第24話 目覚め
神官長の拘束は、王都に瞬く間に広がった。
神殿が王族に毒を盛った。
その噂は、人々の間を駆け巡る。
市場。
酒場。
通り。
王都のどこでも、その話が出ていた。
「聞いたか?」
「神殿が毒だってよ」
「王女殿下の病も?」
「そうらしい」
人々は口々に言う。
「じゃあ治したのは?」
答えはすぐに出た。
「外科医を名乗る男らしい」
「祈りじゃない」
「治療だ」
王都の空気が変わっていた。
神殿ではなく、
医学。
その言葉が広がっていく。
⸻
離宮。
王女の部屋は静かだった。
窓から柔らかな光が差し込んでいる。
俺は王女の脈を確認する。
安定している。
毒の反応もない。
エレインが腕を組んだまま言う。
「完全に抜けましたね」
「ええ」
俺は頷く。
「もう大丈夫です」
王子が言う。
「そうか」
その時だった。
寝台の上で、王女の指が動いた。
エレインの目が細くなる。
「……殿下」
王子が振り向く。
王女の瞼が、ゆっくり開いた。
光を見つめる。
数秒。
そして小さく言う。
「……兄様?」
王子が息を呑む。
「リシア」
王子は寝台の横へ駆け寄る。
王女はゆっくり周囲を見た。
そして言う。
「ここは……」
王子の声が震える。
「離宮だ」
「もう大丈夫だ」
王女はゆっくり息を吐いた。
「……長い夢を見ていた気がします」
沈黙。
王子は俺を見る。
そして言った。
「この男がお前を救った」
王女の視線がこちらへ向く。
俺は軽く頭を下げた。
王女はしばらく俺を見ていた。
やがて小さく微笑む。
「ありがとうございます」
静かな声だった。
だが、その言葉は重かった。
エレインが小さく笑う。
「王都が騒ぎになりますね」
ルカが窓の外を見ながら言う。
「もうなってますよ」
俺は肩をすくめた。
「人の命が救えたなら悪くない」
王子は俺を見て言った。
「この国は変わる」
窓の外では、王都のざわめきが広がっていた。
神殿の時代。
祈りの時代。
それは終わり、
新しい時代が
静かに始まろうとしていた。




