第21話 神の奇跡
神殿前広場はざわめきに包まれていた。
神官。
市民。
貴族。
すべての視線が集まっている。
神官長は黙っていた。
その表情は崩れていない。
やがて男は言った。
「……なるほど」
静かな声だった。
「よく準備しましたね」
広場が静まる。
神官長は続ける。
「灰紋草、調薬記録、証言」
ゆっくりと俺を見る。
「ですが」
その声は落ち着いていた。
「それが何だというのです」
ざわめきが止まる。
神官長は言った。
「灰紋草は薬草です。毒にもなれば、薬にもなる」
神官たちが頷く。
神官長は続ける。
「神殿は薬を作る。それが罪だと?」
広場の空気が変わる。
神官長は言った。
「王女の病は呪いです。灰紋草とは無関係。その薬草を悪用して、神殿を陥れようとしている。」
群衆の間にざわめきが広がる。
「確かに」
「薬草だろ」
神官長は静かに笑う。
「医学は便利ですね、毒を作り、それを神殿のせいにする。」
その目が俺を見る。
「あなたのように」
広場がざわめく。
神官長は言った。
「王子殿下、この男は危険です。神の奇跡を否定し、神殿を破壊しようとしている」
沈黙。
群衆の空気が揺れる。
その時だった。
「違う」
俺は言った。
広場が静まる。
俺は灰紋草を持ち上げる。
「神官長」
一歩前へ出る。
「灰紋草は薬にもなる。その通りです。」
神官長は黙っている。
俺は続ける。
「ですが、王女に使われた量は薬として使う量ではない」
広場が静まり返る。
俺は言う。
「毒です」
神官長の目が細くなる。
俺は書類を指す。
「この記録、灰紋草の量、王女の症状」
一歩前へ。
「すべて一致する」
沈黙。
俺は続けた。
「そして」
王子を見る。
「王女は回復しています」
広場がざわめく。
神官長が言う。
「祈りのおかげです」
俺は首を振る。
「違う」
静かな声だった。
「回復魔法です」
広場が凍りつく。
神官長の表情が、初めて変わる。
俺は言う。
「祈りではない、治療です」
群衆がざわめく。
神官たちも動揺している。
俺は言った。
「神官長」
その目を見る。
「王女はあなたの祈りでは治らなかった」
沈黙。
俺は続ける。
「俺が治しました」
広場が揺れた。
神官長は黙っている。
王子が一歩前へ出た。
その声は広場に響いた。
「神官長、彼の言っていることは事実だ、全て私がこの目で見た。」
王子の目は冷たい。
「王族に毒を盛った、その罪」
一拍。
「どう説明する」
神官長は、しばらく黙っていた。
やがて。
小さく笑う。
その目は冷たかった。
「面白い」
静かな声だった。
神官長は言った。
「ですが、まだ終わっていません」
広場の空気が張り詰める。
神殿と王族。
祈りと医学。
その戦いは、まだ終わっていなかった。




