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「……リ!」

 深い、深い闇の中……声が聞こえる。馴染んだの、その声。……でも、もう聞きたくないと願ったのに……どうして……?

「……リ!」

 どうして、聞こえるんだろ……? 多分、それは……

「手毬――!」


 もう一度目覚めると……

 白い壁、青い窓、窓から夏の香り……まさか、それは……

「手毬、聞こえるか?」

「え――」

 振り向くと、白衣と緑のタンクトップを着て、認識票を付けた赤い狼を見ました。バッジには『都築明仁。科学者、前陸軍元帥』と書かれていた。……まさか、あの時の声はあの狼からだったの?

「フッ、良かったぜ。俺達は今、あのシミュレーション世界のお嬢さんの叫び声を聴き――」

「シミュレーション――世界?」

 私は呟くと、コンピューターから白衣を着た白熊が立った。そして私とあの狼に向かって歩いた。

「これから僕が詳しく教えようか。――飛鳥さんは以前、松星さんの車に轢かれてしまいました。だが、幸いにまだ生きていた――昏睡状態に陥っただけさ。」

「そして君の意識を保つためにあのシミュレーション世界へ連れて行ったが――うう、やったことを後悔してるんだなア、俺。……な、俺はあの世界のミリストスと野郎の声だったし。だからゴメンな――お嬢さんに理由も無くて叫んで。」

 私はあの獣二人を見上げた。赤い狼は首を振り言った。

「ま、紹介しよっか。俺は都築(ツヅキ)明仁(アキヒト)、よろしく。」

 白熊は手を上げて、

「僕は明仁の同僚、武田(タケダ)良貴(ヨシタカ)だ。」

「……なら、ありがとうです――明仁さん、良貴さん。」

 明仁さんは微笑んで頭を掻いた。

「ハハハハ、いや、別に――こりゃ俺達の仕事だけな。」

「いや、本当に。明仁さん、あなた達のお陰で私はまだ生きているの。それは大した事なんでしょう?」

「そうかも知れぬ。」

 良貴さんは頷いた。そして私は聞いた。

「なら、あなた達はどうしてここに?」

 すると明仁さんは言った。

「あのな……俺達はこのシミュレーション世界と現実世界のお嬢さんの脳波をチェックしてたんだよ。」

「……え? それはどういう……」

「ま、簡単に言えば『心電図』みたいなもんだ。それで――君はまだ生きてたから、俺達が助けたんだ。」

「あ、ありがとうございます!」

 私は頭を下げたが、良貴さんが言った。

「最後に必要なのは、もう少しリラックスしてリハビリをする事だけさ。そうすれば退院が出来る。」

「それほど時間は掛からないぜ――一、二週間くらいか。」

「どうも。」

 と私は言い、二人は部屋から出た。代わりに看護婦が入り、私の腕や脚に巻かれた包帯を交換した。

 退院する前、私は看護婦に聞いた。

「あのう……あのシミュレーション世界は、本当に実在するんですか?」

 すると看護婦は無表情で言った。

「ええ、勿論よ。」

「……じゃあ、あの世界に他にも生物が?」

「ええ。でもそれはあなたの知らない動物だけよ。例えば『ミリストス』とかね……」

 そして看護婦は私の目を見て微笑んだ。

「……実はね――私も『聖女』の一つだった。どれどれ……あ、『ひみこ』と言う巫女だったし。そしてちょいととんでも無いミスしちゃった。でも楽しそうと想うわ、あれ。」

「ハゥ――私にとって楽しくないと想うけど……」

 と呟いた私に看護婦は静かにクスクス笑った。

「大丈夫――もうあのシミュレーション世界に決して戻らないからね。此処だよ、現実(ここ)。安心してね、お嬢ちゃん。」

 私は答えて、静かに頷いた。でも、表情は感謝の気持ちでいっぱいでした。あの地獄から現実(ここ)に戻って、嬉しい――

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