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第三十五話 限界突破

ー サンフォーレ皇宮 ー


サンフォーレ皇女リリアは、自室で窓の外に広がる夜空を見上げていた。

窓の外には、月明かりに照らされた庭園が広がっている。リリアは、きれいな夜空にも、庭園の美しさにも癒されることはなかった。


 彼女は今日も超絶に怒り狂っていた。


 アッシュに逢えないフラストレーションがマグマのようにたまっていた。


アッシュが無期限休暇の報を知り、

学園側の裁定した責任者には呪いをかけておいた。

死ぬより苦しい呪いを与えた。

それでも腹の虫がおさまらないのである。


この時、皇帝の執務室で会議が始まったことを確認した。

アルフォルトが、こっそり念話で教えてくれる。


室内では、皇帝と側近たちが、酒を酌み交わしながら、

密談を交わしているようだった。


「…北の外交団は、こちらの思惑通り、すっかり弱りきっているようだ」


父の声だった。


「和平交渉など、時間稼ぎに過ぎん。奴らの食料が尽きた時が、この戦争の終わりだ…」


皇帝の言葉に、タラーレン宰相は答えた。


「ですが、油断は禁物です。和平交渉が進んだとしても、

あの小王は、なかなかやりおります。油断すれば、何が起こるか分かりません。」


「安心するがよい。もし和平を進めなくてはならなくなっても、罠を準備してある。」


リリアは父の言葉に聞き耳を立てた。


「たとえ和平交渉が進んだとしても、調印式で皆毒殺してしまえばいいことだ。あの王族ともども、皆殺しにすればいいだけのこと。

王も、王子も、あの王女のように殺してしまえばいい。」


リリアは、唇を強く噛み締めた。

きれた唇から流れる血の味は意外に心地よかった。


この時、リリアは自分の中で何かがはじけ飛ぶのを感じた。

明らかに魔力量が増大したのを感じた。


「もう…終わりね。」


ただでさぇ、イライラしているのに、

このもの達は何を言っているんだろうか。


「消去しかないわね。消去。」


とため息をつきながら、リリア皇女は父の存在を「消去」することを決意した。


_______________


リリアは、長距離の念話でアッシュと話をした。


「アッシュ様、私、お話ししなければいけないことがあるんですの」


アッシュとリリアは、現状について話し合った。

アッシュもこのままでは、和平交渉が進行しないことを懸念し、

和平を実現するための方法を探っていたが、解決法が思いつかなかったのである。


『結局、レオンドゥスは圧倒的な軍事力を示さない限り、譲歩はしないだろう』


という結論が二人が話し合った結果、導き出された結論であった。

なんらかの形で、軍事デモンストレーションを行う必要があるように思えた。


そしてこれに追加して今回リリアはサンフォーレによる

『レイヴァルドとアッシュ王子の暗殺』という陰謀も伝え、

父であるレオンドゥスを消去する計画を伝えた。


『レオンドゥスを消去しないと、和平にはたどりつかない』


ことも明らかであり、どちらを先に同時に達成するかは別にしても、

戦略目標は決まったのであった。


『軍事力… か…』


リリアは、アッシュと禁書庫で読んでいた禁忌魔法のことを思い出していた。

皇女は禁忌魔法は理論的には理解しながらも、

以前は禁忌が破れていなかったので、

魔法を使おうにも実感がわかなかったのである。


しかしながら、幸か不幸か最近この禁忌が破れたことを

リリアは体感していた。


学園への裁定と、皇帝への激しい殺意が、

彼女の暗黒面のエネルギーを解放したかのようだったのだ。

リリアは暗黒魔法のさらなる加護を受けたのだった。


翌日一通り、準備をして、ひとしれず空中に向かって魔法を放ってみると、

直径100m程度の黒い球を出力することができるようになっていた。

しかしながら、発動には長い時間がかかり、

通常で役に立つ魔法とは考えられなかった。


それでもなんとか、暗殺も試してはみたのである。

ちょっとした遠距離から父の自室をダークフレアで吹き飛ばしてはみた。

皇宮が崩れ、大騒ぎになったが、なぜか父は無事であった。


「意外としぶといわね。」


簡単に殺せると思って試してみたが、リリアの知らないところで、父は身の安全を確保する魔法?を使用しているようだった。


その為、父:レオンドゥス皇帝の排除は後に行うことにして、

関節的に禁忌極大魔法を皇帝に見せつけることで、

和平を進めるための魔法のデモンストレーションを

まず行うこととしたのである。


 アッシュ王子は、リリアと協力するために、サンフォーレ皇帝に手紙を書くことにした。兄であるレイヴァルド国王には「リリア皇女」に手紙を書くので、フロストヴァルド王族の封印を使わせてほしい旨願い出てみた。


 兄はとくに何も言わなかったので、国王の部屋で北の国の代表として偽の手紙を偽造し、サンフォーレの皇帝に送った。


__________


___フロストヴァルド王宮からの手紙____


 来たる日正午にサンフォーレ北のサンマルク山のふもとで、フロストヴァルド王室は、和平を祝う盛大なお祝いのセレモニーを開催いたします。

 セレモニーの美しさは保証いたしますが、安全は保障しませんのであまり近づきすぎないようにご注意ください。今後の和平交渉が迅速に進むことを期待しております。

____________________



 この手紙は差出人が不明であるものの、しっかり王の紋章の封がしてあり、少なくともフロストヴァルドの「王宮」からこの手紙がきたことは確からしかった。


 その為この日、皇帝レオンドゥスは、自国の神話にも出てくる国の象徴たる「サンマルク」山の、ふもとまで来ていた。


「どうせつまらないことだろうから、相手にしないに限る」

 

 と、皇帝レオンドゥスは思いながらも、どんな策を相手が提示してくるのかを少し懸念はしていた。

 皇帝としては、停戦交渉をしながらも、停戦など実際に締結するつもりは一切ないのである。

 交渉を長引かせ、痩せて冷えた土地しか持たない貧しいフロストヴァルドの食料を枯渇させるのがこの停戦交渉の目的だ。ただ、彼らが、サンフォーレ領土で何をしようというのか謎であった。

 結果として念のため、山のふもとには停戦中に招集した軍主力を先兵として準備し、万一の有事に備えた。



____________________


ー サンフォーレ皇国北部 サンマルク山のふもと ー


「もう本当に、無くなってしまえばいいのですわ!」


 大規模な魔法陣を描きながら、リリアはたいへん苛立った口調でつぶやいていた。

 リリアはこれまでに溜まった我慢ならない怒りを込めて、魔法の詠唱を続けている。

 詠唱が始まると、この禁忌かつ極大魔法はリリアの「真の闇」の根源となった「怒り」と「魔力」を吸収しながら、リリアと魔法の効果を共鳴し、その効果を高めあう。

 

 そして、この世の終焉を告げるような凶悪な魔法が始まった。


 この黒魔法詠唱が始まって以来、サンフォーレ皇国の空は、真昼間だというのに、夜が訪れたかのように黒い漆黒に染まっている。

 その直下にあるのは、リリアの父:皇帝レオンドゥスも観察をしている「サンマルク」山である。サンフォーレ皇国の象徴に近い聖なる山である。冬を目前として、雪を傘する美しい姿となっていいる。


「闇よ、漆黒の闇よ、闇の王の命に従い、今ここにその姿を現せ。黒き者よ、光を逃さない、その漆黒の黒よ。その力をもって全てを吸い込み、一筋の光も残さず食らいつくせ。黒き渦と化し、今、顕現せよ、トロワ・ノワール!」


 長い魔法詠唱の後に、リリアは、禁忌の極大暗黒魔法「トロワ・ノワール」を完成させる。

 この魔法は、ただの暗闇にとどまらず、周囲のありとあらゆるものを無差別に吸い込んでゆく存在だった。

 禁忌とされる理由は明白で、もし制御不能に陥れば、この世界すらも消滅しかねないからだろう。


 リリアの傍らにいるクロネコのノワールも、毛を逆立てて恐怖におののいていた。これ、下手したら、とんでもないことになるのではないかと。


 魔法の力が増すごとにその影響は広がり、やがてサンフォーレ皇国の象徴であるサンマルク山がその力の餌食となる。

 山の木々、岩、土すらもが黒い渦に飲み込まれ、飲み込まれたものは中心の渦に近付くにつれてすべて小さくすりつぶされていく。最終的には山全体がすべて飲み込まれる。


 魔法支配領域はさらに広がり、皇帝が視察していた数キロ先の天幕にまで到達した。

 皇帝の前衛にいた護衛の主力部隊、その下の大地まで、全てが黒い渦に吸い込まれていった。

 皇帝自身もこの無情な力に飲み込まれんとする瞬間、死の恐怖に顔を歪めた。


「私の本気を見て、少しは恐怖するといいわ」


 とリリアはつぶやいた。この光景は、リリア皇女の闇の深さ、根源の怒りの強さ、そしてこの禁忌魔法の恐ろしさを示していた。


_______________


 皇帝レオンドゥスが念のため配置していたサンフォーレ軍主力は、突如出現した巨大な黒い渦にすべて飲み込まれてしまった。


 黒い渦は、サンフォーレ軍主力を飲み込むだけでは飽き足らず、サンフォーレの象徴でもあるサンマルク山周辺一帯を飲み込み、レオンドゥスも飲み込まれる寸前であった。


 幸いに、リリアのデモンストレーションの終了とともに、この暗黒魔法は跡形もなく消え去った。


 この惨劇を目の当たりにした皇帝レオンドゥスは、

皇宮が吹き飛ばされたのも、フロストヴァルドの威圧行為であることを理解し、しぶしぶ和平交渉を進めることを決意した。


こうも好き勝手に魔法を使用されたのでは、

戦争どころではない。


 とりあえず休戦協定を結んで、相手の情報を入手してから様子をうかがうことが最善であることを皇帝は理解した。


 こうしてサンマルク山は「サンマルクの穴」となり、人知らざれるとことでリリアの怒りは、サンフォーレの伝説を書き換えたのだった。世界の破滅の危機はここで一旦は去ることになった。


_______________


ー フロストヴァルド王宮 ー


フロストヴァルド国王レイヴァルドは、ひそかに楽しんでいた。


実は、あまりに国を愚弄されたというので、

部下からの要請で軍事威圧を許可したのだ。


しかしながら本人も、あまりむかついたしまったので、

サンフォーレの港町の海上をすべて氷漬けにしてみたのである。


翌日の新聞を楽しみにしていたのだが、残念ながら、新聞には、

『黒い極大魔法の炸裂で霊峰サンマルクが吹き飛ぶ』

という見出しにかっさらわれていた。

自分の記事が一面に載っていないのである。


交渉の進展があったのはこのせいなのかと思いながらも、

公印を謎も使用していたアッシュを思い出し、

もしかするとアッシュがこの「事件」に関与しているかもしれないと思い、

ちょっとした妄想を楽しんでいたのである。


そして、新聞の片隅に、異常気象についてがニュース、

「謎の異常気象で、港が氷結される」という記事を発見した。


レイヴァルドは弟に『負けた』かもしれないことを見て取った。


「成長してきたのかアッシュよ」


ぽつりとつぶやき、

レイヴァルドは和平交渉に臨むのであった。


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