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Start☆1Fエントランスホール

前回の投稿から1月半も経ってしまったのです……っ!


ああ、水無月が終わろうとしているわ……



 清々しい朝の空気が辺りに漂い、柔らかな日差しが世界を照らし出す頃。

 習慣である鍛錬を済ましたアレックスとレンは『ぷにぷに亭』の食堂にいた。


「もう魔王城に行くんだなぁ」


 しみじみと呟くレンに、アレックスはそうだなーと腕を組んだ。

 早く帰れるに越したことはないが、こうもあっさりしていると妙に不安になってくる。


「あれ? おにーさんたち早いですね」


 厨房で食事の準備に追われていた少女が出て来た。清潔な白と空色を基調としたエプロンドレスを纏った彼女は人がまばらな食堂内を見渡す。


「おねーさんたちはまだなんですね」

「姫はいつもこの時間には既に起きている筈なんだが……」

「ああ、多分それシェルのせいだ」


 意味がわからず疑問符を飛ばす2人に、アレックスは遠い目をする。

 ちょうど、軽い足音が聞こえてきた。リリアーナが何処か困ったような顔をして食堂に入ってくる。


「おはようございます、皆さん」

「おはよ」

「おはよう」

「おはようございます!」


 リリアーナはちらちらと背後――――正確には斜め上、泊まっていた部屋の方を気にしながら口を開く。


「アレックス様、シェル様なのですが……」

「起きないんだろ」

「はい……何度もお声をおかけしたのですが、お布団の中に潜ってしまわれて」


 アレックスは溜息を吐いて立ち上がった。ちょっと起こしてくると言って出ていく。

 それを見送り、リリアーナは席に着いた。さっと少女が温かなお茶を出してくれたので礼を言って受け取る。


「シェルは寝起きが悪いのか?」

「さあ……?」



 15分後、シェルを伴ってアウラを肩に乗せたアレックスが戻って来た。


「ねむぅ……」

「ほら、ちゃんと歩け」

「みゅぅ…………」


 子どものようにぐずるシェルに、リリアーナとレンは我が目を疑った。達観して大人びた面差しと傲岸不遜というに相応しい振る舞いが目立っていただけに、それだけ落差が酷過ぎた。

 覚束ない足取りでふらふらと壁にぶつかりに行きそうになったシェルを、慣れた手付きでアレックスは引き戻す。そのまま椅子まで誘導し、有無を言わさずに座らせた。


「……起きてるのか? 寝ているのか?」

「一応起きてる。目を離すとすぐ寝るけど」

「……そうか」


 純粋に、シェルの幼馴染をしているアレックスを凄い。リリアーナとレンは尊敬の眼差しを送る。

 朝食が運ばれて来て、漸くシェルの意識は浮上してきた。ぱちぱちと目を瞬かせ、少し濃い目に淹れられた紅茶を口に含む。


「……帰りたい」

「ウサブタ捕って来てやるし『楽園』に帰ったら暫く店閉めてもいいから、それまで頑張れ」

「…………わかった」


 力なく頷き、シェルはカリカリに焼かれたベーコンに勢いよくフォークを突き刺した。




 荷物を纏めて一同が食堂に集うと、店主の少女が大きな荷物を持って魔方陣の展開されたステージの上に立っていた。訝しむアレックスたちに、彼女はぺこりっと頭を下げる。


「今回、魔王様よりおにーさんたちの案内を仰せ付かりました、ミミカって言います。改めてこれからよろしくお願いします!」


 少女の放った台詞の意味を測りあぐねていると、シェルは何もなかったかのようにすたすたとステージに上がった。ささっとミミカに促されて3人も魔方陣の中に足を踏み込む。


「勇者御一行様ごあんなーい!」


 魔方陣から眩い光が迸り、視界が真っ白に染まる。いってらっしゃ~いと色取り取りのスライムたちが呑気に手を振っていたような気がした。


 光が消えた時、一同は聳え立つ荘厳な白亜の城のエントランス前に立っていた。



 大人の竜でさえも潜ることができるのではないかと思われる程大きく、ぴったりと閉ざされた扉。

 一行が緊張で顔を強張らせる中、ミミカは慣れた動作で入り口の脇に備え付けられていた呼鈴を押した。うささ~ん、うさささ~んと扉の向こうで間の抜けた音が鳴り響く。


『はいはーい! どちら様ですかー?』

「『ぷにぷに亭』のミミカです! 勇者御一行様をお連れしました!」

『それはご苦労様ですー。今開けますねー』


 和やかなやり取りの後、物々しい音を立てて扉が開く。

 自分は本当に魔王退治に来たのか自身のなくなってきたアレックスは、袖を引かれて振り返った。すぐ目の前に迫っていたアウラの顔に、思わず身を引く。


「早く行って帰りましょう」

「ああ……」


 頭の上にアウラを乗せたシェルに引かれて薄暗い魔王城の中に入る。恐る恐るレンとリリアーナはその後に続く。と、扉が何の前触れもなく閉まった。一気に辺りは暗闇に支配される。


「……暗い」

「今灯りを点けますね」


 そう言ってリリアーナは魔法で光球を作った。柔らかな金の光が部屋全体とはいかなくとも辺りを優しく照らし出す。


「何処をどう行けば魔王の所に行けるんだ……?」

「……アレックス」

「ん?」


 シェルの示す先を見て、アレックスは目を瞬かせる。エントランスホールの中央付近には、子どもならすっぽりと入れてしまいそうな大きさの箱があった。

 早速何かの(トラップ)かと身構える一行の前で、その箱は不意に開いた。中から大量の紙吹雪と共に薄桃の塊が飛び出す。


『――――よく来たな勇者! 歓迎するぞ!』


 意気揚々とそう宣うは、赤いリボンが印象的な薄桃の兎のぬいぐるみだった。ちょうど5歳児と同じくらいの大きさだろうか。かなり偉そうである。


「……なんだこれ」

「魔王よ」

『いかにも!』

『え゛っ!?』


 嘘だろ!? 信じられない思いで3人はぬいぐるみを凝視した。薄桃の兎のぬいぐるみにしか見えないそれは照れたように顔を背ける。

 予めこのことを知っていたミミカは苦笑した。動じていないシェルは気のない冷めた眼差しで口を開く。


「と言っても、彼はこのぬいぐるみを媒介に声だけをこちらに届けて来ているのだけれど」

「本体はこれじゃないのか」

「よかったですわ」


 思わずほっと胸を撫で下ろす一行。こんなのが『楽園』の平和を脅かす魔王の正体だなんて嫌だ。

 ぽてぽてと奇妙な足音を立てながら魔王(ぬいぐるみ)は歩み寄ってきた。


『時間が惜しい。早速本題に入るぞ!』

「ああ」

『吾輩はこれからお前たちとゲームをしたいと思う』

「ゲーム?」

『これだ!』


 じゃじゃーんっ。ライトアップされて浮かび上がったのは、色鮮やかな賽子(サイコロ)だった。自分の背丈の半分程もあるそれを、魔王(ぬいぐるみ)はよいしょっと持ち上げる。


『お前たちはこれから双六で吾輩と勝負するのだ!』


 ルールは簡単。賽子を振って、出た目の数だけ上の階へ登って行く。各階で出されるお題にクリアし、先に進むのだ。


『クリアできなかった場合、1回休みとする。吾輩はこの城の最上階である33階でお前たちを待っている。できるだけ早く登ってくるのだぞ!』


 魔王(ぬいぐるみ)は賽子の重みでよたよたしながらも高らかに笑った。シェルは半眼でその様子を見やる。


「……33階か」


 魔王に辿り着くまでに結構かかりそうだ。


「城にいる間の寝食は私がお世話することになってます! お休みになる時には行って下さいね!」


 軽々と大きな荷物を担ぐミミカに、アレックスは抱いていた疑問を口にする。


「そう言えば、『ぷにぷに亭』の方はいいのか?」

「『ぷにぷに亭』の方はスライム(うちのこ)たちに任せて来たんで大丈夫です! お洗濯にお掃除、はたまたお遣いにお料理もなんのその! 特技は値引き交渉術です!」

「恐ろしく万能なスライムだな……」

「是が非でも、わたくしに作り方を教えて下さいませ!」


 ――――こうして闘いの火蓋は切って落とされた。





魔王城でのプロット。本当に双六にして作りました。


さてさて、魔王と勇者一行、どっちが先にGoalの玉座に着くのか。

はたまた魔王の正体とは!?


スライムのすぺっくが上がりつつあるのです。


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