第二話 VIPをいきなりピーーして世界大戦が勃発しそうになった話♪
ー ヴェローナ魔法学院 ー
中立都市ヴェローナにあるこの魔法学院には、世界各国の貴族や王族の子供たちに加え、剣術や魔法の才能にあふれた若者が集まっていた。
魔法学院の北方に位置するフロストヴァルド王国の三男、
アッシュ・ノースフォードも入学の日を迎えていた。
「アッシュ様、あまり朝食が遅いと、式典に間に合いませんよ。」
ルーナが準備をして王子をせかす。
ルーナ・ノーヴァはアッシュ王子の付き人・護衛兼家庭教師である。
アッシュの学業面でのサポートの目的で選抜された、
フロストバルド随一の参謀であり、
錬金術師であり、王国随一の土精霊魔法使いである。
遠方のフロストバルドから、王の命を受け、
アッシュの為に遠方まで派遣されている。
「よし準備ができたぞ、ルーナ、僕の方が先にでるよ!」
「王子、忘れ物はないですか!」
「今日は式典だけだからきっと何もいらないよ!」
王子は走って飛び出す。
ルーナは遅れて追っていく。
「アッシュ様、待たせておいて、置いていくのは、あんまりですよぉ。」
___王子の手紙_____
兄さん、今日が学院の初めの日です。
修行をしてもうだつのあがらない僕に、
外の世界で勉強させてくれる機会を準備してくれてありがとうございます。
これからどんな生活が始まるか、とてもわくわくします。
_____________
アッシュ王子はしばらく走ったあと、
建物の角で見知らぬ人とぶつかってころんで、
しりもちをついてしまった。
ぶつかった衝撃で、相手の日傘が飛んでいき、
彼女のシルエットは突然現れた。
長い黒髪が風に舞い、艶やかに揺れた。
紫の瞳からは、彼女の強い意志を感じる。
細く形の良い唇は、無意識に微笑んでいるようだった。
アッシュは彼女に圧倒され動くことができなかった。
言葉を失い、ただただ彼女を見つめていた。
___アッシュの手紙____
でも、兄さん、
こんなきれいな人がこの世界にいるなんて、
僕は想像していませんでした。
______________
アッシュには、時間が止まったように感じられた。
ここに追いかけてきた付き人のルーナが到着する。
この黒髪の美貌、紫の瞳、この一流ドレスの着こなしである。
軍参謀でもあるルーナは、
王子がぶつかってしまった女性が、
我がフロストヴァルド王国の宿敵、
サンフォーレ皇国の皇女殿下、
「リリア・サザンウィンド」
であることを確認した!!!
ヤ バ い !
これは、外交問題に発展しかねない第一級「異常事態」である。入学当初に発生した重大トラブルにルーナは戸惑いながら、どうこの場を収拾をつけるかを考えながら、と、とりあえず挨拶をして時間を稼ぐことにする。
王国随一の精霊使いのルーナは防御魔法を無詠唱で展開しながら、次のように対応した。
「こ、これは、失礼いたします。リリア皇女殿下、王子が失礼を申し訳ありません。アッシュ・ノースフォード、フロストヴァルドの王子の付き人、ルーナ・ノヴァと申します」
しばらくの間の後、この女性、リリア・サザンウィンドは、少し顔を赤らめながら口を開いた。
「よいのです。私も暇をしていましたし、アッシュ様に怪我もなくて幸いでした。私は式典にあまり興味もないのです。
調度よいですから、アッシュ様、私と一緒に街を散策くださらない?
猫にでもぶつかったと思って」
と付き従えていた猫の獣人に目配せをする。
獣人のノワールは、おもわずゾワッとする視線を感じ、リリアを2度見た。
(あのリリア様が、自分をネコ呼ばわり??だいぶ猫かぶってる・・)
これまでも皇女は国内でさんざん問題を起こしてきており、ノワールはいささか主人にはうんざりしていた。なにせ真正の「サイコパス」皇女である。彼女を例えるなら、間違いなく「猫」なんかではなく、むしろ「死神」である。
ノワールはこの「異常事態」について、この敵国のかわいい王子様がどのようになるのか少し可哀そうになり、彼と両国の将来を案じた。
「こちらはノワール、わたしの付き人ですわ。アッシュ様、私たちと、今日少しだけ、お供頂けますか?」
「は、はい、喜んでお供させて頂きます」
緊張で、ぎこちなく王子は対応し、ルーナもそれに続いた。
アッシュ王子、付き人のルーナ、リリア皇女、獣人のノワールの一行は、入学の式典を完全にすっぽかして、学園都市の街を散策することになった。
これが両王国を揺るがすことになる二人の出会いであった。
フロストヴァルドの王子、
アッシュ・ノースフォードはこの時、14歳であった。