21F☆ワープ
うさうさうっさーささっと転がっていった賽子は、3を示した。21Fに飛んできた一同は、何もない部屋に訝しんだ。
エントランスのように明かりがつくことも、何かが現れる素振りもない。
「何もないぞ?」
「おかしいな……」
「地図には何と書いていますの?」
アレックスは地図を開いた。肩の上に乗ったアウラが覗きこんでくる。
「21Fだから……」
ぱっぱかぱーんっ!
突然響いたファンファーレに、アレックスたちは身構えた。何事かと振り返った先、そこに一条の光に照らされて、白い兎のぬいぐるみが現れる。
魔王(ぬいぐるみ)とは異なる兎だ。黒いつぶらな瞳の可愛らしい、もふもふの兎。
金色のラッパを吹いていた兎は、何処からとなく立札を取り出した。
『♡(・×・)♡ワープおめでとー♡(・×・)♡』
「ワープ!?」
『ただし、何処に飛ぶかはわかんないよ♡』
意味がよくわからないでいると、ミミカが説明を付け足してくれた。
「転移魔法がランダムで作動して、他の階に飛ぶことができます! 運が良ければ33Fに出ることができますが、下手するとエントランスに」
「つまり、シェルを追いかけるどころか、遠ざかることがあることも……」
『いえーす(・× <)―☆』
兎の立札が忌々しい。いつもと同じように床が光始め、転移魔法が発動する。
唖然とする勇者一行は、有無を言わさずに何処かへと飛ばされることになった。
* * * * *
転移魔法が、発動した。魔王(ぬいぐるみ)と共に移動していたシェルは、はっと貌を上げた。
「————今、アレックスたちが動いたわよ」
つい先程、移動したばかりなのに。シェルの言葉に、魔王(ぬいぐるみ)は首を傾げた。
『そんなわけがない。ひとつの階にしても、最低10分はかかるように作ってあるんだ。それが5分も立たずにクリアする筈がない』
シェルはもっと情報を読み取ろうと意識を凝らす。魔王城見取り図を脳裏に思い描き、アレックスたちの行方を追う。
「彼らがいたのは、21F……確かここは、『ワープ』?」
『運がいいのか悪いのか……何処に飛ぶかわからんぞ』
「製作者だというのに、貴方でもわからないの?」
『ランダムという言葉にときめいた時期もあった』
「若気の至りね」
『そうとも言う』
魔王(ぬいぐるみ)は首を傾げた。倒れ伏している『兎部隊』の上に腰掛けたまま、横に立つシェルを見上げる。
『奴らが何処に飛ぶのか『視え』ないか?』
「無茶を言わないで。私は今現在まで状況がわかるだけ。未来のことは流石にわからないわ」
『なんだ、わからないのか。攻略者の癖に』
「……ぬいぐるみの癖に、生意気な」
『何故、この愛くるしさが理解できないのか……っ!』
泣き崩れる魔王(ぬいぐるみ)に、シェルは深々と溜息を吐いた。死屍累々と辺り一面に倒れている『兎部隊』を見渡す。
「それにしても、なかなか面倒な階ばかりに止まるのね。『兎部隊』との戦闘階は、確か2ヶ所だけだったの筈なのだけれど」
『勇者たちみたいに、もっと楽しい階に止まりたいものだ』
「運が悪いのでは?」
『『月の女神』の声を聴けば、幸運が訪れる筈なんだがなぁ』
揶揄を孕んだ言葉に、シェルは苦虫を噛み潰したかのような顔をした。
「あのようなものなど、ただの迷信よ。阿呆らしい戯言だわ」
『だがそんなことでも、信じる者には幸福が訪れるものだ』
ぴょこんっと『兎部隊』から飛び降り、魔王(ぬいぐるみ)は闊達に笑った。
『ま、何処に飛ぼうとも、奴らは必ずや俺の許に辿り着くだろう。何せ、幸運の声を聴き続けた奴らだ』
「……そうね」
よぅーしっ! 意気揚々と賽子を振ろうとしている魔王(ぬいぐるみ)を眺めていたシェルは、ふと目を瞬かせた。碧い瞳で天井を見上げる。
「あ、『視え』た」
『おっ? 奴らは今何処だ?』
「28Fのもふもふよ。かなりゴールに近付いたわね」
『…………本当に運のいい奴らだな』
ワープはランダムです.
何処に飛ぶのか、それは挑戦者の運次第.




