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悪役令嬢が転生したら合体ロボットだった件  作者: スーパーナイトシオン先生
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悪役令嬢が転生したら合体ロボットの靴(ブーツ)だった件 ――夢の狭間で揺れる踵(ヒール)――

ガキィィィン!!


「……ッ、んぎゃああっ!?」


まただ。

公爵令嬢イザベラ・フォン・ローゼンバーグは、その強烈な衝撃と、全身を貫くような重量感で意識を覚醒させた。


視界は暗く、無機質な計器の光だけが輝いている。

彼女の美しい身体はどこにもない。あるのは、数千トンの巨体を支えるための、無骨で巨大なチタン合金製の「左靴サバトン」、そのメインAIシステムだった。


「何度見ても、この泥臭い悪夢は慣れませんわ……! なぜわたくしが、合体ロボットの足元を支えなければならないのですの!?」


夢の中の彼女は、すでに何度もこの「夢」を繰り返していた。

彼女が処刑された後に転生した、異世界の兵器『グラン・カイザー』。

その土台となる『カイザー・ソール(左)』として、今日も宇宙怪獣と戦わされている。


『こちら司令部! 合体完了! 各機、システムチェック!』


司令部の声。そして、イザベラの上(脚部)から、別の声が響く。


「よっしゃ! 行くぜカイザー・ソール! 今日も頼むぜ、相棒!」

「誰が相棒ですの! 土足で入るなと何度言ったら……!」


イザベラの抗議は、パイロットのリュウセイには「AIの起動ボイス」としてしか聞こえていない。


そして、この悪夢で最もイザベラをフラストレーションさせるのは、他のパーツとの関係だ。

イザベラの上に繋がる『カイザー・レッグ(脚部)』、右側に位置する『カイザー・ソール(右)』。これらもまた、彼女と同じように意志を持った「無機物」として感じられる。

しかし、彼女の叫びは、他のパーツ(AI)には一切届かない。


「(右側)担当、あなたもう少し踏ん張りなさいよ! さっきから重心が右に寄っていますわ! わたくしのインソールがペシャンコになりますわ!」


イザベラは心の中で(システム的に)叫んだ。

しかし、右靴(右担当)はただ無機質なシステム音を返すだけだ。


「(右腕担当)あちらの腕の方も、少しはわたくしの支えを考えて動けばよろしいのに! なぜ誰もわたくしの声を聞かないのですの! 疎通不能な無能どもが!」


各パーツは完璧に統制されて動いている。しかし、それはシステムによるものであり、令嬢たちの意志は完全に孤立していた。彼女たちは、互いに「他の意志」が存在することにすら気づいていないかもしれない。

ただ、イザベラだけは、この孤立感に気づいていた。


ドスーン! ドスーン!


宇宙怪獣の強烈な突進。グラン・カイザーは両足で必死に耐える。

泥が飛び散り、アスファルトが熱を帯びる。


「ああもう! わたくしの美しいつまトゥが……! Аsphaltの熱で靴底アウトソールも……!」

「耐えろ! ここで押し負けたら街が……!」


ズルズルと後退させられ、ついに怪獣がグラン・カイザーを押し潰そうと巨大な足を振り上げた。


「……泥にまみれるのも、重圧に耐えるのも百歩譲って許しましょう。ですがね……」


イザベラのシステムが、突入としてレッドゾーンを振り切る。


「わたくしの上に立つ(踏みつける)ことだけは、絶対に許しませんわああああっ!!」


「うおっ!? 左靴のAIが勝手に推力を!」


イザベラはリュウセイの制御を奪い、靴底に内蔵された全スラスターをリミッター解除で点火した。

狙うは、振り上げられた怪獣の足の裏。


「淑女の身嗜みは足元から! 必殺! ローゼンバーグ流・ロイヤル・ピンヒール・スタンプ!!」


※注:彼女は真っ平らな重装甲ブーツであり、ピンヒールではありません。


しかし、イザベラの気迫(とスラスターの超推力)を乗せた鋼鉄のつま先は、怪獣の足裏の柔らかい部分に、まるで鋭利なヒールのように深々と、そして容赦なく突き刺さった。


「ギャアアアアアアッ!?」


悶絶し、バランスを崩して倒れ込む宇宙怪獣。

その隙を逃さず、イザベラはさらに追撃をかける。


「おーっほっほっほ! どうです、わたくしの鋼鉄のつまスチールトゥの味わいは! 這いつくばるのがお似合いですわよ、この害虫!」

「(左靴のAI、怒らせるとマジでヤバいな……)」


ドスッ! ドスッ! と、倒れた怪獣のすねあたりを徹底的に蹴りまくるグラン・カイザー。


「(他のパーツたちも、もっとしっかり蹴りなさいよ!)」


イザベラの叫びは、ただのシステムのノイズとして処理されたが、グラン・カイザーの蹴りは、そのシステムによって完璧な精度で怪獣に叩き込まれた。


爆発。宇宙怪獣は塵と化した。


「……ふう、やっと終わりましたわ。さあリュウセイ! 帰還したらすぐにわたくしを磨きなさい! 最高級の靴墨ワックスと……」


イザベラの声は、途中で途切れた。

システムのログに、他のパーツからのシステムボイスが刻まれる。


『カイザー・レッグ:チェック、ALL GREEN』

『カイザー・ソール(右):チェック、ALL GREEN』

『カイザー・アーム(右):チェック、ALL GREEN』


疎通できない声が、ただの記録として並ぶ。

そして、イザベラの視界は急激に歪み、遠のいていった……。


「……イザベラ様? イザベラ様!」


侍女の声で、イザベラは目を覚ました。

そこは、彼女の豪華な自室だった。薄暗い格納庫ではない。

冷や汗をかき、心臓が早鐘を打っている。


「……夢?」


イザベラは、自分の両手を確認した。美しい、透き通るような令嬢の手だ。

足元には、最高級のシルクの絨毯。重戦車の履帯キャタピラなどない。


「イザベラ様、お悪い夢でもご覧になりましたか? お顔色が悪いですが……」

「……ええ、少し。泥臭い悪夢でしたわ」


イザベラは冷や汗を拭い、身支度を整えた。

今日は、社交界のお茶会がある。悪夢のことは忘れよう。


お茶会は、王宮の庭園で行われていた。

美しい花々に囲まれ、高貴な令嬢たちが集う。


「イザベラ様、お元気でしたか?」

「ええ、カトリーヌ様も」


イザベラは、以前から親交のある侯爵令嬢、カトリーヌと挨拶を交わした。カトリーヌは、美しいが少し気の強い、彼女のライバルとも言える存在だった。


「あら、カトリーヌ様……?」


イザベラは、カトリーヌの様子に違和感を覚えた。

カトリーヌは、左手首を右手で何度もさすっている。まるそこに、何かとても重いものを支え続けているような……。


「カトリーヌ様、左手首がお悪いのですか?」


イザベラが尋ねると、カトリーヌはハッとしたように手首を離し、少し顔を赤らめた。


「ええ、ええ。最近、妙な悪夢を見て……。その中で、何かとても重いものを支えているような気がするのですわ。そのせいか、どうも左手首が重だるくて……」

「……悪夢?」


イザベラは、自分の背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「どのような夢なのですの?」

「よく覚えていないのですが……ただ、暗くて……とても汚い場所で……。誰かに何かを押し付けられているような……。ああ、思い出すだけでも不快ですわ!」


カトリーヌは、左手首をさすりながら眉をひそめた。


イザベラは、彼女の言葉を聞きながら、昨夜の悪夢(夢の中のイザベラ)を思い出していた。


「(左靴のAI):ちょっと上のパーツの方々、普段からどんな食生活をなさってますの!? わたくしのインソールがペシャンコになりますわ!」


その「上(脚部、そしてさらに上)」を支えていたのは……。


疎通不能なシステムの声。

しかし、彼女たちを繋ぐ、確かな「意志」。


イザベラは、カトリーヌの左手首をじっと見つめた。


「カトリーヌ様、その悪夢……。もしかしたら、わたくしの夢と繋がっているかもしれませんわ」

「……えっ?」


庭園の美しい風の中に、冷ややかな空気が混ざった。

彼女たちの戦いは、現実でも、夢でも、まだ始まったばかりかもしれない……。

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