8. -回想①-
クラウド大陸の北東に位置するアースフィア王国。
俺の所属しているパーティが活動拠点としている国だ。
あの日、俺達パーティはギルドの依頼で森の中のとある洞窟へと向かっていた。
俺の生まれ故郷でもある辺境の村アジュールで魔獣の被害が増えているための調査だ。
"魔獣"は悪しき魔力ともいえる瘴気に取りつかれた獣や人の総称で、大抵の魔獣は意志を持たず破壊の衝動で他者に害をなすため、俺達冒険者や王国の騎士団等から討伐の対象とされている。
今回の調査も冒険者ギルドからの依頼だ。
目的の洞窟はかつての鉱山跡地なんだけど、最近強い瘴気が確認されたため、魔獣被害の発生源として調査を行うことになったんだ。
元々は村のギルドに所属する別のBランクパーティが調査に向かっていたんだけど、帰還予定日を過ぎても戻らず連絡が途絶えたため、休暇で王都から村に来ていた俺達のパーティが支援要請を受けた。
依頼は森と洞窟の調査。そして不明パーティの捜索。
依頼報酬は安かったけど音信不通となったパーティに俺と同じ孤児院出身の幼馴染が所属していたから、その消息が気になりリーダーに頼み込んだんだ。
「魔獣が大量発生しているって話だったけどちっとも魔獣でないっすね」
先頭を歩く小柄な少女が俺達の方を振り返りながらつぶやいた。
冒険者ランクBの武闘家リリア。
パーティ最年少の15歳で、いつも俺に絡んでくる小生意気な女だ。
ショートカットに愛嬌のある顔立ちで中々可愛いのだが・・・口が悪い。
ちなみに冒険者ランクはギルドに所属するとクエストの達成実績や昇進試験の結果に応じて与えられるんだけど俺が17歳になってようやく得ることが出来たランクBという称号を2年も早くに取得している。
悔しいけど実際強いんだよなこいつ。
「まぁ居ないなら居ないでいいんじゃないか?報告書を書くのも楽だしな。
それに俺としてはとっとと依頼を達成して飲みにでも行きたい気分だぜ」
とリリアの少し後ろを歩きながら話す長身のこの人はレンジャーのユンハ。
ふざけた感じではあるけどこのパーティのリーダーであり最年長の28歳。
ギルド内でも数少ない経験豊富なランクAの冒険者として王都ギルドでの信頼も厚い。
ただ・・・普段の口調は軽めでどこまで本気で話しているのか時々わからなくなるのが困ったところだ。
「でも、ギルドが調査を行っていて怪しいと目星をつけた場所でしょ?
それに先に調査に向かったパーティからの連絡が途絶えたって言うのも気になります」
彼女はアメリ。ランクBの魔術師だ。
ランクBではあるけど、大規模な魔獣掃討作戦などにも参加した経験を持つ魔術師で非常に頼りになる。昇進試験を受けていないだけで実質実力はAランクとも言われている。
見た目は綺麗で落ち着いたお姉様という感じで年齢は非公開・・・ただ経験を聞いている限り・・・・あ、アメリさん睨まないで・・・。
「確かに今まで魔獣に全然遭遇しないのも逆に不気味ですしね」
そして俺。魔法剣士のアレク。
今年17歳で、最近ようやくランクBになった冒険者だ。
12歳で冒険者となって5年。Eランクからコツコツと・・・長かった。
一応本職は剣士でリリアと2人前衛として戦っているんだけど火水風土の4大属性の魔法や回復系・補助系の魔法も使えるということで魔法剣士を名乗っている。まぁこれだけ言うと凄いんだけど魔力値がそれ程高くないからレベルの高い魔法を使うとすぐ魔力が枯渇してしまう。
結局使える魔法は初級クラスのものが大半で中途半端な感じなんだ。いわゆる器用貧乏だ。
このメンバーに今日は村で怪我人救護の支援をしている神官のリーフを入れた5人が俺達のパーティだ。
ちなみにアジュールは俺とリーフの生まれ育った村でもあり、今日は仲間を伴って休暇も兼ねた久々の里帰りをしていた。
まぁ仕事受けちゃったから厳密には休暇じゃなくなったけどな。
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そんなやり取りをしながら歩いているうちに俺たちは目的の洞窟に到着した。
「着いちゃったよ?」
「先行パーティもだけど、魔獣と争った痕跡等も無かったですね」
「だとすると先行パーティは洞窟の中か?」
結局ここに来るまで低級の魔獣にすら出会わなかったし、不明パーティの痕跡も見つけることは出来なかった。
道に迷った?
それともやはり洞窟内の調査で何らかのトラブルにあったのか?
「・・・きれいなもんだな」
と俺が考えを巡らせているとユンハさんが洞窟入り口周辺を見てつぶやいた。
「え?」
「見てみろよ。あれだけ雑草が茂ってるのに踏み荒らされた後がない。
本当に洞窟の中に入ったのか?」
確かに調査のために洞窟に入ったのであれば入り口付近の土や草が荒れていてもおかしくはないはずだけど、入り口付近に乱れは無く人が踏み込んだ形跡が見られない。
だとすると不明となったパーティは・・・
「まぁ考え込んでても仕方ないよ。ここに来るまでに居なかったんだしとりあえず洞窟の調査してみよ。もしかしたら中で怪我して動けなくなってるのかもしれないし。あ、見た感じ罠とかはないよね」
「慌てるなリリア。念のためちょっと調べるから待っててくれ」
確かに一見したところ唯の洞窟にしか見えないし魔獣の気配も感じない。
瘴気が高いと聞いていたけど正直そうも見えない。
でもギルドが魔獣の発生源として特定していたんだよな。
・・・そもそも何処からの情報だったんだ?
信憑性のある情報なのか?もしかして何かの罠?
色々と思うところはあったが、俺達はユンハさんを先頭に洞窟へと歩き出した。
が、ユンハさんが急に立ち止まって後ろを歩いていた俺とリリアに叫んだ。
「どうかしたんですかユンハさん?」
「・・・・アレク、リリア下がれ!!」
俺とリリアはその声に反応し訳も分からぬまま後ろへと飛んだ。
それとほぼ同時に俺達が居た場所に向けて洞窟の中から黒い光が放たれた。
「ぐわぁ!!!!」
俺達よりも洞窟に近い位置に居たユンハさんは離脱のタイミングが一瞬遅れ光をわき腹に受ける形となってしまった。
苦痛に声を上げその場に膝をつくユンハさん。
咄嗟に体を逸らしたことで致命傷は避けることが出来たようだけどかなりダメージを受けている。
「なんだ!」
突然の攻撃に負傷したユンハさんを守るように体制を整える俺達。
気配も魔力の高まりも・・・・何も感じなかったぞ!?
「アレク!あれ!」
「ほぅ。気配は消していたはずでしたが、あの攻撃をかわしましたか。前の冒険者たちよりは遊べそうですね」
洞窟奥からローブをまとった男?が現れた。
魔導士か?それに隣にいるのは・・・




