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6 『VISION』
洲崎さんが会社のトイレで首を吊った。死体を見つけたときはもっとウワーとかギャーとか声を上げるものかと思っていたが、俺の感情は彼の死体を前に何らの揺らぎも見せなかった。確かに五秒くらい硬直はした。だがその後、上司への報告や警察への通報を、俺は滞りなく済ませた。それは彼の死体がとても綺麗な状態だったこともあるだろう。血まみれのバラバラ死体だったら話は違ったかもしれない。ネクタイで首を吊った洲崎さんはまるで眠っているようだった。人はこんなにも鮮やかに死ねるのかと思った。洲崎さんはここで、誰にも知られない戦いを繰り広げ、そして勝利したのだ。