第12話 消えない違和感
異変は、小さかった。
王女の容体が安定してから、三日目の夜。
離宮の一室で、俺は経過を確認していた。
呼吸。
脈拍。
皮膚の色。
いずれも、問題ない。
……はずだった。
寝台の上で、王女の指が、わずかに震えた。
「……っ」
呼吸が、一瞬だけ浅くなる。
俺は、すぐに手を伸ばした。
体内の流れを“見る”。
毒は、ほぼ抜けている。
臓器も、回復過程にある。
だが――
微量の反応があった。
「……残りかす、ですね」
王子が、即座に反応する。
「再発か」
「いいえ」
俺は首を振った。
「解毒後の反応です。想定内です」
⸻
【状態:解毒後反応】
【致死リスク:低】
【対応:神経調整】
神経の過活動だけを、軽く抑える。
数十秒。
王女の呼吸は、すぐに落ち着いた。
「これで、問題ありません」
王子は、目に見えて安堵した。
「……あなたがいなければ、今頃」
「ええ」
エレインが、静かに言葉を継ぐ。
「“呪いの再発”とされていたでしょうね」
王子は、唇を噛みしめた。
⸻
だが。
俺は、王女の手首から、視線を離さなかった。
「……おかしい」
「何がだ」
王子が問う。
「灰紋草の毒素は、ほぼ抜けています。にもかかわらず、反応が出た」
「つまり」
「完全に終わっていない」
部屋の空気が、静かに張り詰める。
「……まだ、体内に入っている可能性がある」
王子の顔色が変わった。
「それは、どういう」
「今日、何を口にしましたか」
王子は、すぐに答えられなかった。
「食事は、いつも通りだ」
「神殿が用意した滋養薬も……」
その言葉で、繋がった。
「滋養薬です」
「……何?」
「灰紋草は、この国では薬草として扱われています。微量なら、毒ではないと信じられている。」
俺は、淡々と言った。
「長期摂取で毒になることを、知らなければ」
沈黙。
それは偶然か。
それとも――。
⸻
エレインが、低く言った。
「神殿の薬が、王女の口に入っていた」
「ええ」
「それが原因だとすれば」
言葉は、続かなかった。
だが、答えは一つしかない。
⸻
「王子殿下」
俺は、はっきりと言った。
「王女の食事と薬は、今後すべてこちらで管理してください。神殿の関与は、止めるべきです」
王子は、しばらく黙っていた。
そして。
「……分かった」
短く、しかし重い返事。
「これは、事故ではない可能性がある」
「ええ」
「調べさせる」
その目には、王族としての冷静さと、
兄としての怒りが、はっきり宿っていた。
⸻
部屋を出たあと。
エレインが、小さく息を吐く。
「再発ではなく、“継続”上手いやり方ですね」
「ええ」
「祈っている限り、気づかれない」
俺は、廊下の先を見る。
「……だから、呪いに見える」
祈りを信じる者ほど、
原因から目を逸らす。
この国の“常識”が、
誰かにとって都合のいい形で、使われている。
それが、はっきり見え始めた。
王女の命は、救われた。
だが――
事件は、まだ終わっていない。




