表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼっちの俺、パーティを組めないのでモンスターと組みました  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

第11話 ほどく者 ― 王都に潜む断絶 ―

 「……また、風が止んだ」


 朝の王都。

 市場を行き交う人々が足を止め、空を見上げていた。

 音のない風――それは、〈風の記録庫〉の異常の再来を意味していた。

 けれど今度は違う。

 空の青が、薄く裂け始めている。


 俺はギルドの屋上から、その裂け目を見ていた。

 昨日、糸の海で原初竜に会い、“結び手”の名を授かった。

 だが同時に、竜はこうも言った。


 ――“ほどく者”が現れる、と。


 「リオ!」

 階段を駆け上がってきたカイルが、息を切らせながら叫ぶ。

 「議会の封蔵課が……動いた」

 「動いた?」

 「王都中の封蔵庫を“封鎖”した。市民避難の名目でな。

  けど実際は――“お前の糸を追っている”」


 背筋が冷たくなる。

 「俺を、狙う?」

 「いや――“お前とシルを切り離す”つもりだ」


 シルが肩の上で小さく震え、「キュル」と鳴いた。

 導糸が、恐怖と拒絶を同時に伝えてくる。


 「どこでそんな命令を?」

 「封蔵課ではない。議会でもない。

  上層――王家直属の**特別封印局コード・ゼロ**だ」


 初めて聞く名だ。

 「彼らは封印術の最古派。

  “織り”を否定し、“糸”は支配されるべきだと考えている。

  ……そして、そいつらの頂点にいるのが――」

 カイルが言葉を止めた。

 彼の視線の先、屋上の階段の影。


 「――その男だ」


 階段の上に、一人の男が立っていた。

 黒ではなく、灰色の外套。

 その裾から、銀の糸が垂れ、ゆらゆらと揺れている。

 目は深い藍。

 だが、瞳孔の奥に“虚無”があった。


 「……はじめまして、“結び手”。」

 男は微笑む。

 「私は“ほどく者”。

  名は、ルディアス=フェン。――封印局の長だ」


 彼の周囲の空気がひとつ、ふたつと切り裂かれていく。

 まるで世界の“線”そのものが、ナイフで削がれているようだった。


 「リオ=クラフト。

  君の“織り”は美しい。だが、美は往々にして“束縛”だ」

 「……束縛?」

 「結ぶことで、世界は固定され、形を失う。

  わたしは“元に戻す”だけだ――“無”の自由へ」


 ルディアスが指を鳴らす。

 途端、導糸がひと筋、勝手にほどけた。

 痛みが胸を突き抜ける。

 シルが苦鳴を上げ、「キュルゥッ!」と叫ぶ。

 導糸の先端が、無理やり裂かれていく。


 「やめろ!」

 俺が叫ぶより早く、ルディアスは静かに告げた。

 「お前とその竜核体を結ぶ糸は、神話の欠片。

  ゆえに切れば、世界が少し“軽くなる”」


 カイルが即座に抜刀した。

 「動くな、“封印狂い”!」

 ルディアスは視線をカイルに向けもせず、笑った。

 「査察官。お前はまだ、糸の半分しか見ていない。

  ――封蔵課の創始者が誰か、知っているか?」


 空気が凍る。

 「……まさか」

 「そう。“織り王”だよ。

  我々“ほどく者”は、彼の残した失敗を正すために生まれた」


 俺の中で何かが弾けた。

 “織り王”――原初竜の友であり、編術の祖。

 その理念を否定する存在が、同じ糸から生まれた?


 「つまり、あんたたちは“織りの否定者”じゃない。

  ――“反対の面”だ」

 ルディアスは目を細める。

 「正解だ。

  だからこそ、お前は危険だ。“対”の片翼は、もういらない」


 刹那、銀の糸が彼の指先から放たれた。

 空気が悲鳴を上げる。

 俺は導糸を展開し、即座に防御結びを走らせる。

 〈導糸:環結び(リング・ノット)〉

 〈反転:位相保護〉

 光が弾け、火花が散る。


 カイルが飛び出し、斜めに剣を振るう。

 「行け、リオ!」

 「待て、あんた一人じゃ――!」

 「構うな! あいつは封印師だ、俺の剣じゃないと止まらん!」


 ルディアスの唇が歪んだ。

 「剣で、糸を断てると思うか」


 次の瞬間、カイルの周囲の空気が“消えた”。

 音も、風も、重力すら。

 カイルの体が宙に浮き――そのまま静かに“消える”。


 「……っ!」

 「安心しろ。消滅ではない。

  ――“ほどかれた”だけだ」


 胸の中が燃えた。

 怒りと恐怖と、焦燥。

 導糸が勝手に広がり、シルが強く光を放つ。

 〈……リオ、戦って。わたしたちは“結び手”〉


 「わかってる」

 俺は杖を構え、地に突き立てた。

 〈導糸:縫合結び(スティッチ・ノット)〉

 〈連環:双心律動ツイン・ビート


 銀の糸と俺の糸がぶつかり、世界が歪む。

 空の裂け目が広がり、王都全域が震えた。

 その中心で、ルディアスの声が響く。


 「織りとほどき。

  どちらかが滅びねば、この世界は閉じぬ」


 「なら、俺は“繋ぐ”ほうを選ぶ!」


 杖から放たれた光が、銀の糸を貫く。

 ルディアスの外套が裂け、白い糸が宙に散る。

 だがその笑みは、崩れなかった。


 「それでいい。……次に会うとき、選べ、“結び手”。

  糸を守るか、人を守るか――」


 風が巻き起こり、彼の姿は煙のように消えた。


 静寂。

 王都の空がわずかに青を取り戻す。

 しかし――カイルはいない。


 シルが俺の袖を引いた。

 〈リオ……〉

 「わかってる。

  カイルは“ほどかれた”。

  ――なら、必ず“編み直す”」


 その言葉と同時に、導糸が再び震えた。

 遠くの空で、見えない糸が千切れる音。

 世界の“折り目”が、静かに悲鳴を上げていた。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ