寮の愉快な仲間達
ハルトと別れた私は学園の寮へと戻ると割り当てられた部屋のベッドへと立つ。
グレイス学園は全寮制の学園で、男子寮、女子寮と分かれて建っており、一部屋につき4人の生徒が暮らしている。
私がいるこの部屋も例に漏れず4人一部屋となっている。
それはいいのだが……。
「何がズッ友だーーっ!!」
私は二段ベッドの下の段にある自分のベッドへと鞄を投げつけるとそのまま不貞腐れたようにベッドへと倒れ込む。
「なんや、帰ってきたと思ったらずいぶんとご機嫌斜めやな……」
上の段のベッドにいたエリサが覗き込むようにして私へと話しかけてきた。
「何かあったんですかレオナ先輩?ボクでよければお話聞きましょうか?」
「ワシもそこまで暇ではないのだが、お前の相談位は乗ってやらんこともないぞ?」
その後シェイラ、ノクス先輩の順で私へと話しかけてくる。
シェイラ・ムーンハウル。
白髪のサイドポニーの髪型をしたハンター科1年の犬の半獣人でボクっ娘な女の子。
割と素直な性格の子で、思っていることがすぐに顔に出てしまうらしい。
もっとも、顔を見なくても彼女の尻尾を見ればどういう気分なのかすぐに分かってしまうのだが……。
次に「ノクス・エルシェ」先輩。
錬金術科の3年で、一人称がワシの黒髪のロングヘアにメガネをかけたダークエルフの女性。
薬学に長けており学園や冒険者ギルドに初級の回復薬を卸している。
噂では二年ほど前に友人から片思いの相手に使いたいとかで惚れ薬の製作を頼まれたものの、失敗して媚薬の成分が辺り一面に充満。
その結果大声では言えないが、そこら中大変なことになりそれ以降学園では惚れ薬の類の製作及び使用は一切禁止になってしまったという事案を作ってしまった、ある意味伝説的な事件を起こした張本人。
しかし当の本人は懲りてはいないらしい。
この部屋は私とエリサ、それにシェイラとノクス先輩の4人が住んでおり、この20畳程の部屋の両端には二段ベッドが一つづつ置かれ、その付近に収納スペースが設けられている。
そして部屋の奥には勉強机が4つ置かれ、トイレは一つ、洗濯機は共有スペースにあり、お風呂は大浴場となっている。
また、一度寮を出ることにはなるが、女子寮と男子寮の中間の辺りに食堂が設けられており、そこで食事を食べれるなど何かと便利のいい寮ではある。
「別に何があったわけじゃないけど……。ただ……」
「ただ……なんや?」
私はベッドに寝転がったままエリサとシェイラ、ノクス先輩に先程のハルトとのやり取りのことを話すことにした。
「……っというわけで、人が勇気を振り絞って私が彼女になってあげるって言ってるのにアイツはよりによって『レオナはただの友達だ』なんて言うんだ!みんなどう思う……っ!?」
私が説明を終えると部屋には沈黙が流れた……。
ここまで話せばきっとみんな共感してくれるはず……そう思いながら周囲を見渡すと三人が三人共何ともビミョーな顔をしていた。
「なんや思うたらただのハルトへの愚痴かいな……」
「ふん……くだらん……。勝手にやっとれ」
「あは……あははは……。レオナ先輩は以前からハルトさんの事が好きなのに、向こうは相手にもしてくれないっていつも言ってましたもんね……」
三人は興味を失ったかのように私の元から離れていく。
「……みんな酷くないか?」
私泣くぞ……?
だって女の子なんだもん……。
「酷いも何もレオナのハルトへの愚痴はここにいる全員が耳にタコが出来るくらい聞き飽きてんねん」
「あ……あはは……ボクも入寮して以来ずっと聞かされていますし……」
「ハルトと付き合いだしたと言うのならワシらだって喜んで聞いてやる。もし、レオナが是が非でもハルトと付き合いたいというのならワシに考えがあるぞ?」
ノクス先輩はそう言うとニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
なんだろう……、嫌な予感しかしない……。
こういう時の先輩は大体ロクな事考えてない……。
「……ちなみにどんなのだ?」
「ふっふっふ……、ワシの作った惚れ薬をハルトに飲ませればイチコロよ」
ノクス先輩はそう言いながら懐からピンク色の液体が入った小瓶を取り出す。
それダメな奴じゃん……!
ていうかあるんかいっ!?
やっぱりロクなモノじゃなかった……!
「ノクス先輩、それアカンやつですやん!それに以前それで大事したんとちゃいますかっ!?」
「あれから何年経っていると思っておる!いつまでもあの頃のワシとは違うわっ!それでレオナはどうする?ワシの惚れ薬を使うのか否か……!」
「……辞めておく」
そんなモノを使ったことがバレたら私の方が学園に怒られる!
「ま、当然の判断やな」
「そ……そうですね……」
「ふん!ならもうよいわ!その代わりワシに泣きついて来てももう知らぬからなっ!」
そう言うとノクス先輩は機嫌を損ねてしまったようでそっぽを向いてしまった。