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09 王女殿下と護衛手袋

挿絵(By みてみん)

 ユビの手続きに先立って、父と暫定魔王討伐隊の四人、そしてユビとともに教会の礼拝堂で礼拝しました。


 礼拝中に意識が飛び、気づいたら、わたしとユビだけが、何故か、女神ナテラさまと「お茶会」していました。


 お茶会の場所は天界と呼ばれる場所で、雲の上にガゼボがあり、ヤシの木と呼ばれる南国の植物などもあって、澄んだ青空が広がっていました。


 女神ナテラさまは、金髪金眼の若々しい美女で、とても仕事ができそうな元気なお姉さまといった感じ、どういうわけか女神さまだけお茶ではなくお水を飲んでいました。


 あまりにも動物が好きすぎて、獣人化した人間に対して贔屓をしていたという、残念な事実も知ってしまいました。そのおかげで、教会では獣人化した人間には妙にお咎めがないという事実に妙に納得してしまったのです。つまり、これはわたしの嫌な予想がものの見事に的中してしまいました。


 わたしもユビも、なぜか白いキトンの上に、それぞれの瞳の色に似たヒマティオンを羽織った格好にされていました。なんかとてもスースーして落ち着きませんね‥。


 薄手の布だけという心もとない姿をユビに見られるのはすごく恥ずかしいと思いましたが、ユビに「と‥とても似合ってて、まるで、て‥天使みたいです!!」と言われたときって、わたしは一体どんな顔をしていたのでしょうか? いや、どういう顔すべきなのでしょう? もちろん、わたしも彼に「ユビも似合ってますよ」と伝えてあげましたが、そこには女神さまの生暖かい満面の笑みがありました。ううう。美人女神の満面の笑み‥。すごくピカピカで、神々しい‥。


 ユビが、転生する直前に女神さまに会ったと言ってましたが、まさか礼拝によってわたしも女神さまとお話ができるなんて‥とても貴重な経験でした!


 そうそう。女神さまはさっそくユビに「ユビ・ド・ユーロビート」というお名前を授けましたが、わたしには「ユーロビート」がさっぱり分かりませんでした。


 我が国では、名前と家名の間の「ド」は、侯爵家や公爵家の高位貴族のみが許される習わしで、貴族にとっては最高のステータスです。わたしにはそのありがたみが未だにわからないのですが、わたしの王家もかつては「ド」があった時代があったそうです。たしか祖父が取ったと言っていましたね。あった場合わたしの名前は“マニータ・ド・クエスタ・アリーバ”ですが、今は不要なので、要らない気分です。


 その名前を聞いた途端、ユビは「なんでやねん!」とシシさんを彷彿とするようなカンサイのツッコミをして、大笑いしました。


 ‥わたし、彼があんなに笑っているところを初めて見ました! 見惚れてしまうほどいい笑顔といい笑い声でした! 狐の尻尾がすごい振っている‥。


 ユビ曰く「ユーロビートは、俺の好きな音楽のジャンルです」と言い、薄手の布からモフモフ毛をはみ出しつつ、ユーロビートとと呼ばれる音楽で踊る「パラパラ」と言うダンスをキレキレに踊りながら「なんとかファイヤー」と口ずさんでいました。


 彼の意外な一面を目の当たりにしましたが、どうやら前世の日本では学校という平民も貴族も学べられる学園的な施設でたくさん練習して踊らされたそうなんですが、その音楽のジャンルは聴いてくうちに好きになっていったそうです。


 女神さまはユビのパラパラダンスに「ブラボーー」と大拍手でしたが、あの女神さまに褒められるって、なんて光栄なことでしょうか!


 


 この時です。ユビがあの笑顔でキレキレのダンスを踊っている時に、わたしは、気づきましたし、気づかされました‥‥。


 これからわたしは、例えどんなことがあっても、ユビはずっと一緒に居て欲しい相手であること。それを強く思わせてくれる強い感情を‥‥。


 これが、いわゆる“恋を知ってしまった”という感情なのでしょうか‥‥?女神さまに聞きたくてもちょっと恥ずかしくて聞けません‥‥。


 


 それから、女神さまは、三人だけのお茶会をしたことは誰に話しても構わないけれど、その話の内容は三人だけの秘密ということになりました。


 ですが、ユビの転生の経緯については重要なことなので、みんなに話してもいいとのことでした。


 女神さま側のミスがあったことなので、「そのお詫びも兼ねて白状します」と言うことでした。


 


 母の形見であり、黒くて、光の角度でワインレッドになる手袋は、わたしが片方を突風で飛ばされ紛失したのち、母の死後に封印が解かれた魔王の魔の手の中に渡っていたそうなのです。


 その手袋には特殊な方法で多量の魔力量が隠して貯蔵されており、魔王は討伐される間際に、右手の白い手袋の中に、わたしの手袋を忍ばせて、いざというときは自身の心臓を右手に転移させ、その右手だけを着脱させ、わたしの手袋の魔力で別の場所で再起を企てていたのだそうなのです。


 ところが、それを察知した女神ナテラさまは、このタイミングにユビを魔王に転生させることを決め、あまりに焦って急いだため座標調整がわずかにズレたのか、魔王心臓とユビとの相性が悪かったのか、結果的にユビが魔王の心臓に強い衝撃を与えてしまったのでしょうか、致命傷を負わせ、魔王は討伐からの再起を失敗に終わらせてしまいました。


 すると、魔王は最後の手段として、藁にも縋る思いで自身の白い手袋に魂を宿しましたが、その弱りきった魂にユビが転生したので、彼は白い手袋に──。


 


 ──とのことでした‥。


 ユビの異様な魔力量は、白い手袋の中に隠された母の形見のわたしの手袋が、人間でいう喉元あたりにあったため、効率良く魔力量を吸収したためなんだそう。


 ほとんどの魔力を持つ生物は、魔力は喉から補い喉から放出するのだとか。魔法の詠唱はその喉との関わりがあるためだと言われています。


 あの母の編んだ手袋って、どんだけ魔力量が隠されていたのでしょうか‥。これほどの魔力量を使いこなせるのは、母がすごいのか、ユビがすごいのか‥‥?


 いいえ、どっちもすごかったからこそ、あんな膨大な魔力量を持つ白い手袋が成立したのでしょう!


 女神さまのちょっとしたミスがあったとは言え、偶然の噛み合わせで、全てがなんとかうまくいったようにも思えます。


 これらのことを父と討伐隊四人に伝えたところ、ユビは魔王討伐者の一員として正式に認められました。あとわたしもそうです。‥あれ? なんか、意外とすんなりすぎませんか?まあ、父のパワーというか‥お陰でしょうね?


 まぁ兄さまたちが、どう判断するかは分かりませんが、いつ王城に戻られるのかわかりませんが、それでまた父と揉めなきゃいいのですが‥。


 ──そうでした。実は、わたしの両親はあの優秀な四人を気に入ってしまい、取り入れすぎたためか、兄さまたちの扱いを疎かにしてしまったそうで、兄さまたちは今もそれを根に持っていて、彼らの婚約者である令嬢さまたちは高位貴族であり、彼女たちもまた四人をあまり良く思っておらず、「いつまでも手袋でお人形遊びする幼い魔女」だと貴族たちに変な噂を広められたのでした‥‥。


 なので、わたしは兄さまたちが王城に戻ってこられることは正直恐怖なのです。ユビが守ってくれると良いのですが、血のつながった家族である兄さまたちだからこそ、ことはより深刻で複雑ですが、今はそんな暗くて苦しい事情を思い出すのはやめましょう──。つらい‥。


 女神さまやユビがそれぞれ「あれ?マニータちゃんどうされました?」「お体は大丈夫ですか‥?」と言ってきたので、つい顔に出てしまったのでしょうか。わたしはつい「なぁーん!お昼前にいろいろあったやーつで疲れちゃったかもですね!シシシシ!」と動揺しすぎて四人の口調をごちゃ混ぜでつい口走ってしまったのです。これはいっけねえです!二人はわたしの変な動揺っぷりに笑っていましたが‥。


 


 ユビはこのあと、手続きを済ませて、我が国の正式な一国民となりました。


 名前はもちろん、ユビ・ド・ユーロビートです。 うーん。彼は侯爵家や公爵家でもないのに、このお名前でよかったのでしょうか‥‥?


 人獣って割りといろいろ許されるのですね? おそるべし女神さま‥‥。


 


•*¨*•.¸¸.•*¨*•.¸¸.•*¨*•.¸¸•*¨*•.¸¸.


 


 ユビが教会で手続きを終えてから、早一ヶ月が経ちました。


 


 結局、まだ兄さまたちは王城には戻ってこられてません。日本のコトワザでいうとこれは「鬼の居ぬ間に洗濯」というやーつですね!


 ユビはわたし直属の影護衛となりました。わたしの右手には白い手袋があります。父の許可もいただきましたが、なにしろこの世界で最も強いであろう魔力量を持つユビに、誰も逆らえないというのが実情でしょう。


 それにしても、この白い手袋が、元魔王の手袋だったとは‥ですね。魔王って意外と手が小さかったのですね‥?十四歳のわたしの手の大きさとは、大差ありませんね?え、わたしの手が大きいとかじゃないですよね?


 ためしに、ユビの狐少年姿の手と、わたしの手を合わせて見ましたが、意外とそれほど大差ないですね? あれ? わたしのほうが若干指が長め‥‥? はーい。これは見なかったことにしましょうっと!ユビがわたしから顔をそむけてますが、でも尻尾がブンブン振ってます! はわわ‥!これはあれですね!


 でも、護衛になったばかりのユビはあんなに手が震えていたので、わたしはずっと手を握って「もう大丈夫ですよ。もうあなたはわたしの大事な護衛なのですから‥」と言ってあげました。でも、わたしも顔を合わせて言えてはいませんでした。こちらも彼のつらい表情をしていたのを見るのはつらかったのだから‥。あれから彼はすっかり落ち着きましたし、いろんな表情を見せてくれるのです。彼が右手となってる時についあくびをしてたりしたら、狐少年姿のときに「あの‥あくびはとてもかわいいのですが‥王女さまとしては‥」と、少し低めの声で強く注意されましたが、わたしが謝ると狐耳をぴくっと動かしながら良い笑顔を見せてくれましたので、これだとまた彼の前であくびしようかななんて悩んでしまいますね~というのは冗談です。


 わたしは母からもらった形見の手袋を左右とも無事にコンプリートし、額縁に飾って満面の笑みで見つめていました。


 ユビにとっては、喉の痛みの原因でしかありませんでしたが、事情を説明しましたので、額縁の手袋たちを見ては、わたしの母の人物像を彼なりに思い描いていることでしょう。


 ユビには、あの手袋以外の母との思い出話をしていません。するとわたしがすぐ泣くだろうし、それに彼もまた転生してきて日は経っていないので、彼なりに前世の家族たちが恋しい時期なのだろうと、四人からそのような忠告をこそっと受けましたし、わたしもそれは言われなくてもなんとなく察していましたから‥‥。


 今のユビは白い手袋の姿や灰色の狐少年の姿になれますが、他の姿にもなろうと思えば理論上可能らしいのですが、ただ、彼は変なところで律義だったり、小心者だったりするので、変身魔法はあまり使いたがりません。わたしの命であれば右手の手袋として収まってくれますが、それのみです。


 ユビの自室は、わたしの手袋保管部屋です。影護衛なのでセキュリティー上の都合でそうなりました。彼は夜になると頑なにそこに戻ります。


 ルルさんの「同衾」発言は、彼にとって相当気に入らなかったようです。わたしは意味は分からなくて、あとでテラ先生に意味を聞いたら、わたしは「まあ!」と思いました。さすが男子らしい発言‥といったところでしょうが、ルルさんとレレさんであれば、とっくに何度もしてそうだなというのがわたしのイメージです。


 彼と出逢った真夜中、わたしは夜着姿でしたが、あれはわたしが彼を連れてきたのだし、予期せぬアクシデントでしたから‥と自分で説明していても苦しい言い訳にしかなりませんが、実際、彼とは同衾はしておりませんし、ユビは寝食をしなくても生きられるほどの魔力量を持っていますので、彼がわたしのいる場で寝るということはないでしょう。


 しかし、彼は生きていく上では、水分だけはどうしても必要であるため、よく一緒にお茶を飲んでいます。お茶は王城内のわたしとっておきのガゼボで二人だけのお茶会です。彼は狐少年姿となり移動中はエスコートしてくれますが、まだちょっとぎこちないので教育が必要かもですね。まぁずっと手袋姿ではね。今度から王族の礼儀作法専門の教師が来られたときは、一緒に教えてもらいましょうか!ちなみに講師はわたしの父方の祖母で王太后さまですが、レオノーラ先生とこと、お祖母さまにユビを紹介するのが楽しみです!


 手袋保管部屋には、ユビの休憩用のソファや作業用の書斎用机などを設置するために、手袋たちは全てショーケースに何段にも収納され、ユビの高品質な生活魔法によって遠隔操作でケースの中でも手袋は常に清潔に保たれています。


 おかげで、わたしはこの部屋でくしゃみをする確率も減りましたが、それでもユビが右手にいるときは、しょっちゅうくしゃみをかましてる気がします‥。しかもユビは「これから、へじしゅ出ますか?」とちゃっかり聞いてきた時は、またもや恥ずか死ぬところでした‥!いつの間にわたしのくしゃみを聞いていたのですか!? あ、狐少年姿のときは離れてますから聞けましたね。ぐぬぬ。


 ユビがわたしの右手になってるときは、すっかりくしゃみへの対応に慣れていて、わたしのくしゃみ寸前には魔力で練り込んだ例の「捨てたら三分で消えるハンカチ」を二枚、口元によきタイミングに差し出してくれるので、本当にありがたいわたしの紳士です。


 そのせいで、わたしのほうも慣れてしまって、くしゃみがだんだん豪快になってる気がしないでもありません。わたしのこういうところ好きくないし嫌いなところです‥。


 でも、ユビはわたしの豪快なくしゃみが好きらしく、連発した回数とともに「今のはとてもかわいかったですよ」とボソっと言ってて、わたしは一体全体どういう顔をすればいいのか分からず、「んもう! うそおっしゃい!」と怒ったフリをします。そう。怒ったフリをすれば、この熱くなった頬は、怒ったからだと言い訳が可能なのです‥! ごめんねユビ。実は怒ってないのです‥。とてつもなく恥ずかしいだけなのです!


 ただここだけの話ですが、ユビが狐少年の姿で「ちふーん!ちふーん!」と、小さいくしゃみをするのを見たことがあります! お互いで相手のくしゃみを見るのが好きだなんて、なんだかわたしたちって変わってますよね?









ここまでお読み頂きありがとうございます!

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