蛇と虎の出会い
例えばー7時13分に目が覚める。
例えばー7時56分に家を出る。
例えばー8時13分競馬場に行く途中でチンピラに絡まれる。
例えばー10時40分チンピラから奪った財布を落としてしまう。
俺は今日俺の身に起きる全てのことを一度体験している。そう、この男に出会う以外の全てを。
「あんた、財布落としたぜ」
男のポッケから落ちた財布を拾うと、僕はそう言った。
男は振り向くと僕のことを驚いたように見つめた。
「お前の名前は?」
「?蛇谷だ。蛇谷克巳」
「そうか、蛇谷……へびたに……初対面か?いや、そんなはずはない。俺は今日を一度……」
僕の名前を聞いた男は、何か考えごとを始めた。
「もしかして知り合いか?もしそうなら悪い、思い出せない」
「いいや知らないね、だから考えているんだ。なぜ俺はお前を知らないのか。あの忌々しい、クソッタレの、ドブのようないや、ドブよりも、最悪な悪夢に何故!お前が出てこなかったのかを!」
男は興奮したように叫んだ。
「……すまない、取り乱してしまった。俺は虎倉大河だ。財布、ありがとう。お礼とお詫びだ、信じてもらえるかは知らないが、次の第3レース一着は12番、二着は9番、三着は7番だ」
言い終わった途端、男は口から血を吐いた。
「お……おい、血出てるぞ。大丈夫か」
「大丈夫、気にしないでくれ。じゃあな」
虎倉と名乗った男は逃げるように去っていった。
「しかしあの虎倉という男、適当なことを言うな。12番、9番、7番といえば最低人気の三頭だぜ」
僕の予想は本命3番、対抗5番、穴馬が1番と8番で男のいう12、9、7とは擦りもしていない。
「……だが気になる。そんなはずはないと思えば思うほど、そうかもしれないと思ってしまう」
結局僕は予定通りの馬券に加えて一枚だけ、12、9、7の三連単を購入した。