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 マイケルとエヴァとネッド キーガンがエヴァを奪う(付けられていたネッド)

 マイケルの意識は闇の中だった。最後に聞いたのは誰かの押し殺したような悲鳴だった事は記憶していたが、そこがどこで、どういう状況だったか、完全に思い出す事はできなかった。頭の中で反響する絶叫と銃弾の飛び交う音は、楽し気でもあり、狂気を含み、同時に恐怖を孕んでいた。黒い車のボディを盾に何度となく発射される凶器の礫が、絶望を知らせるような振動をマイケルの体に刻み込んだ。散乱したガラスや金属片に反射する街の灯りは、燃えるような赤色に見えた。

 方向感覚が分からなくて、上なのか、下なのか、ふわふわとしていて気持ち悪かったが、衝撃は確かに背面から来ていた。油の中に浮かんでいる様な粘性のある空気は重く、マイケルの手足にタコの様に絡みついて自由な身動きを封じていた。悪態をつこうと口を動かせば、大気は肺全体を満たし、咳き込むほどの違和感を喉頭に与え、悲鳴すら上げる事も叶わなかった。

 夢、という感覚はなく、恐怖だけが凝縮されている様な闇の中で、響き渡るあざけ笑いとも悲鳴ともつかぬ叫び声を聞き続ける。そのうちマイケルはぐわんぐわんと揺れる大気の波の中で激しい嘔吐感を覚えた。同時に肩、原、腕、足、首。あちこちに鋭い痛みを感じた。焼けるような痛みは背後から全面に抜け、骨を溶かす様な強烈な刺激だった。抉り取られる肉の感触に、慄きを覚える程の焦熱が患部を襲った。

 撃たれた、と気づいたのは上がらなくなった腕と動かなくなった足を見て、黒い液体が付着している事を認識したときだった。突如、背中に寒気を覚えた。恐怖、というものを理解したのだろう。何に対する? 大切なことを思い出せない様ではあったが、死に近づく事で"何か"が消える気がした。腕を足を怖がる心を奮い立たせながら、どうにかこの場から逃れようと考えた。

 何かを抱えていると気づいたのは、視界の中にある影だった。セルロイド人形の様に脱力しきったマイケルの手足の中に、力の入らぬ自分の腹の上に、黒い何等かの塊がいるのだ。動かず、蠢く靄によって形成されている影は、騒ぐことなくそこにあった。しがみ付く様な素振りはなく、慌てる様子もない。頭の中をかき乱す狂う声は充満という域を超え、飽和していた。二重、三重に重ねられるゴスペルの様に心地よさの一つでもあればよかったのだが、あるのは不快な蔑みだけだろう。

 腕の中で影が蠢いた。形状は不定形。ゆっくりとマイケルの視線の動きに合わせて縦に伸ばされた。それが何であるか。血に濡れた栗色の髪を形成し、特徴的なサイドテールを形成。開かれた双眸の眼は、恐怖に揺らぎ、――


 「メアリー!」悲鳴に似たマイケルの叫びは、誰も居ない病室の窓を震わせた。大気を震わせる程に大声ではなく、おそらく、陶器の器を割った程度の叫びであったにもかかわらず、びりびりとした音を響かせるのは、この病院の建物が古いからだろう。マイケルは開いた瞳の先に白一色で埋め尽くされた部屋を確認した。「……どこ、ここ」はっきりしない頭の中で視界をぐるりと動かす。首に何か当たっているのか、思い通りに全体を見る事が出来なかった。6㎡程度のこじんまりした個室には窓が一つだけあって、マイケルの右てに見えた。木造のサイドチェストの上には水差しが残っている。「病院だよ……へー」

 他人事の様にマイケルは視線を動かす。腕を動かそうとすると抵抗がある事に気づいた。「ん?」と顔を下に向けると鋭い痛みと共に、ギブスで固定された両手が見えた。「……へー。怪我してるよ僕」事実を確認するだけで精一杯であり、何が有ったのか思い出せない以上、事実を列挙して推測するほうが早そうだと思えた。「足も、あー痛い。……ほんといてぇ。撃たれたのなんていつぶりかな」

 意識を集中させると、体の状態が良く分かった。5年前からマイケルはすでに人を止めていた。サニーの亡霊に守られる生きる屍と同類だ、とマイケルは認識していた。教会などが見つけ出した《呼ばれた者》とは違う、化物である事は事実だ。5年前、マイケルへの拷問の一環で、目の前でサニーは殺された。あっけなく命を散らす、という慈悲はなかった。キャンキャンと悲鳴を上げながら四肢をミンチにされる様は、未だに人間味を一切感じない、恐怖感を覚えた戦慄の記憶として残っていた。ヴァネッサ・ラティマー・リーは真正のサディストだ。

 サニーの悲しみに満ちた嘆きは、マイケルへの怨嗟ではない。あのヴァネッサへの呪いの言葉だ。サニーが何と言っていたのか、人語ではないため多くの人にはわからなかっただろう。しかしマイケルは分かる。同じ思いをその場で思っていたのだ。「復讐リベンジなんて綺麗な言葉だよね。――僕たちには単なる復讐ならとっくに与えられていたけれど、……そうだなぁ、」マイケルはコキコキと凝り固まった体を無理やり動かした。手足の拘束は"破壊"された。ギブスは縦横無人に切り裂かれ、手から生えていた輸血用のチューブは引き抜かれた。見えざる手がそうさせるように、彼の周りに黒い靄が滞留し始めた。「奴らに屈辱を与えたいんだ。悪夢の様な悪寒を奴らに味あわせたい。それって殺意よりは弱いの?」

 靄がマイケルの伸びた足の上で一つの形を作った。黒い大きな犬の姿。ドーベルマンの姿は漆黒の艶やかな毛で覆われ、緋色の瞳が炎の様に燃えていた。スフィンクスの様につーんと顔をまっすぐにしてマイケルを見た後、マイケルの言葉に首をちょこっと傾げた。「そりゃ、分からないって顔するよね。"殺す"だけで満足じゃないんだっていうのは分かるんだけどさー」マイケルにとっても、リチャードとヴァネッサとバラシ、臓物を晒し、かつての串刺し公の様な尊厳の踏みにじりでは満足が出来なかった。できる事なら同じ様な拷問にかけて、後悔という言葉を脳髄にまで染みわたらせて分刻みで徐々に足先からスライスしていく、というのがいいのではないか、と考えていた。マイケルが残忍な思想に取りつかれようとも、サニーは「殺せればいいんだ」というようにあくびをした。

 「その気持ちにこだわって、今回メアリーが居なくなったんだけど、バカだよな」サニーは意気消沈するマイケルの暗い表情をまったく気にしてはいなかった。彼女にそこまでの意思はない。ただの怒りだけが、マイケルに呪いという楔でつなぎ留められているだけだからだ。思考は存在せず、無邪気な子供の用に心の中でマイケルに「さっさと奴のところに行こう」と急かしていた。「この呪いが終わったらさ、」マイケルはサニーの瞳をみると、もし、という言葉を出さずにはいられなかった。「僕は死ぬのかな」

 サニーに手を伸ばすと、彼の手は実体のないはずのサニーの体を触る事ができた。あり得ないものに触れる事ができる。代わりにマイケルの体が少し透けているようにすら見えた。影が薄い、というのが言葉通りの意味なのか、あるいは、体が陽炎の様に消えていくものなのか、マイケルですらわからない。死の淵にあったマイケルには天啓を得たような感覚もなかったし、取扱説明書すら用意されていない。残っていたのは、鍵と、彼のなかに残っているサニーの心だけだ。

 「開けるとさ、」ベッドの側にあるサイドチェストには、年代物のウォードが乗っていた。手を伸ばせがすぐに手に収まった。大きくも、小さくもない。すきま風にあたって少しひんやりしていた。「父さんが遺した金ぴかの世界がみえるわけなんだけどさ、なんとなーく、いつも少しづつ減ってんだ。僕もその中に物を突っ込んだりしてんだけど……それも減っていくんだ。誰かが使う、という事もできないだろうし、僕の"血"で契約されているのは知ってるしね。あそこが……この世界、いや、この星のどこかではないのは分かってるさ。サニーもいるし、星の瞬きも全くこっちと違うしさ。太陽の代わりに三つの月があって、肌寒くて」マイケルが身をよじると、サニーはすっと床に降りて、綺麗なお座りの姿をした。乱雑にかけられていた茶色のブランケットをはねのけて、ぐっと体を伸ばして足の重みを解消した。ニ、三度のびをした後、ベッドから体をはねのけてひんやりした床に裸足で降りた。「あそこは神様がいる場所なんだろうな、って思っていたけどさ。結局、サニーをつなぎとめてる方法なんて全く分からないしね。僕も死んだはずなのに、まだこうやって生きてる、っていうのはー、何かあんだろうって思うじゃない。つーと、……、この恨みが晴れた時には消えるのかなぁ、ってさ」

 カーテンをばっと開けると、まぶしい程の太陽の温かさが降り注いだ。手、足、肩、あちこちに渡っていた包帯が一瞬で蒸発する。マイケルは、猛火に浴びせられた様に虫食い状に溶けるように消えていく様をみても、一切表情に何も出さなかった。「結局、僕も幽霊の類なんだろう、ね。――あー……ほんと、メアリーが僕の事を忘れてくれてればよかったのに」サニーは苦笑する様にクーンと鼻を鳴らして見せた。「はぁ、」と軽い溜息をついて、白色の貫頭衣を脱いで下着姿になった。外から見られているかも、という羞恥心は一切なく、変化も一瞬のうちに、「ま、こんなもんでしょ」と普段のスーツ姿に変わった。「一度身につければ、それを取り込む、っていうのもどうなんだろうね。いや、楽でいいよ。でも一緒に幽霊になってる、ってことになる、ってーと、服の幽霊……?」一人で頭をひねるマイケル。

 キッとサニーは入口の方を見た。直ぐに黒い靄になってマイケルの周りにまとわりつき、スーツの黒色の姿に溶け込んだ。「だれ?」

 マイケルの言葉に、おどろいた様におずおずと扉が開かれた。「あ、のー」引き戸は酷い音をたてて開いた。少しくらいは油をさしたほうがよさそうなものだが、多くの部屋が埋まっている訳でもない事は、バッジオから聞いていたため、マイケルにはお金がない、という事を十分に理解する材料にしかならなかった。無駄な事にはお金を使うが、本当に必要な所には使わないのは経営者としてどうなのか、と思ったが、バッジオはただの医者であったから、いったところで無駄だと理解した。

 「エヴァンジェリンだけ来るわけないから、スティーヴもいるんだ。――つーか、だれそいつ」ひょっこり入ってきた包帯だらけの男の姿をみて、マイケルは目を丸くした。面識のない男がエヴァンジェリンに連れられてきたのだから、成程、と納得する要因が一つもなかった。警戒する事はあれ、快く迎える事はできなかったため、男に対して手を差し伸べる事もしない。「あー、昼頃に孤児院に行き倒れておりまして……」エヴァンジェリンが申し訳なさそうに顔をゆがめて低頭に出た。なぜ彼をかばうのか、理解が出来ず、マイケルはさらに怪訝な表情を向けた。

 「あの、マイケルさんに用事があるとのことですの。あの、えーっと、新聞屋の」「ジョンソン・マーチンだ」「は?」マイケルは訝し気にジョンソンをみた。剣の様な視線はちくちくとジョンソンの包帯だらけの姿を穿った。痛そうに身をよじり、情けなくエヴァンジェリンの後ろに隠れた。大の大人がそんな姿を見せるものだから、さらにマイケルの目は険を持った。「あの、えっと、……」困った様子のエヴァンジェリンは杖をつきながら部屋に入りわたわたと慌てた。先のない左腕が痛々しいが、なれたものの様で、先がないというのに手として存在がるような動きだ。

 「僕の知っているジョンソンって、一人しかいないんだけど、そいつ、姿出す事は絶対ないって言われてるんだけど?」警戒感を露わにしながら、その顔をじろじろとみた。唇にあるピアスを見ると、「逆に僕が知っている、お尋ね者と同じ姿なのはなに? 馬鹿にしてる? あぁ、"リチャード"の使いか」マイケルはガラスを左手で割った。軽快な音が響き、ひっとエヴァンジェリンが肩をすくめた。すぐさま破片の一つを手にとると、ジョンソンに向かって詰め寄った。

 「なぁ、ネッド。自分の命欲しさに、荷物を残した"配達員"は、普通処分されるのが通例だよなぁ」三角形のガラス片はジョンソンの首に食い込んだ。姿勢をかがめ、包帯らけの体であるから、皮膚に食い込んでいるわけではない。少し強めに押し当てながら、マイケルの目は怒りで満ちていた。あの姉の様なカミラを殺した要因であった事、次いであのリチャードの手下である事、いろいろな思いが駆け巡って燃えていた。「ま、まぁおちつけ、な?」両手を上げてジョンソンはひきつった笑みを浮かべた。エヴァンジェリンがそれに追従する様にうんうん、首を振っていた。マイケルが無視すると、声を発しようと一歩杖をついて前にでた。マイケルがエヴァンジェリンを制する様に鋭く一睨みをすると、すぐさま立ち止まった。

 マイケルは落ち着かない。怒りを露わにしている、という訳でもないが、殺意だけはふんだんに放っていた。「あのさ、分かってるよな。あんたが《不死身》といわれるくらいなら、より良くわかってるよな? 僕に会いにくる事の意味くらい、よおくわかってるよな? 君さ、ちょっと死んでくれない? そろそろ我慢の限界ってやつで、とりあえず、一人くらいバラシてリチャードに郵便で送りつけてやりたいもんだよなぁ」ネッドはひきつった愛想笑いを浮かべて、「いや、偽名じゃないっていうのはマジ、マジだから。いつも情報ながしてんのオレだから。アンタの事もよく知ってるし、……でなけりゃ、あれだけネッドについて正確に、下水を通る事すら教えらんないし」「……えー。ちょっと死ぬだけでいいんだけど」ぐっと手に力を籠めるマイケルに、ヒヒッとひきつった声を出してジョンソンは少し身を引いた。

 「ちょっとですまない、――いてぇんだから、ちょっとくらい、優しくしても……。あはい、あのな、」マイケルを見ながら、ジョンソンは口をとがらせた。「リチャードの手下っていわれるけどオレは元々、アンタの親父の手下なわけ。家を乗っ取った時に手を引こうとも思ったんだけどさ。相手も結構悪い奴でさ、こっちの事ある程度おさえられてるんだって」ため息を一つ。「縁切りにはちょうどいいと思って、姿くらまそうとしたら、"最後の仕事だ"ドーン!ってわけ。こっちはいい迷惑だよ。本人の前であんまり言いたかねぇけど、運ばれてた先は結構悲惨だぜ? リチャードのパトロンの――あぁ名前は言わねぇ方が良いな。場所がアラスカってこった。船でおさらばってわけよ。――別嬪さんの使いみち? そんなのオレに聞くなよ。オレはただの運び屋でそれ以上聞く必要はねぇわな。ただ……どっちも《羽付き》なんだろう? 噂には聞くがね、良い実験施設らしいよ。……見たくもねぇけどな」

 マイケルはんー、と唇を真一文字にして、糸の様に目を細めながら値踏みした。ジョンソンの言葉が正しいか、判断する根拠が無かった。「なんか証拠あるの?」不躾な言い方だったが、相手もその手の世界を渡っている相手だ。「オレの、ポケットの中に"鍵"がある。アンタの親父の名前が入ってる」「それだって奪ったもんだって可能性もあるぜ?」ぐっとジョンソンは言いよどむ。すこし思案して、「ジョージが貯めた財の先を知ってる。そこはひどく"冷めた"場所だろう? 殺風景で、いい倉庫だ。あんな一等地の側の海辺の倉庫とは違うだろう? あの、"三つもある月"は見た事もないわな」エヴァンジェリンは訳も分からない様子であったから、話に加わる事はなかった。ジョンソンの首筋に突き立てられたガラス片を見て、ハラハラとした表情のまま、左腕を伸ばそうとして、引っ込めて、を繰り返していた。欠ける手先を考え何もならないことを悟ったらしく、二度ほど繰り返すと、きゅっと口を結んで硬直した。固い表情のままではあるが、マイケルの動きを凝視している。

 沈黙した時間がどれくらいかあった。図りかねたのは事実だったが、ジョンソンの言葉がウソとも思えなかった。なにより、あそこを知っているのは関係者だけだというのは分かっていた。それもひどく限られた。マイケルは静かにジョンソンの服を触ると、ズボンのポケットに硬質のものを確認した。ゆっくりと右手を引いてガラスを外すと、ポケットを指さして、「出して」と一言。小さくうなずいて、ジョンソンは包帯でぐるぐる巻きになった手を器用につかってポケット皮の袋を取り出した。年季の入った側の小袋は、金剛うちされた紐濃い色の紐でで口をきっちりと縛っていた。ジョンソンは人差し指と親指でつまむ様にもつと、そのままマイケルに投げて渡した。

 左手でパシリと受け取ると、ガラス片を投げ捨てて袋を開けた。「はーん」あまり興味のなさそうな声を出して、マイケルは取り出した鍵を見つけた。深紅の鍵はぬらりとした光沢をもち、血が滴った様なグロテスクな様相だった。「かつて、マヤ王朝が栄えていた時、文明の礎となりえる預言を行うために、天に向けて交信の儀を行ったとされている。そのために巨大な建造物をたて、"未来"を覗き見ることをしたってな。実際は、そんなものではなく、"神"に未来を作ってもらう事を懇願していたんだ。アンタの親父はその遺跡から手に入れた"謁見の場"のカギを二つ手に入れたってこった」「何それ。どっかの昔話?」ジョンソンはマイケルの興味なさそうな言葉を無視し、続けた。「キリスト教では神というのは一つってーことだが、実際のところ"神"なんていう存在はいくらでもいるんだろう。鍵の数だけ"神"への扉は開かれる。アンタが"使って"る黒鍵はな。死者を一時的にとどめる事ができる神の場だ。そこに財を押し込んで、"アンタ"が死なない様に親父が"神"に頼んだ、ってーことだ」

 マイケルは沈黙する。「悪魔、とは違うのですか……」教会の信者であるエヴァンジェリンには、ジョンソンの放った単語は、知識の中にある悪魔に酷似していると感じたのだろう。ジョンソンは難しい顔をしてエヴァンジェリンを見た。少しだけ、寂しい様なそんな視線だ。「悪魔、と言われれば、教会が"決めた"のであれば、そうだって思う。正しいことなんてオレらには分からねぇよ。信仰の対象になるのが神ならば、それ以外の人知を超えたモノは悪魔だといえば、それまでだしな」「――そう、ですか」ジョンソンは腑に落ちないエヴァンジェリンにそれ以上言葉をかけず、マイケルに向き直った。

 「それはな、特別なやつだ。それを見て、使うべきかどうかは分からないが、あって損するもんでもねぇ、とは思ってる。アンタのおやじに付き添って"遺す"もんだ。ちゃちなもんじゃねぇよ。ただ――、代価は気を付けろ。タダ程怖い物はねぇというだろう? 黒鍵の"代価"とはくらべものにならないもんだろうさ」含みのある言い方にマイケルは苛立ちを感じた。すぐに口汚い言葉を出そうか考えたが、口を噤んで、鍵をじっと見つめていた。

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