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第01話 捨てられたヒーラー

「ユアン、お前のような役立たずにはこんな死に方がお似合いだな」


 パーティーのリーダーであるウォルターにそう吐き捨てられて置いてかれてしまった。


「ゲホッ、ゲホッ」


 血反吐が止まらない。度重なる毒を喰らったせいで急激に体が蝕まれていっているのが分かる。

 死にたくない、そう思いながらも指一本すら思い通りに動かすことができずに倒れこんでいた。

 ──────────────────ー


「ウォルター、捨て身で戦いすぎです。もう少し慎重にお願いします」


 パーティーの中で唯一の補助役であるヒーラーの僕は、パーティーのみんなを回復させながらリーダーのウォルターに叫ぶ。


「ちっ、いつもいつもうるせえんだよユアン、戦闘で何の役にも立たねえお前が戦士である俺に指図してくるんじゃねえ」


 戦いに夢中になっているウォルターは僕の助言には目もくれず、目の前の魔物に夢中だ。

 パーティーに入れてもらってすぐのウォルターは今と変わらず口調は荒かったが、戦闘になると慎重かつ大胆で戦士の中でも上位に入るほどの実力をもっていた。

 しかし、最近は明らかに戦闘が雑になっている。力任せに敵に攻撃するばかりで敵からの攻撃を気にする素振りすら見せない。

 そんなウォルターを僕は浄化のスキルと回復のスキルで痛みを感じてしまう前にいつも癒して回復させている。


「とっとと死にやがれぇぇぇ!!」


 そう叫んだウォルターの一振りで魔物は倒された。


「ようやく倒れてくれた……」


 今回のダンジョンはいつものダンジョンより明らかに魔物の数が多かった。スキルを常時使用していたため気を休めるタイミングがなかったけど、やっと一息つける──

 そう気が緩んだ瞬間。


「戦えないくせに私たちに指図するなんてあなた自分の立場分かってんの。荷物持ちでしか役に立てないヒーラーなんだから邪魔しないで!!」


 険しく僕に詰め寄ってきた魔法使いのシエラに驚いて転んでしまった。


「すみません……」


「戦闘に参加できないヒーラーとして生まれてきたのにそれでもパーティーに入れてあげている私たちへの感謝は忘れたの?」


 僕だってヒーラーに生まれたくて生まれたわけじゃない……

 生まれた時点で決められてしまう職業。

 ヒーラーという職業は、魔物に攻撃するスキルを覚えられないので、本来なら教会などでケガ人の治療に専念する職業だ。そのため、魔物を狩ることに重きを置いているこの国ではヒーラーという職業は下に見られてしまうことが多かった。

 そんなヒーラーという職業に生まれてしまった僕だが、それでもダンジョンという未知の場所を冒険したい気持ちを抑えられなかった。ヒーラーのスキルを極めて、戦闘の中でもサポートできるような存在になれば必要としてくれるパーティーもいるのではないかと考えて特訓し続けた。

 その努力もあってか、ヒーラーが覚えられるスキルの回復スキルと浄化スキルはほかのヒーラーよりも飛びぬけて優秀になれた。

 それでもヒーラーという理由で入れてくれるパーティーは全然見つけられなかったが、たまたまケガをして教会で苦しんでいるウォルターを助けたきっかけからこのパーティーに誘えてもらえた。

 あの時から少しでも恩返しができればと思い、パーティーの補助役として言われてきたこと以上のことを頑張り、少しでも役に立っていればと思っていた。


「あーあ、ヒーラーとかいう荷物持ちのくせに文句も言ってくる役立たず。うちらはどこまで我慢させられるんだが」


 僕の考えは虚しくシエラに続いて召喚士のロザリスも僕に罵声を浴びせてくる。


「まあまあ、ユアンも俺のために考えてくれて言ってくれた助言なんだからそのぐらいにしてやれよ」

「今回はやけに長かったがこの奥がやっとダンジョンの最下層なんだ、早く行こうぜ」


 魔物を討伐できて上機嫌なウォルターの言葉で僕への罵声が止まり、二人とも歩みだした。

 僕もついていかなきゃ、そう思って起き上がろうとした瞬間、体に力が入りづらくもう一度転んでしまった。

 少し離れたところから笑い声が聞こえるが、直ぐにステータス画面を確認する。どうやらここに来るまでの魔物との連戦でいつの間にか自分が毒を喰らってしまっていたらしい。

 ただ毒の浸食も浅く、このまま少しの時間安静にしていれば治る程度だった。


「ウォルター申し訳ない、僕自身が毒を喰らってしまっていたみたいなんだ。少し休憩させてもらえれば治る程度だから待ってもらえないだろうか?」


 その言葉を聞いた瞬間、上機嫌だったウォルターは一変、すごい剣幕で僕をまくしたてた。


「ここまでも今までも何の役にも立ってねえ、邪魔しかしてねえお前を待ってほしいだぁ!? 俺の情けで今まで居続けさせてやっているのに、いてもいなくても変わらねえ荷物持ちのお前は感謝して黙ってついてこい」

「これ以上騒ぐなら自分自身に浄化のスキルを使え、俺の持っているポーションは使わせねえ」


「そんな……」


 ヒーラーが覚えられる二つのスキル──回復スキル、大体のケガであれば一瞬にして治してしまう。浄化スキル、呪いや毒を取り除いてくれる奇跡のようなスキルである。

 数ある職業の中でヒーラーは唯一女神さまからの加護を受けているスキルだとも言われている。

 そんな奇跡のようなスキルだが一つだけ大きな欠点があった。

 それが自分自身には使えないということだ。

 なぜ、というそんな理由は女神さまにしか分からない。しかし他の人を癒すためだけのスキルであり、自分自身には使えない。

 唯一ポーションというアイテムがどんな人でも傷や呪い、毒を浄化してくれるアイテムなのだが、そんな万能アイテムは一つだけでもかなり値が張る。パーティーで唯一持っているウォルターは当然全部分かっている上で言葉をぶつけてきたのだろう。

 虚しくなるほどの言葉だったが、今の自分は苦しみながらもみんなに付いていくしかなかった。

 幸い、ダンジョン最下層の最後の扉の前までは苦戦することなくたどり着くことができた。

 扉の奥にどんな魔物がいるか分からない、どうするか──そんなことを考えていると気にする素振りもみせずにウォルターは扉に手をかける。


「どうせ俺たちが負けるような魔物なんていねえし、さっさとここも制覇して早く帰ろうぜ」


 ウォルターが扉を少し開けた瞬間だった。

 嗅いだことのある匂いが流れてきた。一瞬で体に鳥肌が立つ──これは猛毒だ!!

 叫ぼうとしたときにはもう遅かった。ウォルターが勢いよく扉を開けてしまっていた。なんでもっと早くに気づかなかった、毒を受けていて感覚が鈍ってしまっていたのか。

 扉で押し込められていた毒の霧が一瞬にしてパーティーのみんなを飲み込んだ。

 扉の先に待っていたかのように毒を吐き続けている大きなカエルの魔物がいた。

 苦しい、もともと毒を受けていたせいもあり、毒の進行が異様に早い。痺れもあってその場に倒れこんでしまい指一本として動かすことができない…

 かすかに見える視線の先から幸いパーティーの仲間たちは苦しみながらもまだ動けている確認できた。

 僕は動かない指に力を振り絞ってパーティーの仲間に浄化のスキルを使った。

 少しの時間を経て、少し遠くからウォルターたちの声が聞こえた


「さすがウォルター!! 一瞬でこんな大きな魔物倒せるなんて」


「別にこんな奴大した事ねえよ、最初の毒霧には驚いたが所詮それだけ。それ以降疲れたのか全然攻撃もしてこねえ」


 毒によって聴力も落ちていたが、かすかにウォルターとシエラの会話が聞こえる。

 よかった、浄化のスキルが効いてくれたんだ。これなら何とか僕も助かる──


「ねえウォルター、ここで無様に苦しんでいるユアンのことおいていきません?」


 かすかに聞こえた聞こえたくなかった言葉。


「ここで死んでいるならダンジョン冒険中の事故ってことにしてくれるんじゃないでしょうか。幸いこのダンジョンには私たちが倒し損ねた魔物がまだうじゃうじゃいますし」


「確かに、ここで死ぬならうちたちに疑いの目が向かれずに済みかも!!」

「うちは前から何もできないくせに文句だけ言ってくるこいつが嫌だったからとっととヒーラーを入れ替えるかいなくなってほしかったんだよ。ちょうどいいタイミングだよ!!」


 聞きたくない、信じたくない、それでも動けない自分の耳には無情にも聞こえてくる。

 少し間が空いた後で


「あー、確かにそうだな。こいつには一度助けてもらったし、補助役が一人いれば便利かなって思ってパーティーに入れたけど、今回の毒もこいつがもっと早く気づいていればこんなに苦戦することなかったしな」

「それに最近俺たちが強くなりすぎちまったせいかケガすることがねえんだよな。荷物持ちとして考えても無能加減には飽きちまったしもういらねえか」


 パーティーのリーダーのウォルターが同意してしまった。ならもう決定してしまったようなものだ。


「あの時は助かった、ありがとよ。俺たちは忙しいから先に行くわ」


「ありがとうってうち達はそれ以上に迷惑を被されてきたんだけど」


「そりゃそうか、お前のせいでこれまで俺たちは余分に苦労させられ続けたんだ。ユアン、お前のような役立たずにはこんな死に方がお似合いだな」


 そう言い残し、姿が見えなくなってしまった。

 追いかけようにも、言い返そうにも呼吸が安定しない、苦しくて声が出ない……体が動かない。


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