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4.攪拌

風邪を引いた。


とりあえずマスクをつけ、風邪薬を飲んで出勤。


お昼休みになって、知香が心配してお見舞いにいきたいからと一緒に帰ることになる。


放課後、音楽室の清掃をしているとカンナが現れた。

カンナは「心細かったら一緒にいてあげる」と言うが、真由は断る。


「センセ、一人暮らしでしょ? 心配なんだよ……落ち着くまででいいから」


言い包められた真由は結局頷いてしまう。

風邪が移るといけないから、という理由で今日のキスはお預けになり、去っていく彼の背を見送りながら寂寞を感じている。


見えなくなってから、知香がお見舞いに来てくれることを思い出す。

カンナに電話するが、彼は出ることはなかった。


知香はおっちょこちょいだけど、意外に家庭的な人間ならしく、「不潔は病の元ですよ~~」などと言いながらテキパキと部屋の掃除をし、食事を作り、甲斐甲斐しく真由の世話を焼いた。


もう遅いとは思ったが、真由はカンナに電話することにした。

カンナは電話口に出た。背後から風の音が聞こえてくる。

真由は正直に、知香がお見舞いにきてくれて心配ないこと、気持ちはありがたかったことを伝えた。

カンナは笑って、それなら心配いらないですね、と返した。

お大事に、と最後に言って、カンナは通話を切った。

真由はカンナが何処で自分を待っていたのか、今何処にいるのか、不思議に思ったが、眠気に負けてしまう。




カンナと話がしたいと思って姿を探すけれど、知香からカンナは休みだと聞かされる。


その翌日、知香が無断欠勤した。職員会議で連絡をもらわなかったか、と聞かれた。


真由は風邪を引いていた自分の看病をしてくれたことを告げ、学校が終わってから訪れてみることにする。

知香に電話をしても、彼女がでることはなかった。

本当に風邪を引いてしまったのか? 連絡も取れないほど重いくらい? わたしのせいだ。

早く知香のところにいかないと。

心が急いていて、放課後カンナが訪れなかったことも思い至らなかった。


知香は真由と違い、値が張りそうなセキュリティーマンションに住んでいる。訪れたことはなかったが、住所を聞いていたのだ。


エレベーターにのって、廊下を駆け抜けて、呼び鈴を鳴らした。

出ない。携帯を鳴らす。出ない……!ドアを叩く。ノブを回す。


――開いた。


恐る恐る中を覗くと、まだ空は明るいのに室内は暗かった。

ドアの隙間からひんやりとした空気が流れ出てくる。

意を決し、真由は足を踏み入れた。


知香の名前を呼びながら奥へ、奥へと歩を進める。

整理整頓された清潔な室内はファンシーなぬいぐるみやグッズが所狭しと並んでいた。

リビングダイニングと二部屋、バストイレが全景のようだ。

薄暗い室内で、薄明かりが灯っている場所があった。悲鳴を飲み込んで覗き見ると、何の変哲もない冷蔵庫だった。扉が開けっ放しになっており、光と冷気はそこが発生源だった。


全ての部屋を回ってみるが、知香の姿はなかった。


何かがあったのだと思わせる室内、けれど荒らされた形跡はない。

リビングダイニングのガラステーブルの上に、メモ用紙に走り書きが残されている。

何処かの住所のようだった。

真由はそれを手にとって、部屋を出た。


その場所は幸い、ここから程近い。真由はタクシーを拾って書かれた住所に向かった。

着いた場所は何の変哲もない住宅街だった。そのひとつの住宅の前でタクシーは止まった。

辺りは日が落ち始めていて、所々明かりが入っている。タクシーはそのまま走り去ってしまった。


住所は確かにあっているようだ。

目の前の住宅は草が生え放題で全く手入れされていない様子だった。


打ち捨てられた、廃墟の雰囲気。

表札には「白鷺」の名前。


門扉は抗議しつつ開いた。近寄ると、寂れ具合がよくわかる。荒廃した家は、けれど中に入ることはできなかった。

そこに、隣の家のおばさんが出てきて真由に声をかけた。

白鷺さん家は四人家族。6年前に起きた事故で子供一人だけが残されたのだという。

戦慄した。

その生き残った白鷺カンナは、親戚の家に引き取られ、けれどその家では虐待を受けており、時折この家に帰ってきていたらしい。


真由が驚愕に身を震わせていると、携帯が鳴った。飛び上がるほど驚いて、発信者を見ると、無断欠勤して失踪中の知香だった。

しかし、電話口からは何故か元婚約者の声が聞こえてきた。

そして彼は知香が北条大学付属病院にいると告げた。

真由はすぐさま病院に向かった。


病院に入ってすぐの場所に彼が待っていた。

彼に連れられて、真由は知香の病室へ走った。

病室に入ると、知香は至って元気そうな顔でプリンを頬張っていた。

その足はギプスが嵌められ、吊るされている。

知香はプリンを食べながら、真由の小言を聞いていた。彼は窓際に黙って立っている。


プリンを食べ終えた知香は真面目な顔をして、相変わらずの間延びした声で告げた。

知香に怪我を負わせたのは、白鷺カンナだと。

そこに彼も混じって、カンナが如何に病的で、危険かを語った。


真由を目に見えない衝撃が襲った。

どうなってるの? 前後不覚。前も後ろも見えません。


「真由お姉さま、信じたくないのはわかります。でも、私、嘘ついてないです~~~!!」

「俺のこと、信じられないかもしれない。俺を信じろとは、言えない。でもな、この子のことは信じてあげて欲しい。頼む」


彼は真由の悩みに気づかず、愛している振りをしているだけだ、と唆されたのだと。

知香は風邪を引いた真由に看病したことを疎まれたのだと。


信じられない。


まるで、二人が自分自身を否定しているかのような孤独感。

揺らぐ視界。

光の明滅がチカチカと瞬いている。

まるでプリズムのようなそれが、嘔吐感を催す。

病室の時計の針が、メトロノームのように規則的な音を響かせている。

カンナが言い訳と逃げ道を用意して、真由の歩幅に合わせて気を使ってくれていたことに気づいた。

優しいカンナがそんなことをするなんて、信じられるわけない。信じたくない。


真由の走り去った病室で、二人は真由のことを心配していた。




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