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大切なもの……?

 僕とリースはドアの方へと目をやるとそこには一人のエルフの姿があった。


「何ですか騒々しい……。部屋の外までリース先輩の怒鳴り声が響いていましたよ」


 そう言う彼の名前は「ルシアン・エゴリュクス」


 ハンター科の一年で、見た目だけ見れば緑色の長髪の爽やかなイケメンなのだが、その正体は自分大好きなナルシスト。


 常に鏡を手に持ち自分の姿や身だしなみをチェックしている。


「なんや、ルシアンやないか。丁度ええ、お前にもこのハルトのアホさ加減聞いてもらおうやないか!」


「ちょ……っ!?」


 リースはルシアンへとこれまでの経緯を大雑把に話しだした。


 ルシアンは恋愛事となると変にめんどくさいんだよね……。

 しかし、そうは思うもリースの話を聞いたルシアンは軽くため息をつくと爽やかに自分の緑色の前髪をかき上げた。


「ハルト先輩……それは愚かな事をしましたね……。女性が自ら告白をすると言う事は私達男がするのとはまた違います。分かりますか?」


「は……はあ……」


 「それじゃあほなな」無責任にと言い残し、僕の下から離れていくリースに代わってルシアンはどこからともなく取り出した手鏡で自分の顔を確かめながら僕の方へと歩み寄ってくる。


 このように自身の身だしなみや丁寧な言葉遣いから女生徒に人気なのだが、実際には女子よりも自分が大好きなので自ずと女生徒の方が引いていってしまう程。


 しかし、なぜか恋愛に関しては詳しいらしく、相談すればアドバイスは貰えるものの終始自身の美しさの話で終わってしまうとか……。

 そのため彼に恋愛相談をするの者は少ない。


「もっとも、ハルト先輩の気持ちも分からなくもありません。ご覧くださいご自身の姿を……。そのボサボサでロクにセットもされていない髪……そしてその流行からは程遠い黒縁の眼鏡……。そのような冴えない容姿では彼女の告白には応えられない……。つまりはそういうことなのですね」


「いや……そうじゃなくて……」


 と言うか冴えなくて悪かったな……!


 くそぉ……リースめ……!

 ルシアンを変にその気にさせて自分はとっとと逃げたな……!


 僕は恨みにも似た目でリースを見るも、彼は知らないと言わんばかりによそを向いて口笛を吹いていた。


「ここは私のようにまずは髪の毛をサッパリと整え、眼鏡もオシャレなフレームに変えることで私のように自己肯定感を上げることが出来ますよ。見たください、私のこの美しい髪の毛を、そしてこの体を……!」


 ルシアンは再び髪の毛をかき上げたかと思うと今度はシャツのボタンを外し、自らの肉体美を見せつける。


 それは程よく引き締まり、無駄な贅肉などない細マッチョな体だった。


 と言うか……。


「そうじゃなくて……!」


「さあ!ハルト先輩も私のように体を鍛えて美しくなろうではありませんか!そうすれば何臆する事もなく女性からの告白を受け止めることが出来るだけでなく、ご自身からもその幼馴染の女性へと愛の告白が出来るような自信が持てますよ!」


 ルシアンは両手を広げて胸元を開けさせたまま僕の目の前まで迫ってくる。


 そして彼が近づいてくるほどに彼の体からは香水の匂いが漂ってきていた。


「ひ……ひいぃぃぃぃーーーー……っ!?」


 逃げようにも僕は椅子に座っているため逃げ場がない……!

 まさに絶体絶命だった……っ!


 このままではルシアンからの熱い抱擁を受けてしまうっ!

 何が悲しくて男からの抱擁を受けないといけないんだっ!?


 その様子がおかしいのか、リースはお腹を抱えて笑い転げていた。


 これは何かの罰なのか……っ!?

 くそぉ……!リースめ後で覚えてろ……!

 

「その辺にしといてやれ、ルシアン」


 今まさにルシアンからの抱擁をされようとしたその時、部屋の右側にある二段ベッドの上からリースやルシアンとはまた別の男子生徒の声が聞こえてきた。


「ロガンさん……?」


 彼の名前は「ロガン・ロックハート」。


 剣術科三年のハーフドワーフで、僕とレオナ、それにエリサの幼馴染で銀髪のオールバックが特徴的な一つ年上の兄のような存在だ。


 この部屋は僕とリースにルシアン、そしてロガンさんの4人で生活をしている。


 ロガンさんは苦笑しながらルシアンへと言葉を発すると、ルシアンはシャツのボタンを止めながら僕の下から離れていった。


「た……助かった……」


 僕はホッと胸を撫で下ろすと、ルシアンの代わりに今度はロガンさんが僕の元へとやって来た。


「ハルト、あまりとやかく言う気はないが、大切なものは近くにある時は気が付かないものだ。失ってからその大切さに気がつく。それだけは覚えておけ」


「は……はあ……」


 ロガンさんはそれだけを言うと僕から離れていくも、この時の僕はロガンさんの言っている意味がまるで分からなかった。 


 と、その時この部屋にいる全員のマナフォン(MP)からメールを受信した音が鳴り響いた。


(何だろう……?)


 僕はMPを開いてメールを確認すると、それは明日からの課外授業に関する学園からのメールだった。


「学園から課外授業のメールやな。ワイは……狼の討伐やな」


「ふ……私はキノコ採取のようですね」


 リースとルシアンは届いたメールを確認する中、僕もまた学園からのメールを確認する。


「僕は……ゴブリンの討伐か……」


「俺もハルト達と一緒のようだな」


 僕()……?


 どういう事だろうと思いながら課外授業のメンバーを確認すると、僕とロガンさんの他にレオナとルミナの名前もあった。


(げ……レオナとルミナも一緒なのか……)


 レオナとは今日なんだか気まずい感じで別れたし、ルミナもまた罰ゲームとは言え、告白して断られてるんだよなぁ~……。


 僕は気まずい気持ちを引きずったまま明日からの課外授業へと臨むのであった……。

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