさ耳は彼の金の髪ためにあつらえたためか、煌く金色。他の『兎部隊』とは違って、しっくりと彼に合っていた。

 表情の見えない凛々しい面差しは、シェルと何処か通ずるものがあるような気がして、アレックスは彼女を見た。相変わらず、興味のない冷めた面差しでいる。


「この階では私と闘い、勝つことができればクリアと言うことになる。戦闘方法は問わない、相手を戦闘不能にさせれば、そこで終わりだ。ミミカには審判をして貰う」


 淡々とまるで書面を読み上げるかのように告げるユートは、やはり何処か非現実めいていた。無表情のまま、彼は剣を抜く。細身で片刃しかない、変わった形の剣だ。


 室内に緊張の漂う中、警戒を滲ませるアレックスに、両肩にドラゴンを乗せたシェルが耳打ちする。


「前に渡した魔王の情報の中に、付属として彼の情報を入れてあるわ」

「わかった」


 言われた通りにカードを開くと、彼の情報が飛び出して来た。何でも、他の『兎部隊』とは一線を画す存在で、『兎王の懐刀』と呼ばれているらしい。戦闘能力が高く、身軽な性質で、速さに重きを置いているようだ。


「彼の片眼鏡には、私の情報収集と似た能力があるわ。相手の性質や能力を知ることのできる、優れものよ。彼自身も空間把握能力も高く、魔法の技術もなかなかのもの。彼の闘い方はとても戦略的だわ」


 アレックスは暫し思案した。


「俺が前衛に立つから、リリィが後衛から魔法で攻撃支援を、レンはリリーを護ってやってくれ。シェルは回復と指示を」

「わかった」

「わたくしは兎も角、シェル様はどうなさるのですか? 回復役はより狙われる可能性がありますわ」

「アウラは多少の防御魔法が使えるし、レムは攻撃専攻のドラゴンだ。だからふたりの使役も頼む」

「わかったわ」


 一同が位置に着くと、ミミカは対戦開始の合図を出した。


「ではこれより、挑戦者勇者一行と宰相ユート様の対戦を開始します!」


 開始早々、ユートは踏み込んできた。的確に鋭い急所を狙ってくる剣先を、アレックスは弾いて横薙ぎにする。追撃するようにリリアーナが電撃を放つが、ユートはそれらを後ろに跳躍して避けた。


「アレックス、魔法が来るわ! 受けて!」


 シェルの言葉に、アレックスは剣を構え直した。彼女の言う通り、ユートが魔法により生じた刃を放って来る。

 聖剣を翳して刃を受けるアレックスに、更にユートは切りかかって来た。剣にかかるひとり分以上の力に、アレックスは歯を食い縛る。


「主戦力を先に削ぐのもいいが、やはり魔法使いが邪魔だな」

「————がっ!?」


 腹に蹴りを喰らい、アレックスは身を折った。ユートは剣を揮い、ふらついたアレックスを剣で薙ぐ。


「アレックス!?」

「だ、大丈夫だっ……!」

「ただの峰打ちよ! レンは前を見て! リリィは結界を! 次の攻撃が来るわ!」

「————遅い」


 リリアーナへと目掛けて、真っ直ぐに飛んでいく複数の魔法の刃。反射的にに結界を張るリリアーナだが、刃は結界さえも切り裂いてしまう。近くにいたレンが庇うように前に立つが、角度や速度が微妙に異なる刃は、なかなか防ぐことは容易ではない。先に迫ってきた幾つかは弾くことができたが、更に放たれた刃は捌き切れない。


 シェルは左手首に触れると、嵌めていたカーネリアンのブレスレットを投げた。石にかけられていた魔法が発動し、勇者一行を護るように結界が展開される。幾つもの刃は結界を切り裂くことはなく、それどころか何の躊躇いもなく跳ね返った。


「なっ――――ぐ……ぁっ!」


 咄嗟のことに反応できなかったユートは、何倍にもなって跳ね返ってきた魔法をもろに喰らい、体勢を崩した。その隙を逃さず、アレックスはユートの剣を弾いた。彼の手を離れた剣が空を舞い、硬質な音を立てて床に転がる。


「ちっ……!」


 あまり遠くないところに落ちたその剣を拾いに行こうとしたユートだが、レンの放った短剣がその手に突き刺さる。リリアーナの電撃が、剣を遠くへと弾く。


「アウラ! レム!」

「きゅっ!」

「がぅっ!」


 アウラの放つ冷気とレムの放つ熱気により、室内の空気が不自然に渦を巻いた。急激な温度変化により生じた暴風に煽られ、ユートの身体は壁に叩きつけられる。

 アレックスは暴風から仲間を護るために結界を貼りつつ、固唾を呑んでその様子を窺った。


 長いようで短い時間が流れ————風が収まった。


 軽い脳震盪でも起こしたのか、ユートは立ち上がらない。息を呑んで見守っていたミミカは、はっと我に返ると左手————彼女から向って勇者のいる方の手を挙げた。


「ユート様、戦闘不能! おにーさんたちの勝ちです!」


 ミミカの宣言に、アレックスは息を吐き、剣を鞘に納めた。レンも緊張を解き、肩から力を抜く。

 リリアーナは床にしゃがみ込み、衝撃で紐が切れて散ってしまった水晶とカーネリアンを、ひとつひとつ拾い上げる。白いレースに縁取られた手巾に、丁寧に乗せていく。


「折角の、お揃いでしたのに……」

「元々このために持っていたようなものだもの、仕方のないことだわ。それにあとで修復させるから、リリーが気にすることはないわ」


 そう言うと、シェルはユートの傍らに跪いた。傷付いた彼に手を翳し、治療を施す。戦闘は終わったため、アレックスたちもユートの周りに集まった。

 彼は程なくして意識を取り戻した。


「…………シェル……?」

「リリィが哀しそうな顔をするの。お前にブレスレットの修復を要求するわ」

「……起き掛けにする話か? それは」

「別に彼に要求してもよいのだけれど」

「いや、俺が壊したんだ。俺が直す」


 リリアーナから石を包んだ手巾を受け取り、ユートは苦笑する。

 戦闘前はかなり大人びて見えたユートだが、こうして近くで見ると歳はそう変わらないのかもしれない。アレックスがそう口にすると、彼は複雑そうな顔をした。碧の双眸を細める。


「一体いくつに見られているんだ?」

「え、若くて20代前半?」

「残念、まだ19だ」


 宰相にしては若すぎる彼に吃驚する一同に対し、シェルは首を傾げている。


「何を驚くことがあるのかしら……?」

「さあ……それよりも、陛下から勇者に預かっているものがあるんだが」


 そう言ってユートが差し出したのは、賽子だ。特に変わった所も見えない賽子だが、よく見ると全ての面が1の目である。


「……振る必要なくないか?」

「面倒だろうが付き合ってやってくれ」

「何やっているの。さっさと振りなさい」


 シェルとその肩に乗る竜2匹に促され、アレックスは仕方なく賽子を振った。うささーうささーうさーさーさーと転がって行った賽子は、当たり前だが1を示した。


「ユートはどうするの?」

「一応宰相だしな、俺は後から行く。お前は奴が暴走しないように見ておいてくれ」

「わかったわ」


 32Fはクリアした。遂に残すは33F魔王の部屋のみとなった。





宰相として取り繕っている時には『私』でしたが,

ユート君の素は『俺』が一人称なのです.

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