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眠りの処方箋 麻薬問題

眠りの処方箋 ―麻薬問題―


 2025年にもなって、まだ「麻薬問題」という言葉がニュースで流れるたびに、私は首をかしげる。

 本当に、まだそんな人がいるのだろうか。

 それとも――これはもう「依存」ではなく「商売」なのか。

 悲劇を見せて、人々の不安を煽り、再生医療よりも「恐怖」を売る方が儲かるのかもしれない。麻薬を使う人より、麻薬の映像を流して金を得る人の方が多い気がする。


 でも、もし本当にまだ苦しんでいる人がいるのなら、私はこう言いたい。

 麻薬をやめる治療なんて要らない。眠れるようにしてやれ。



第一章 壊れたのは脳じゃなく、「眠り」だ


 麻薬に手を出す人間は、弱いからでも、快楽に溺れたいからでもない。

 ただ――眠れなかったのだ。

 脳が、止まらなかった。

 考えたくないのに、思考が暴走して、自分の内側で火事が起きていた。

 その火を一瞬でも消すために、彼らは薬を使った。


 ドーパミンは、脳の中の“ご褒美ホルモン”だという。でも実際には、報酬ではなく「命令」だ。

 もっとやれ。もっと動け。もっと感じろ。

 そう命じ続ける。

 人間は報酬に酔っているのではなく、命令に逆らえなくなっているだけだ。

 その状態を“依存”と呼ぶ。


 だから、治療は「命令を止める」ことから始めなければならない。

 ――それが、「眠り」だ。



第二章 眠りは脳の再起動


 昔の精神科には、強制睡眠療法というものがあった。

 今の医学では危険だと否定されているけれど、私はあれを未来的な治療の原型だと思っている。

 眠らせるということは、脳をシャットダウンして再起動させるということだ。


 麻薬依存に陥った脳は、常に高回転している。

 エンジンが焼き切れる寸前なのに、アクセルを踏み続けているような状態だ。

 そんな時に「反省しろ」「意志を持て」と言っても無意味だ。

 必要なのは、ブレーキでも説教でもない。

 一度、眠らせてやることだ。


 眠っている間に、脳は配線をつなぎ直す。

 痛みも後悔も、眠りの中でしか整理できない。

 人は、夢の中でだけ、本当の反省ができるのだ。



第三章 静寂のリハビリ


 目を覚ました依存者は、最初は車椅子で過ごす。

 立ち上がることよりも、まず「ゆっくりを学ぶ」ことが大切だからだ。

 焦らせてはいけない。焦りが再発を呼ぶ。


 次の段階は、感情のリハビリだ。

 笑う、泣く、驚く――そのどれもが、脳が回復している証拠だ。

 “何も感じない人間”が、最も重症なのだ。


 治療が進むにつれ、彼らは少しずつ「静けさ」を楽しめるようになる。

 テレビもスマホもない部屋で、風の音や自分の呼吸だけを感じる時間。

 それを苦痛ではなく、安らぎと感じられた時、

 初めて依存から解放される。


 快楽ではなく、静寂を快楽と感じられる脳。

 それこそが、治った証だ。



第四章 依存を生むのは社会


 麻薬は確かに危険だ。だが、もっと危険なのは「休ませない社会」だ。

 24時間動く経済、終わらないSNS、止まらない通知。

 私たちはみんな、少量の麻薬を吸っているようなものだ。

 しかも、それを“効率”や“努力”と呼んでいる。


 だから私はこう言いたい。

 麻薬依存は個人の問題ではない。社会の設計ミスだ。

 人間の脳は、無限の刺激には耐えられない。

 情報の洪水の中では、どんな優等生でも依存症になる。

 違法ドラッグよりも、もっと危険なのは「止まらない思考」だ。



終章 静寂こそ最高の薬


 私はもう、麻薬を「悪」とは思わない。

 それはただの、間違った薬だ。

 本当の薬は、眠りだ。

 眠りは“死”ではなく、“魂のリハビリ”だ。

 そこでは、誰も裁かれず、誰も逃げない。

 ただ静かに、壊れた回路を修復していく。


 麻薬をやめるよりも、眠れるようになれ。

 それが私の処方箋だ。


 ――そして、眠れる社会を作れ。

 そうすれば、人はもう麻薬を必要としない。


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