第三十話 森林の悪魔
ー フロストヴァルド最南端都市ティアモ周辺森林地帯 ー
サンフォーレ側、ゾラン参謀は困惑していた。
ティアモの砦が想定していたより、陥落に時間がかかったのだ。砦からは強力な魔法を連発されていたこともあった。魔法防御も貫通する強力な魔法で騎兵部隊がつぶされては危険だし、兵をいくら大量に平原に繰り出しても、あんな魔法を受ければ、一挙に全滅である。
また防御魔法も完璧に展開されており、魔導士の軍勢が拠点の防御をしているものと考えていたのだが、砦の崩落後は、砦にしても、都市にしても、がらんどうなのである。捕虜も死体もほぼ残っていない。まったく意味が分からなかった。
これでは、獲得できる奴隷もいないし、略奪による食糧確保もできないのである。
そして、なぜか少し前までは雪が降っていなかったのに、この砦を攻めだしてから、急に悪天候になり、雪が深々と積もっているのである。まだ秋なのに。
こちらの行軍のスピードは上がらないが、それは難民を抱えるフロストヴァルド側も変わらないだろう。
スパイからの情報では、都市にはかなりの食料が確保されているはずであった。取り急ぎ、足あとを追って、難民や市民から略奪し富を奪うことが最重要課題であり、奪取する食料は軍の死活問題なのである。
しかしながらサンフォーレの斥候達は、戸惑うことになる。足跡の多くは、森の中に消えているのである。サンフォーレ側は、森の中に軍隊を展開することを決める。
これがサンフォーレ軍を苦しめた「悪魔の森林」の始まりである。
サンフォーレ軍は、森の中を進軍する。
森の中では、
・大きなつららが、散発的に頭上から落ちてくる。雪国なめんな。
・大量の雪が落ちてきて生き埋めになる。
・フロストタイガーなどの土着獣に襲われる。
といった、天然を利用したトラップに加えて、
・薄氷の水たまりトラップ。
・氷のスリップや棘のある毒植物のトラップ。
・踏み込むと同時に発動する小爆破トラップ
・広場に出た瞬間の閃光トラップ
の類の魔法のトラップにより、
進軍スピードが著しく低下し、
凍傷になるもの、
毒で動けなくなるもの、
足や手が吹き飛ぶもの、
失明するものが続出したのである。
この天候である。水没すること、装備に穴が開くことは半分死を意味するのだった。
さらにいやらしいことに、トラップを抜けたと思って進軍スピードを上げると、再びトラップに引っかかり、兵を損耗するため、恐怖の為、進軍スピードが上がらないのである。
「凍る森林」(フロストヴァルド)には何重もの卑怯な罠の包囲網が敷かれており、この包囲網の突破は大変困難のように思えた。
この結果、サンフォーレ側が準備していたエルドールの奴隷兵や、辺境から駆り集めた農奴兵が、トラップにより既に枯渇しかねない状態であった。
さらに悪いことに、大量に存在するトラップや天然の障害は兵士に「恐怖」を植え付けたのである。
この恐怖により、エリドールの「奴隷兵」や畑から収穫してきた「農奴兵」が大量に脱走を始めたのである。逃亡は死刑と脅しても無駄であった。
なぜならどちらにせよ「死ぬ」からである。
サンフォーレの指揮官はこの状況はまずいと判断し、街道沿いの足跡をたどることにした。
こうして、サンフォーレ側は、ルーナの策に嵌ったのである。サンフォーレ主力は、街道に戻り行軍を開始し、ルーナの「戦争決定点」に収束しつつあった。




