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この小説には、多少の殺戮描写、また軽い性描写が入ることがあります。
そういったものに嫌悪を覚える方は、閲覧を控えるようお願いします。
喉元に短剣をそっと這わす。
そのまま力を入れようとして――、できなかった。
魂にも脂肪はつくものだと、誰かが言っていた。
「……もう、やめよう」
「……シア?」
少しだけ掠れた声で、彼は私を呼ぶ。
「聞こえなかった?」
彼は身じろぎをして、
「……聞こえた」
小さく答えた。
「どう、返事は」
彼は笑って。
「僕は聞きわけがない方じゃない」
肯定した。
「じゃあ、これで最後ってことだね」
彼はベッドから抜けると、ジャケットを羽織った。
テーブルに札束を置いて、振り返りもせずに出て行った。
「さよなら、アナスタシア。またどこかで」
お決まりの言葉を並べて。
「逢うことなんてもう、忘れてるくせに」
素っ裸のままテーブルを見ると、いつもより少し多めの金額。
札束の下には白いレポート用紙に、一度も見たことはないけれどそれは綺麗な彼の筆跡で、“ありがとう”の文字。
「…………」
ああ、狡いなあ。
彼のお決まりの手段で、常套句で――――ではなかったのかもしれない。
それはあまりにも強引で唐突で魅力的で。
そう、これは確かに、
恋、だった。