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第二十三話 欺瞞を恥だと思わない者たち

ー フロストヴァルド最南端都市ティアモ ー


フロストヴァルドに逃れた最大のエリドール難民キャンプ、ティアモでは、

一部の難民による犯罪行為が後を絶たなかった。


食料や物資の不足、将来への不安、故郷を失った喪失感…

そんな状況下で、人々の倫理観は歪み、

盗みや暴行事件が頻発していたのだ。

さらに、配給品を強奪するもの、横流しするものもおり、

自らの手によりさらなる状態の悪化をひきおこしていた。


しかし、教化者レダは、巧みな話術で、

これらの犯罪行為を正当化し、

更には、フロストヴァルドへの憎悪を煽る材料として利用していた。


ある夜、食料庫が荒らされ、備蓄が盗まれる事件が発生。

守備隊長のガストールは、エリドール難民の若者グループを取り押さえる。


「違う! 俺たちは何もやってない!」

「証拠はある! お前たちの仕業に決まっているだろう!」


騒ぎを聞きつけたレダが現れる。


「一体、何が起きたのですか?!」


事情を聞いたレダは、悲しげな表情で兵士たちを責め立てる。


「なんてこと! 彼らは、ただお腹が空いていただけなのに!

あなたたちは、そんな彼らを、盗人呼ばわりするのですか?!」


「しかし、現行犯です! 食料庫から、直接パンを盗んだのです!」


「彼らが、盗みを働かなければならないほど、追い詰められていたとしたら?!あなたたち北の国の人間が、十分な食料を与えず、差別するからでしょう!」


周囲の難民たちが集まってくる: (ざわ…ざわ…)


レダは、さらにヒートアップする。


「私たちは、あなたたちを頼って、ここまで逃げてきたです?!

それなのに、この仕打ち! これが、あなたたちの言う『慈悲』なのかしら?! 」


レダの言葉に、周囲の難民たちは、次第に同調し始める。


「そうだ! 私たちをなんだと思っているんだ!」

「食料くらい、十分に分けろ!」


兵士たちは、予想外の反発と、

レダの巧みな言葉に圧倒され、言葉を失う。

レダは勝ち誇ったようにこう言った。


「いい? これは、あなたたちが食料をけちる罪滅ぼしよ。

彼らを許してあげて。そして、二度と、こんな悲しいことが起きないように、

私たちを、もっと、丁重に扱ってちょうだい!」


レダは、まるで聖女をよそおったかのような表情で、兵士たちに告げた。

結局、兵士たちは、現行犯なのに若者たちを釈放せざるを得なかった。


レダは若者たちに、声を潜めてこういった。


「よくやったわ。あなたたちは、何も悪くない。

生き延びるためには、どんなことだってするべきよ。

覚えておきなさい。あなたたちの敵は、フロストヴァルドの人間なのよ。」


レダは、優しい言葉と、悪意に満ちた視線を、若者たちに向けた。

このように、レダは、難民たちの犯罪行為すらも、巧みに利用し、

北の国への憎悪を煽り、サンフォーレへの忠誠心を植え付けていく。

そのやり口は、まさに『欺瞞の二重奏』。


罪悪感を持つことなく、平然と嘘を吐き、

人々を操る彼の姿は、まさに『悪の教化者』そのものだった。


レダは、元フロストヴァルドの神官である。

エリザは彼を”教化者(プロパガンディスト)”となずけていた。


人々に欺瞞を説き植え付け、人々の倫理観を静かに破壊していくのだ。

エリザは、策を練っていた。


________________


 フロストヴァルドの最高神官であり、ハイプリーストであるエリザは、現状の混乱を収めるために研究を重ね、


全難民にパンをいきわたらせる「神聖魔法」を開発することにした。


これまでの自由配給制度では、物資の横流しや闇市での売買が横行し、本当に必要な人々に十分な支援が届いていなかったからだ。


 配給品の横流し黙認し悪用させ、敵国の諜報活動や破壊活動に利用させるなど、無能な統治者が行うことであり、笑止千万なのである。


翌朝、エリザは広場に集まった難民たちの前で演説を始めた。


「皆さん、今日から配給システムを改めます!」


とエリザは高らかに宣言した。


「私が魔法で、あなた方全員にパンを届けるのは、とても簡単なことです。

でも、それでは皆さんは一生、私の奴隷になってしまいます♪


 それはサンフォーレで奴隷として生活するのと何も変わりません。

もしパンが足りないのであれば、まず自分たちで焼いてみてください。

そして、パンが焼き方を知らない方は、どうぞ私のところに来てください。

パンの作り方をお教えします。

 でも、私は知っています。聡明なエリドールの民は、明日にはきっと自分でパンを焼いて、自分で食べていることでしょう。」


エリドールの民は、エリザの言葉に笑いを漏らした。

エリザは普段から皆に愛されていた。


 そして彼女は神聖魔法により、中央で一括して配給品の管理を始めた。

 またパンなどの売買の行いを許可制にして、闇市つぶしにでたのである。


 ティアモの一般市民やフロストヴァルド兵への『パンの販売権利』を含む新たな計画を詳しく説明した。


 各家庭は自活支援カードを受け取り、このカードを使って定められた日に必要なトレーニングや資源を受け取ることになる。


 カードには、家庭の人数や特別な必要性が魔法で記録されており、それに基づいて公正な支援が行われる。


 魔法監視が行われ、悪意のあるものや、許可されていない他者の手に渡ると、警告が発する仕様が施されてあった。

 警告に従わないものは、エリザの『凶悪な』神聖魔法の洗礼を浴びる仕様である。危険極まりない代物だった。強制的に『改心』されてしまうのである。


「また、働ける人には新しい仕事の機会を提供します。

パンの製造や販売、農業や手工業などの分野で、自活できるように支援します。自立した生活を目指し、共に協力していきましょう。」


とエリザは付け加えた。


 数日後、新しいシステムが本格的に稼働し始めると、支援所には整然とした列ができ、トレーニングや資源の受け取りがスムーズに進んだ。


 難民たちは初めは戸惑いの表情を浮かべていたが、エリザの真剣な眼差しと確固たる信念に次第に心を動かされていった。


 闇市で配給の横流しのパンを売っていたもの達は、エリザに突っかかっていたが、エリザはめげずにパン屋の運営を勧めた。

 闇市で配給品を強奪していたもの達は、強奪をした瞬間にエリザの神聖魔法により悪意を全消去され、皆改心した。


 公正な取引の下、安価な物品が出回ったので、物資の横流しや闇市での取引は急激に減少し、難民たちは安心して生活を営むことができるようになった。


 また、フロストヴァルド兵や市民へのパンなどの販売も軌道に乗り、自活支援システムは着実に成果を上げていった。

 エリザは、支援所を視察しながら、難民たちの笑顔と感謝の言葉に胸を撫で下ろした。


 彼女の決断と努力と魔法が実を結び、コミュニティ全体が『キラキラとした』秩序と公正で満たされるようになったのである。

 エリドールの民のパン屋が自発的に身近な支援が必要なものに対して支援するようになり、配給の必要性は徐々になくなり、難民たちは自立した生活を送ることができるようになった。


 このような状況では、レダの話は誰も聞くものがいなくなり、レダは闇にまぎれた。


______________________


 エリザはキャンプを歩きながら、夕日に照らされた若者たちの訓練を見守った。彼らはフロストヴァルドの将来であり、彼女の希望の象徴でもあった。


 エリザは、難民キャンプでの変革に満足していた。しかしながら、サンフォーレという国に対して改めて恐怖も感じている。


サンフォーレ皇国は強大で、狡猾で、そして強靭な国家である。


キャンプの片隅で、子供たちが遊んでいるのを見て、エリザは思った。

彼らが無邪気に笑い合っているこの場所こそが、彼女が守りたいものだった。


フロストヴァルドでは、子供一人一人を愛情をもって育て、

手塩に一人一人を育てるのに対し、


サンフォーレでは、子供を家畜のように扱い、

家畜のように命を奪うのである。


まともに戦っては、勝負になりっこない。

まともな精神では戦えないのだ。


そういう意味ではエリザも正気ではない一人である。

この難民キャンプでも、多数のものを洗脳し、多数の命も奪った。

気が付けば、洗脳五奉行の仕事をエリザが奪って、自ら実行しているようなものだ。

弟を殺されてから、彼女もまた復讐の「奴隷」と化しているのである。

エリザは自分が正気ではないことを自覚し、今日も神に祈るのであった。

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