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第30話 水の行方

「原因を止める」


 そう言ったあと。


 俺たちは、すぐに王都の外へ出た。


「どこへ向かうんですか」


 セリアが隣を歩きながら問う。


「水源です」


「……水源」


 やはり、すぐには納得していない顔だった。


「この病は、接触では説明がつきません」


 俺は言う。


「同時に、複数の地区で発症している。それも、ほぼ同じ時期に」


 セリアは頷く。


「ええ、それは確認されています」


「なら」


 俺は続ける。


「共通点は一つです」


 一拍。


「水です」


 セリアの足が、わずかに止まった。


「……本気で言っているんですか」


「ええ」


 即答だった。


 セリアは小さく息を吐く。


「水は、毎日使われています。それが原因なら、もっと早く気づいているはずです」


 正論だ。


 そして。


 優秀な人間の思考だ。


「気づけない理由があります」


 俺は言った。


「何ですか」


「見えないからです」


 セリアの目が細くなる。


「……曖昧ですね」


「ええ」


 俺は頷く。


「ですが、合っています」



 王都の外れ。


 大きな水路へと辿り着く。


 上流から水が流れ、街へ入っていく。


「ここが主な水源の一つです」


 レオンが言う。


「飲み水も、ここから引かれています」


「……そうですか」


 俺は水を見る。


 一見、問題はない。


 透明に見える。


 だが。


「下流は」


 俺は聞いた。


 レオンが指を差す。


「街の外に流れたあと、あちらへ」


 視線を向ける。


 そこには。


 人の生活があった。


 洗濯。

 排水。

 そして――


 捨てられた汚物。


 セリアもそれを見る。


「……これは」


 言葉が、わずかに止まる。


「流れている」


 俺は言った。


「上から下へ」


 そして。


「人は、その水をまた使う」


 沈黙。


 セリアは何も言わない。


 ただ、じっと水路を見ている。



「……仮に」


 セリアが口を開いた。


「その水に問題があるとして」


「なぜ、すべての人間が発症しないんですか」


 いい質問だ。


「量と条件です」


 俺は答える。


「弱っている人間、子供、水を多く使う場所」


「そういうところから崩れる」


 セリアは腕を組む。


「……説明としては、筋が通っています。ですが」


 一拍。


「証明できません」


 そこだった。


「できます」


 俺は言った。


 セリアがこちらを見る。


「どうやって」


「分けます」


「……分ける?」


「はい」


 俺は水路を見たまま言う。


「この水を使う場所と使わない場所、その差を見ればいい」


 セリアの表情が変わる。


 完全に、思考が動き始めている顔だった。


「……なるほど」


 小さく呟く。


「比較するわけですね」


「ええ」


「それが一番早い」



 レオンが言う。


「先生、村で見た患者も……」


「ええ」


 俺は頷く。


「同じです」


「水が共通している」


 ルカが笑う。


「繋がってきましたね」


 エレインは静かに周囲を見ていた。


「なら」


 短く言う。


「動きましょう」



 セリアが、ゆっくりとこちらを見る。


 最初の時とは違う目だった。


 疑いはある。


 だが。


 否定はしていない。


「……やってみましょう」


 一拍。


「もし、あなたの言う通りなら」


 視線が鋭くなる。


「この国の医療は、根本から変わる」


「ええ」


 俺は答えた。


「変えます」



 水は、流れている。


 止まることなく。


 上から下へ。


 そして。


 人の中へ。


 見えないまま。


 確実に。


 命を奪いながら。



 原因は、もう見えている。


 あとは。


 止めるだけだ。


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