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それを言ってはいけない

 ーレオナー


 朝や寝る前……この時間は私は嫌いだ。

 勿論それには理由がある。


 翌朝、私は部屋で着替えながら周りを見渡すとエリサやシェイラ、ノクス先輩が着替えている。

 別にそれ自体はいいのだが問題は彼女達にある。


 私は三人の胸元に目をやると、たわわに実ったバストが揺れ動く。


 対する私の胸はささやかな膨らみが見て取れる程度……。

 おまけに背も一年のシェイラのほうが背も高いという始末。


「はぁ……」


 私は深くため息をつけながら自分の小さな胸をペタペタと触る。


「なんやレオナ、朝からえらい不機嫌そうなため息を付きよるなあ。そないなことより、はよ着替えんと朝ごはん食べる時間無いなるで」


「おおかた、レオナは自分の背の低さと胸の小ささを嘆いておるのだろう。しかし、いくらワシとてお前の背の低さと胸の小ささはどうにも出来んぞ。しかし、こんなモノ()ただの脂肪の塊だ。邪魔でしかない」


 ノクス先輩はため息を付きながら自分の胸を手で揺らしてみせる。


 く……!胸が大きいからって見せびらかして……!


「せやな……。肩も凝るし男共からイヤらしい視線を向けられるしでホンマ嫌やわ……」


「そうですね……足元も何気に見にくくなりますし、何より弓を引く際にも胸が邪魔になるんですよね……。矢を放った時の弦が胸に当たった時の痛みと言ったらもうかなりのものですよ……」


 ノクス先輩に続き、エリサやシェイラもまたため息を付きながらそれぞれ自分達の胸を見下ろす。


 そんなものは私からすれば贅沢な悩みだ。

 皆には持たざる者の気持ちは分からないんだっ!


「しかし、その点レオナは羨ましいな。ワシらのように然程肩も凝らんだろうし、動くにも邪魔になるまい」


「ホンマや。出来るものならこの胸をレオナにあげたいくやいや」


 ノクス先輩とエリサはそう言い、さらにシェイラもまた私の胸へと視線を向けてくる。


「三人共、私にケンカを売っているのなら買うぞ……?」


「ま……まあまあ……、レオナ先輩落ち着いてください」


 コメカミをヒクヒクとさせながら引きつった笑みを浮かべていると、苦笑するシェイラに私はなだめられながらも着替えを済ませた後に、朝食を摂るため食堂へと向かった。



 ◆◆◆



 女子寮を出て食堂へとたどり着くと、そこには様々な種族の多くの男女の生徒の姿があり、とても賑わっていた。

 この食堂はバイキング形式となっており、どの種族が何を食べても問題ないような調理方法が取られているらしい。


 普段は各学科ごとの祭服に身を包んでいる生徒達は課外授業だからか、冒険者ギルドが学園へと卸している各学科に対応した冒険者の服を身にまとい、それぞれ思い思いの食事をトレーの上に置かれたお皿へと入れている。


 かく言う私も、今日は制服ではなく剣士用の厚手の冒険者用の服にマント、そして折りたたみ式の小型双眼鏡や王宮セットなどと言った小物を入れるポーチに腰には剣を差しこの場を訪れている。


「さて、今日の朝ごはんは何かな~?」


 先ほどまでの胸に関する不機嫌さはどこへやら……私は漂ってくる美味しそうな料理の匂いに上機嫌になりながら料理が並べられている場所へと向かった。


「あいつ……ホンマ食べ物を目にすると、どない不機嫌な時でもすぐに機嫌が直りよるな……」


「それだけレオナは単純だと言うことだ」


「あは……あははは……お二人とも、流石にそれはレオナ先輩に失礼なのでは……?」


 エリサとノクス先輩が何か言っているが、そんな事は気にしない。


 私は早速トレーとお皿を取ると、並べられている料理の数々に目を輝かせる。


 今朝のメニューは、ウインナーにスクランブルエッグ、一口ハンバークにナポリタンスパゲティ、あとは白身魚のマリネに野菜サラダ、さらにスープにパンなど様々な料理が所狭しと並んでいる。


 私は様々な料理を次から次へと取っては自分のお皿へと入れていくと偶然にもハルトとロガン、それに確かハルトのルームメイトであるリース、ルシアン達とばったり会ってしまった。


 ここは女子寮と男子寮の間との中間に建っているし、男女どちらも利用できるので勿論会うこともある。

 それ自体は問題はないのだが、ハルトは私がお皿へと取っている料理の量を見ると少し苦笑していた。


「なに……?」


「いや……相変わらずよく食べるなと思って……」


「ふ……ふん……。朝ごはんは一日の基本だ……。しっかり食べないと課外授業に差し支える」


 苦笑するハルトに私は顔をやや赤くしながらそう答えた。


 このお皿に山盛りになってしまっている料理を見れば分かる通り、私はどちらかというと少しくらい(・・・・・)よく食べる方だと思う。


 しかしながら、今更ハルトに知られたことでどうと言うことはないのだけど、少しはハルトの視線は気にはなる。


 特にお腹周り。


(太ってないよな……?)


 軽く自分のお腹を摘んでみるとまだ大丈夫みたいだ。


「お、レオナちゃんやないか。今日もちっこくてかわええな~。しかし、そない沢山メシ食うとるのにちっとも背が伸びへんなぁ~……。おまけに胸にも栄養が行ってへんで?」


 ムッカーー……っ!

 人が一番気にしていることを……っ!


 リースは私の持つ料理と私の背を見比べては不思議そうな顔を浮かべていた……が、その発言が私をブチギレさせる。


 私に対して背や胸の事は禁句なのだっ!


「誰が断崖絶壁の貧乳まな板でちっこい豆タンクだーーーっ!!」


「~~~~……っ!?」


 私は力の限り足を振り上げると、リースの股間へとつま先をめり込ませると、リースは声にならない声を上げながら悶絶していた。


「リースさん、今のはあなたが悪いですね。女性に対してあの発言はいただけません」


「そうだな……リース、今のはお前が悪い……」


「お……おおぉぉぉぉぉーーーー……っ!!」


「ふんだ……っ!」


 髪をかき上げるルシアンとロガンに咎められながらも、股間を抑えたまま痛みのあまりうずくまるリース。


 彼らを尻目に私は肩を怒らせながらお皿に盛った食事を食べるためテーブルへと移動したのだった。

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