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第1話  祈りは金で、命は運だった

はじめまして。

本作は「医療の概念がない異世界」に、

現代日本の外科医の知識が入り込んだら何が起きるかを軸にした物語です。


序盤はやや理不尽が続きますが、

その分、後でしっかり回収します。


※本日は【第4話】まで投稿しています。

よろしければ続けて読んでいただけると嬉しいです。


俺は神殿に仕える見習いだ。

 正式な神官ではない。祈祷を行う資格も、治療に口を出す権限もない。


 仕事は雑用ばかりだ。

 聖水の補充、香草の仕分け、祈祷場の清掃。

 患者には触れるな、神官の邪魔をするな――それだけを叩き込まれてきた。


 神殿は白く、清らかで、誰からも尊敬されている。

 少なくとも、外から見れば。


「そっちは平民用だ。貴族用と混ぜるなよ」


 神官に言われ、俺は棚を見た。

 同じ聖水でも、札の色が違う。

 貴族用の瓶は厚く、香草も新しい。


 理由は分かっている。

 寄進金の額が違うからだ。


 だが、それを疑問に思ったことはなかった。

 それが、この世界の“当たり前”だったから。


 床に敷かれた藁の上で、少年が血を吐いていた。

 腹を刺され、息が浅い。


「寄進は?」


 神官が淡々と確認する。


「……一回分だけだ」


 一回分。

 つまり、祈りは一度きり。


 祈祷が始まる。

 神の名が唱えられ、淡い光が降りる。


 ――だが、血は止まらない。


「神の御心だ」


 神官はそう言って、帳簿に印を付けた。


 完了。


 治っていないのに。


 その瞬間、胸の奥がざわついた。


 ――違う。

 それじゃ、助からない。


 視界が歪む。

 血の匂いとともに、知らないはずの記憶が流れ込んできた。


 白い部屋。

 眩しい照明。

 怒号と指示が飛び交う場所。


 俺は――外科医だった。


 三十八年間、人を祈らずに治してきた記憶。


 考える暇はなかった。

 体が、勝手に動いた。


【対象:腹部外傷】

【致死リスク:高】

【対応:止血優先】


 理解した。

 ――助かる。


 俺は祈らなかった。

 ただ「治す」と決めた。


 淡い光が走り、血が止まる。

 少年の呼吸が、ゆっくりと安定した。


 周囲が凍りついた。


 少年は助かった。

 だが――誰一人として喜ばなかった。


「……帳簿と、違う」


 神官の一人が、低い声で言う。


 神官長が、俺を見る。

 まるで、商品に傷を付けた者を見る目で。


「見習い。明朝、説明をしてもらう」


 助けたはずなのに、

 俺は――裁かれる側になっていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次話から、神殿側の反応と「違和感」の正体が少しずつ明らかになります。


引き続きお付き合いいただけると幸いです。


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