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第三十七話 最期の願い

和平会議の場は騒然となった。


「紙」のスクロールを王に突いたアッシュが佇んでいた。


スクロールの先端が、へにゃっとまがり、

アッシュが驚愕した瞬間だった。


リリアは隠匿(いんとく)魔法を解除させ、

先ほど隠匿したレイピアを、

スクロール内に生成した。


そして剣技の魔法がかけられたレイピアは

ターゲットに設定されていた

皇帝レオンドゥスの胸に深く突き刺さったのだ。


アッシュの顔には、

達成感も、安堵(あんど)感もなかった。

ただ、あっけにとられていた。


「これで…終わった…の?」


震える声で、アッシュは呟いた。


皇帝は倒れた。

皇帝の胸からは大量の鮮血が吹きだしていた。


騒然とする周囲をよそに、

アッシュは、ゆっくりと立ち上がり、

高らかに宣言を開始した。


「これで終わりです!」


サンフォーレの側近が急ぎ王子を制圧にかかろうとした。


________________


その瞬間リリア皇女が、

アッシュの手を取り、自分の隣に引き寄せた。


「リリア様…?」


両陣営の側近たちが、驚きと困惑の表情で

二人を見上げる。


リリアは静かに側近たちを制した。


「静かにしなさい!良いのです…

私も…彼の協力者なのですよ…」


皇女は、その場にいる全ての人々に向け、

凛とした声で語りかけた。


「無益な戦はもうこりごりです。

父が死ぬように、私が協力しました。

私はアッシュ王子と共に私は戦争のない世界を作る。

異があるものは、このサンフォーレ皇女のリリアに今申し出なさい!」


誰も申し出なかった。

正直、サンフォーレ陣営も、もう戦争継続を望んでいなかった。

__________________

フロストヴァルド国王のアッシュの兄レイヴァルドは拍手をした。

そして皆が拍手をしたのだ。


王子は、リリアの瞳をまっすぐ見つめ、

その手を強く握りしめた。


「リリア様と私の志は同じです。

私はフロストヴァルドの王子としてサンフォーレ皇国と

共に平和な未来を築いていきたい!」


アッシュ王子は、静かに息を吸い、

そして、皆の視線が集まる中で、

リリアに跪き、

言った。


「リリア様、あなたと共に、

この世界を、平和に導きたいと願っています。

どうか私と婚約して頂けないでしょうか。」


その言葉に、 会場はどよめいた。


リリアは、予定通りだったのに、

いまさらながらわざとらしく驚いた表情を見せた後、

顔を赤らめ、満面の笑みを浮かべて、

王子の差し出した手に自分の手を重ねた。


「…ええ、 私も、王子をお慕い申し上げていますわ。

婚約は、喜んで、お受けいたします。」


二人の言葉と、固く結ばれた手は、

会場に驚きと、そして、新たな希望をもたらした。


リリアは、人生の絶頂の瞬間を迎えていた。


自分の魔力と共に込めた極大魔法とともに、

怒りはどこかに吹き飛んでしまっていた。


頬は緩み、目も幸せに満ち溢れ、

全てにおいて満足していた。


リリアは幸せだった。


生まれて初めてそう思った。


世界の平和は、思わぬ形で実現へと向かっていった…


________________

「待て…」


弱々しい声が、静寂を切り裂いた。

瀕死のレオンドゥス皇帝が、最後の力を振り絞って、

リリアに手を伸ばす。


「…娘よ…」


王の目は、もう光を失っていたが、

その表情は、これまで見たことのない優しさに満ちていた。


「私は…愚か者だった…

美しさに…力に…囚われて…

本当に大切なものが…見えていなかった…」


彼の声は、かすれ、途切れ途切れだった。

後悔と、そして、皇女への愛情が、

その声からひしひしと

伝わってきた。


「私の大事なものは、娘のお前であり、

一番美しいものを大事にできなかった。

深く深く、謝罪する。」



「最期の願いがある。」


「この首飾りだけ…

私の墓に飾ってくれないか…?」


皇帝は震える手で、

首飾りを手にとった。


「これは… 皆にとっては取るに足りないものかもしれないが、

私にとっては… 大切な品なのだ…」


息も絶え絶えに、 皇帝は言葉を紡ぐ。


「他のものは全て燃やしてしまってもかまわない

この首飾りだけ、私の墓にかざっておいてほしい。

この皇国…

全て、おまえとその王子のものだ…」


その言葉を残し、

皇帝レオンドゥスは静かに息を引き取った。


「哀れな父上、

これが最期の願いですか。」


とリリアはつぶやき、

リリアは、ふと首飾りを拾い上げた。

_________________


首飾りにリリアが手を触れたその瞬間

首飾りが、妖しく光り輝き、

リリアの体に魔力が流れ込む!


「ハーハハハハァー!!!!!」


とリリアは高笑いを発した。


リリアは床に転がるレイピアを拾い上げた。


そして王子に対面し、


「よくも…よくも汚い手で殺してくれたな!

このウジ虫がぁ!!!!!!!!!」


と叫んだ。


リリアの瞳は、冷酷な光を帯び、

その顔は、歪んだ笑みに染まっていた。


聡明なリリア皇女の姿は、そこにはなかった。


「アッシュとやらよ、貴様には死刑を宣告する!我が刃を受けよ!

さもなくば、フロストヴァルドは、再び戦火に焼かれることになるだろう!」


会場は、混乱に包まれた。


皇帝レオンドゥスの死は平和の始まりではなく、

戦争継続の幕開けだった…。


凍り付くような沈黙の中、リリアは続ける。


「あわれな王子よ、貴様に時間的な猶予をやろう。

貴様のしたことは皇帝殺しの大罪だ。

サンフォーレ皇国の法律にのっとり、

刑を執行させて頂こう。」


リリアは髪飾りをつかんだまま、レイピアをアッシュに向け、

残酷な笑みを浮かべた。


「異論はあるまい?フロストヴァルドの王よ、

いやいや、よからぬことを考えるでない。

わが手にはレイピアがあり、

歯向かえば即刻「殺す」だけだ。」


といって、アッシュの左耳をレイピアで切り裂く。

アッシュは耳を引き裂かれ、その場に崩れる。


「これは、警告ではない。慈悲の心などあると考えるな。」


「死刑は、一週間後としようぞ。

この一週間、絶望と後悔に苦しみぬくがいい。

あわれなウジ虫よ。」


と、言うか言い終わらないうちに、


パリっという何かが割れる音とともに、


リリア皇女はパタと倒れた。


____________


皇女とアッシュはそれぞれ黒いネコの獣人と黒装束の女性に抱きかかえられて、奥へと連れていかれた。


レイヴァルトは、王子を助けるべきかと迷ったが、

あまりの展開に、何か深い意図があるかとも思い、

とりあえず一週間待つことにした。


(弟よ、クーデター、婚約、そして死刑宣告と、

おもしろすぎて、正直ついていけないぞ。

ただ、もし来週の死刑がアッシュが望まぬものであるなら、

この兄が介入しよう。

とりあえず今日はあっぱれであった。)


アッシュは、暗黒竜のネロに連行されながら、

ただ茫然とすることしかできなかった。


耳の傷の痛みなどどうでもよく、

愛する皇女の変わり果てた姿に、

もう何も考えることができなくなっていた。


王子はただただ、悲しかった。

何が起こったかもわからず、全てに絶望した。


アッシュと、このローレンシア大陸の命運は、

一週間後に向けて大きく動き出そうとしていた。


__________________


ー サンフォーレ首都 シャペルブール ー


ある日サンフォーレ皇帝は、

異国からの使者を名乗る少女から贈られたブレスレットに目を輝かせていた。

それは、美しくも妖艶な、黒曜石のブレスレットだった。


「これは… 美しい… 」


皇帝レオンドゥスは、そのブレスレットを眺めていた。


「このブレスレットの所有者は、世界で一番美しいものに出会えるといわれています。」


少女は、そう言いながら、皇帝にブレスレットを手渡した。


「このブレスレッドには、つおい魔法が込められています♪

『永遠』に

『より美しいものを求める』ようになる

『祝福をうけた』

ブレスレッドなんです!

ですからきっとそのうち、いちばーん美しいものに、巡り合うでしょう。

次か、次の代くらいには♪」


と楽しそうに続けた。


皇帝はその日から、より美しいものを、飽き足らずに、

狂ったように探し求めるようになった。


そして、リリアと父の関係も、以前のように良好ではなくなり、

リリアも皇帝を避けるようになった。


この少女は、皇宮では「アルフォルト」と呼ばれていた。




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