第27話 出発
隣国、アルヴェリア王国への出発の日の朝。
王都の門の前には、四人が揃っていた。
「おはようございます、先生」
深く頭を下げたのは、青年だった。
元神官。
そして今は、俺の弟子、名前はレオン。
「今回の件、同行を許可いただきありがとうございます」
顔を上げたその目は、落ち着いている。
だが、その奥にある熱は隠れていなかった。
エレインが口を開く。
「彼はアルヴェリア王国との国境付近の出身です。現地の地理にも詳しい」
ルカが続ける。
「それに、優秀ですしね、助手としても使える」
「……ありがとうございます」
レオンは軽く苦笑した。
俺はレオンを見る。
「無理はするな」
「はい」
即答だった。
「ですが、先生の役に立てるなら、どこまででも行きます」
迷いがない。
そのままの言葉だった。
「そうか」
短く返す。
それで十分だった。
⸻
「そろそろ出るぞ」
エレインが言った。
すでに騎乗している。
無駄のない動き。
訓練された兵そのものだった。
レオンが小さく呟く。
「……やっぱりすごいですね」
「何がだ」
「その、立ち姿というか……」
エレインは一瞬だけ視線を向ける。
「そうか」
それだけ言って、前を向いた。
レオンは少しだけ表情を緩めた。
ルカが小声で言う。
「分かりやすいですね」
「……聞こえてます」
⸻
王都を出る。
石畳の道が、やがて土の道に変わる。
人の数も減っていく。
景色が変わる。
それは当然のことだった。
だが。
「……少ないですね」
エレインが言った。
「何がだ」
「人です」
確かに。
街道にしては、人の往来が少ない。
荷馬車も、ほとんど見かけない。
ルカが言う。
「避けてるんでしょうね、この先を」
レオンが問う。
「何があるんですか」
誰もすぐには答えなかった。
⸻
昼過ぎ。
最初の村に入った。
静かだった。
あまりにも。
「……おかしい」
レオンが小さく言う。
家はある。
畑もある。
だが、人の気配がない。
風だけが通り抜ける。
エレインが手で合図を出す。
全員、警戒する。
「中を確認する」
「二手に分かれましょう」
ルカが言う。
「いや」
俺は言った。
「一緒に行く」
理由は簡単だった。
これは、戦闘ではない。
「……了解」
エレインは短く頷いた。
⸻
家の扉を開ける。
中は暗い。
そして。
「……っ」
レオンが息を呑む。
床に、人が倒れていた。
まだ生きている。
だが。
顔色が悪い。
呼吸が浅い。
近づく。
わずかな異臭。
「先生……」
声が低くなる。
俺は膝をついた。
脈を取る。
速い。
脱水。
皮膚の状態。
口腔。
「……水は」
周囲を見る。
器。
中は空だった。
外に出る。
井戸を覗く。
濁っている。
「……なるほど」
小さく呟いた。
エレインが聞く。
「何か分かったのか」
「まだ確定ではありません」
だが。
嫌な予感があった。
「この村だけじゃない」
ルカが言う。
「道中、人が少なかった理由がこれでしょう」
沈黙。
レオンが言う。
「これ……感染症というやつですか」
「ええ」
俺は答える。
「しかも」
一拍。
「広がっている」
風が吹く。
静かな村だった。
だが、それは静寂ではない。
ただ、人が倒れているだけだ。
エレインが言う。
「急ぎましょう」
「ええ」
俺は頷いた。
これは。
想像していたよりも。
厄介なものかもしれない。




