第三十四話 話せばわかる!
サンフォーレ皇帝、レオンドゥスは、
和平交渉を真剣に進めるつもりなど毛頭なかった。
フロストヴァルドはサンフォーレと異なりもともと食糧生産が低く、
難民の増加による食糧問題を抱えており、
皇帝レオンドゥスはその機に乗じて、時間を引き延ばすことだけを考えていた。
交渉には老獪な宰相である「タラーレン」をその任に充てた。
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皇帝レオンドゥスが指示した交渉場所は、
サンフォーレの支配地となって残った緩衝国エリドールの南部の
『ビヨンヌ』という町だ。
フロストヴァルドの支配地域からはかなり遠く離れている。
フロストバルドの使者が前線についたとき、
会議場への移動手段として場所は用意されたいた。
たいへん汚れて、ノミが沸いている馬車であった。
そして、馬車には白旗が掲げられたのだった。
「この馬車は、とても乗れたものではない!」
と、フロストバルドの代表が切れ気味に言うのも当然だった。
屈辱を感じながらも、馬車での移動を拒否したフロストヴァルドの代表たちは、「徒歩」で会場に出向くことになった。
馬車でも5-6時間の時間がかかるため、一日がかりの行軍となった。
疲労困憊の彼らを、
「おやおや、大変遅れた到着で、こちらは待ちくたびれましたぞ」
と、サンフォーレ宰相タラーレンは嘲笑を隠さずに迎え入れた。
会議はここから始まるはずだった。
会場に入った北の国の代表たちは、ふんぞって座っているサンフォーレの代表団を目の当たりにした。南の国の側近たちは、向かい側の背の小さな椅子に座るように指示をしてくる。
この椅子、小さすぎはしないか?
「この小さな席があなた方の指定席です」
と、サンフォーレの外交官は言い放った。
「席の交換を希望する」
と伝えたが、北の国の代表たちに準備する様子もなく、
夜まで立ち続けることを余儀なくされた。
そして会議は結局その日は
『始まらなかった』
のである。
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席が準備されたのは、3日後だった。
すべてがこんな感じだったのである。
席の問題が収まると、今度は、机の問題が発生した。
窓の位置が、直接太陽が入る位置にあり、まぶしいのである。
交渉にならないので、
・カーテンの使用
・部屋の交換
・机の位置の交換
1つ片づけると新たな問題が発生し、
こんなささいなことをまず交渉しなければならなかった。
机を丸テーブルにして、
平等に席に着くということに落ち着くまでに
一週間を要した。
会議が始まっても、サンフォーレの代表たちは、
実際の和平交渉とは関係のない議題を持ち出し、
議論を意図的に引き延ばした。
翌週からは使節団のエリドールの士官の席には、
椅子に画びょうが置いてあったり、
「乞食代表の席」と落書きが書いてあったり、
翌日には、「北のわんちゃんの席」
と書かれた席なども準備された。
毎日、ことごとく侮辱的な仕打ちを受けた。
「このような落書きは誰が行うのか」
ととがめると、
「誰が書いたかわかりませんが、
おそらくエリドール出身の奴隷の仕業でしょう」
と言い放った。
結果、サンフォーレ側の使節団は見せしめとして、
会見場の前でわざわざ見えるように、
毎日エリドール出身の奴隷を処刑していった。
あくる日は、サンフォーレ側は交渉をしているビヨンヌ周辺に騎兵を終結させ、会見場からみえるかたちで、騎兵を横切らせたのである。
サンフォーレの宰相タラーレンは非常に老獪な宰相である。
戦争とは、戦争後の交渉が最重要であり、交渉次第では、勝ち戦が負け戦に、
そして負け戦が勝ち戦になることを彼は良く知っていた。
そして交渉を無意味に引き延ばしたのである。
このようなことが一か月も続いた。
堪忍袋の緒が切れた使節団は、
フロストヴァルドのレイヴァルド国王に、
「軍隊の出動」を要請することを決意したのだった。




