第十八話 王女の子供たち
ー とあるエリドールの田舎町 ー
ここは、エリドールの田舎村、平凡で、ほのぼのとした、変哲もない村だ。
少年は深夜だというのに走っていた。少年の名前はトマス、彼はとにかく必死に走っていた。
夜に兵士が現れ、いきなり村の人たちを殺し始めたのだ。
「隠れなきゃ」
少年は必死だった。
少年は井戸を見つけたので、
井戸の中に隠れることにする。
「っ」
井戸は既にいっぱいだった。
いや、正確に言うと、
井戸は、『死んだ人で』いっぱいだった。
トマスに選択肢はなかった。
この中に隠れるしかないのだ。
死体をかきわけ、
自分のスペースを確保する。
月明かりに一瞬見えたが、
一番上の女性は、
やさしかった隣のおばさんだ。
スペースを確保すると
泣くこともできず、トマスは石になった。
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石になることは昔兄さんに教えてもらった。
「トマス、嫌なことがあったらな。石になるんだ。」
「石になるの?」
「そうだ、石になるんだ。石になれば、何も感じない。強くなれる。」
「本当に?」
「本当だよ。何も感じなければ、悲しくもならないし、泣くこともないんだ。トマス強くなれよ。」
「わかったよ。強くなるよ。」
何やら声がする。
「これーで101匹目。」
どさっと音がする。
月明かりに、自分の見慣れた手が見える。
この手は昔、野犬から兄さんに守ってもらったときに、兄さんにできた傷だ。
月明かりに、顔が見えた。
兄さん、
兄さんの顔は恐怖に歪んでいた。
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「兄さん」
トマスは泣いていた。
フロストヴァルド南端、ティアモのキャンプで泣いていた。
巡回していたプリーストのエリザが近くに立ち寄る。
「どうしたの?大丈夫」
「兄さん」
「大丈夫?」
「兄さん」
エリザは、何も言わずにトマスを抱きしめた。
「エリザ様、兄さんが、死んだ。」
エリザは、ずっとトマスを抱きしめていた。
エリザ・ノースフォードはフロストヴァルドのハイプリーストである。
エリザの決意は一貫して、変わらない。
一人でも多くの市民と、市民の心を守るのが彼女の使命だ。




