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新たなスキル『呪詛返し』

 次に目を起こしたときは夜だった。隣に僕のためにベッドを作ってしまったせいか、座りながら縮こまって寝ている彼女がいた。

 一度意識を取り戻してから何日経ってしまったのだろう。

 体に痛みはまだ残っているが指を思い通りに動かせるぐらい回復していた。

 体を起こせるのではと思い、腕に力を入れて少し試してみた。


「イテテテテテ」


 驚いた──なんと痛みは感じながらも体を起き上がらせることができた。


「なんですか……」


 どうやら今の声で起こしてしまったようだ。


「せっかく寝ていたのに起こしてしまって申し訳ない」


 僕が起き上がった姿を見て、僕よりも驚いた表情をして


「なんで起き上がっているのですか!! ちゃんと完治するまで安静にしてください!!」


 直ぐに体を戻されてしまった。


「早く治るためにしっかり寝てください!!」


 そう言い残すと疲れていたのか彼女はまた眠りについてしまった。

 痛みがあったため他愛無い会話しかできなかったが、何日かの日を過ごした朝、起きたらいつも通りもう彼女は隣にいなくて食料や水を取りに行っていた。

 万全ではないがもう体はだいぶ楽になっていた。

 どうしてここまでしてくれるんだろう。助けてもらった手前色々尋ねる聞くのは失礼かもしれないと思いつつ、改めてお礼をしたいのとそれでも聞きたいことがたくさんあったので話しかけてみることにした。


「申し訳ない、改めてお礼をさせてもらいたいのと、ちょっと話を聞きたくて今大丈夫かな?」


 僕の声が聞こえると、彼女も聞きたいことがあったのか何か言いたげそうに来てくれた。


「改めてになるけど本当に助けてくれてありがとう。君がいなかったら僕は無様に野足れ死んでいただろう、僕にできることならなんでもするから恩返しをさせてほしい」


「いいんですよ、もう!! 感謝してもらえれば私は大満足です、それ以上は何も求めませんよ」 

「あ、あと私の名前はエルミノです。ずっと君って言われてムズムズしてたのでこれからは君じゃなくて名前で呼んでもらえると嬉しいです」


「ありがとうエルミノ、これからはちゃんと名前で呼ぶよ。僕の名前はユアンだ」


「変な質問だったら申し訳ない。どうして見ず知らずの死にかけだった僕をここまで助けてくれたんだ?」


「あれ? 似ている服装ですしユアンさんもヒーラーですよね? 私たちは女神さまの教えでどんな人でも絶対に助けなくてはいけないですから!! もちろんそれだけじゃないですよ、私自身も助けたいと思ったからです!!」


 女神さまの教え、つい最近そんなものはいらないと吐き捨ててしまった自分には耳が痛かった。

 そういえばスキル──気を失う直前に何かを獲得したと出てきていたはず。


「ステータス確認」


 現れたステータス画面には職業はヒーラーのままだが、スキルの枠に回復スキルも浄化スキルも表示されていなかった。代わりに『呪詛返し』と書かれたスキルとその下にストック 23と書かれていた。


「初めて見るスキルです。私も含めてヒーラーの皆さんは回復スキルか浄化スキル以外覚えられないと思っていました」


 身を乗り出して僕のステータス画面を見るエルミノはそう話す。

 なんでか分からないが少し引け目を感じてしまった僕は、ステータス画面を閉じて話を逸らしながらエルミノに聞きたかった質問をもう一つ聞いた。


「僕も人のことは言えないけど、なんでこんな都市から離れた場所に一人でいたの?」


「私はいつかダンジョンを冒険したいと思っているの。ヒーラーだから無理ってずっと言われるけど、ダンジョンから帰ってきたみんなの話を聞いてたら諦めきれなくて。魔物に攻撃ができなくてもサポートになる回復スキルと浄化スキルを鍛えれば必要としてくれるパーティーだっているはずよ」

「今回も本当は都市から離れちゃダメなんだけど、教会ばかりだとつまらなくていろんな景色を見たくてうろうろしてたら来ちゃったんだ」


 僕とほとんど一緒だった──ダンジョンへの探求心、戦闘では役に立たないのは分かっている、それでもサポートとして必要としてくれるかもしれない。今となっては考えが浅かったと後悔している。

 なんとかして考え直させてあげることはできないだろうかと考えながらも、昔の自分もなにを言われても止まらなかったことを思い出して悩んでしまった。


「ちょっと水を持ってくるのがまだ途中だったから、持ってくるね」


 そう言い残すと颯爽と遠くに行ってしまった。

 いい子過ぎる、そしてスキルも相当優秀だ。ここまで優秀ならいずれ仲間に入れてくれるパーティーもいるだろう。だからこそパーティーに入った後の最悪の未来を想像してしまう。

 僕はどうやって彼女に自分の現状を伝えつつ考えなおしてもらおうか考えてしまった。

 だいぶ長い時間考えていたはずだった。

 彼女が帰ってこない──いつもなら水を取ってくるぐらいすぐに戻ってくるはずだった。

 さすがに不安になった僕は助けられてから始めて立ち上がった。

 ずっと寝ていたせいでふらつくがエルミノを呼びながら走って探した。

 川の近くでダンジョンで聞いたことがある魔物の唸り声が聞こえた。まさかと思って向かうと水を持ちながら狼の魔物の群れに襲われて傷だらけのエルミノがいた。さらにそこには明らかに他の狼の魔物より大きいボスのような奴もいた。

 傷だらけなのにまだ無事だったのは、狼の魔物ならではじわじわと弱らせてから一斉に襲う習性に助けられたのだと思う。

 ただ、軽度ではあるが狼に噛まれた傷から毒が侵食してしまっているのが見える。

 とにかく助けなくてはと思った自分は後先考えずに魔物の前に行き、大声を出して引き付けた。

 魔物の獲物を見る目が一斉にこっちに移る。

 真っ先に一番大きい狼の魔物が襲い掛かってきた。

 どうする、二人とも戦うことができないヒーラー。どうすればこの状況を打開できる……

 そうだ、気を失う前自分では考えられないほどの力が出せていた、あれが呪詛返しというスキルのお陰なら


「頼む、今回もどうか助けてくれ。命の恩人なんだ」


 願いながら拳を振った。

 拳を振った瞬間、ダンジョンの時では痛みと生き延びるのに必死で何も感じられなかったが今なら理解できた。拳の中に今まで感じたことがないほどの力を感じた。

 ダンジョンの時と同じようなすさまじい衝撃波──大きな狼の魔物だけでなく周りにいた魔物もすべて吹き飛ばした。


「なんなんだ、このスキルは……」


 ステータス画面を確認するとストックが23から22に一つ減っていた。


「一回何か行動するごとにストックが減ってしまうのか──ならどうやって貯まるものなんだ」


 いや、考える前にエルミノの無事を確認するのが先だ。すぐに傷ついているエルミノに近寄ると、毒はまだ軽度だったが想像以上に傷を負ってしまっていた。


「ありがとうございます。でも、どうしてヒーラーであるユアンがあんな力を」


「まだ分からない、でもそれよりも先にエルミノを治療しないと」


 傷が多いせいで毒の浸食も早い。

 エルミノを治そうとしたとき、回復スキルも浄化スキルも消えてしまっていたステータス画面を思い出す。


「くそっ、今の僕には人を治すスキルはないのか」


 エルミノの傷口から毒も広がっていく、エルミノはもう歩けないみたいだ。とにかく自分たちが休んでいた場所に移せばエルミノの荷物に何かあるかもしれない。そう提案し、エルミノを両腕で持ち上げた瞬間だった。

 腕に激痛が走った。痛みは増していったがこんな痛みダンジョンの時と比べたらと思い、少しの間我慢したら痛みが増すことはなくなった。

 その時、奇妙なことに気づいた。さっきまでエルミノの体にあった傷も毒もすべてなくなっていた。それと同時に自分の体を見るとまるでエルミノが負ったダメージがすべて移ったかのように刻まれていた。

 もしかしたらと思い、ステータス画面を確認すると、ストックが24に増えていた。

 このスキルはもしかして、自身が受けたダメージを力に変え、他の人が受けたダメージすらも自身に移すことができてそれすらも力に変えることができるのか。

 ダメージはそのまま自分に入るデメリットを残して……

 自分の傷ついた手を見ながらようやくスキルについて理解することができた。

 自分の両腕の異変を見てエルミノは心配しながら自分の体にあった傷が無くなっていることに気づいたようだ。

 少し動揺しつつもすぐに回復スキルと浄化スキルを使用してくれた。

 やっぱり相当優秀なヒーラーなのだろう、一瞬にして傷も毒もなくしてくれた。


「助けてくれてありがとうございます。ユアンが助けてくれなかったら今度は私が死んでいました」


 僕のために水を取りに行っていたんだ──お礼を言わないといけないのは僕のほうだ。

 ここまで何度も助けてもらっているエルミノに、秘密をもったままでいることは失礼すぎると思った僕は、これまでのこと、自身のスキルについてすべて話した。

 話を聞いてからかなり悩んでいるようだった。


「こんなことを言っといて何度も死にかけたけど、僕はダンジョンを冒険したいという探求心は消えていないんだ。だから強くやめろとは言えない。これは一つの体験談だと思ってくれればいい」

「エルミノのおかげで体もだいぶ良くなったし、これ以上エルミノを危険に合わせるわけにはいかないからここでお別れだ。お礼は次会ったときに必ず返す。本当にありがとう、エルミノが助けてくれた僕はまだ冒険が続けられるよ」


 そう伝えて少しの時間が経った後、悩んでいたエルミノから予想できない提案が飛んできた。


「それなら私とユアンさんがパーティーを組んだら最強じゃない!!」


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