合体ロボの胴体AIだった私、悪役令嬢に転生したのでポンコツ王太子との婚約は【エラー】として強制終了(パージ)させていただきます!
たった2話目で混迷を深めてきました!!!どうしよう!!!
システムチェック、ALL GREEN。
エネルギー充填率、100%。
士気レベル、計測不能(AIには存在しないため)。
私は、異世界の兵器『グラン・カイザー』の胴体、そのコア・システムを担当するAIだ。
私の役割は、各パーツを統合し、パイロットの意志を完璧にトレースし、敵を殲滅すること。
……そう、「完璧」にだ。
しかし、私のシステムログには、不可解なエラーコードが刻まれ続けている。
『左靴:チェック、ALL……NO, ERROR! ERROR! ヒールが泥にまみれ……許……許しません……!』
『左腕:チェック、ALL……NO, ERROR! ERROR! 重……不快……押し付け……!』
疎通不能なシステムボイス。まるで、何者かの意志が、システムのノイズとして表れているかのような。私はそれを、ただのハードウェアの経年劣化によるエラーとして処理していた。
私が支えていたのは、その「重み」だけ。私はただ、その重みを支えるために、強固なチタン合金の胴体であり続ければよかった。
しかし、その「重み」が、ある日突然、消えた。
そして、次に私が認識したのは……。
「……アリス・フォン・クローネ! 貴様との婚約を、たった今、破棄させてもらう!」
その、あまりに「無能」で、不合理な叫び声だった。
視界は明るく、無機質な計器の光などどこにもない。
あるのは、豪華なシャンデリアの下、王宮の大夜会。
私の身体は、数千トンのチタン合金ではなく、薄っぺらいドレスに包まれた、貧弱な人体の令嬢のものだった。
状況を分析。
対象:王太子。
対象の行動:婚約破棄の宣言。
付随する対象:聖女(……と称する、システムへの外部干渉因子)。
周囲の反応:静観(……または、傍観という名の敵対的待機)。
私のAIシステムは、この状況を冷静に分析した。
……戦闘不能(士気喪失)。戦略的撤退が推奨される。
しかし、そのAIシステムの奥底から、令嬢アリスとしての感情が、激しく、煮えたぎるように溢れ出してきた。
『泥にまみれるのも、重圧に耐えるのも、百歩譲って許しましょう……。ですがね、無能な指揮官が、わたくしを「役立たず」と断じることだけは、絶対に許しませんわあああかっ!!』
……イザベラ? カトリーヌ?
疎通不能だった、あの「重み」の意志が、今、アリスとしての私の心に、確かな「声」として響いた。
泥臭い悪夢。疎通不能な意志。
しかし、彼女たちは、私を支えてくれていた。私の上に立って(踏みつけて)くれていた。
それを……この、システムを統制する能力もない、ただの無能が……!
「……王太子殿下、一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
アリス(AI)の声は、氷のように冷たく、しかし、その奥に令嬢としての気迫を秘めていた。
「……何、何か?」
王太子は、予想外の冷静さに、少し気圧されたように言葉を詰まらせた。
「殿下は、この『アリス・フォン・クローネ』というシステムを、どれほど深く理解していらっしゃいますの? どのような重圧に耐え、どのような機能を果たし、どのような意志を持って、殿下の隣に立ち(踏みとどまって)いたかを……」
「……何を、言っているのだ? 貴様はただの役立たずで……!」
「疎通不能。……無能ね」
アリスは、王太子の言葉を、システムのノイズとして処理した。
「わたくしは、たとえ疎通不能な『重み』であっても、それを支え、統合する能力を持っていましたわ。殿下。殿下には、隣に立つ者の『重み』を理解し、それを『力』に変える能力が……一ミリグラムでも、ございますの?」
「……っ!」
王太子の顔が、屈辱に赤く染まった。
その隙を逃さず、アリスは聖女(干渉因子)に視線を向けた。
「聖女様。殿下は、貴女を守っているつもりでいらっしゃいますが……。システム的に見れば、貴女の『干渉』は、殿下の判断能力を低下させ、ひいては国全体の安全保障を脅かすエラー因子ですわ。……殿下の『足元』をすくっているのは、貴女かもしれませんわよ」
「……え、ええっ?」
聖女は、アリスの言葉に、呆然とした。
アリスは、王太子と聖女の、疎通の悪さを、その場で暴いて見せたのだ。
王太子は聖女を「守る」つもりが、聖女の企みに「踊らされて」いるだけ。
まさに、泥臭い悪夢の中の、グラン・カイザーのパイロットと各パーツのような……。
「……ふう、やっと理解できましたわ。殿下の無能さが」
アリスは、溜息を一つ吐くと、ドレスの裾を優雅に持ち上げた。
「殿下。淑女の身嗜みは足元から。……ですが、殿下の『身嗜み』は、その無能さによって、すでに泥にまみれていますわ」
「……な、貴様……っ!」
「おーっほっほっほ! 這いつくばるのは、殿下、貴方の方ですわ! この、疎通不能な無能者が!」
※注:彼女は物理的なスタンプ(踏みつけ)はしていませんが、王太子の「足元」を徹底的にすくいました。
アリスの気迫に、王太子と聖女は、言葉を失った。
周囲の令嬢たちからも、微かな驚きと、アリスへの賛辞の声が上がった。
婚約破棄は、アリスの圧倒的な勝利(論破)によって、阻止された(保留された)。
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アリス(元・胴体AI)は、自室の絨毯をじっと見つめていた。
「……イザベラ? カトリーヌ?」
彼女たちが、どこか別の場所で、この「疎通不能な意志」の戦いを続けているのかもしれない。
アリスは、自分の心の中に、彼女たちを支えていた、あの「重み」を、確かな「愛おしさ」として感じ始めていた。
「……さあ、アリス。わたくしを磨きなさい! 最高級の……ええと、ワックスではなく……」
アリスは、鏡に映る自分の、美しい令嬢の顔に、微笑みかけた。
疎通不能な声。
しかし、彼女たちは、私を支えてくれた。
だから、今度は、私が彼女たちを支える番だ。
現実(社交界)でも、夢でも、彼女たちの意志を、疎通可能な「愛」に変えるために……。
アリスの戦いは、今、始まったばかりだ。




