1. -道具屋のアレク-
俺とリーフが育った孤児院が・・・思い出の詰まったアジュールの村が燃えている。
"やめてくれ!"
"俺の大切な物を奪わないでくれ!!"
「今までありがとうアレク」
「駄目だ。リーフ駄目だ!」
「私、幸せだったよ・・・・」
"リーフ!"
"行かないでくれ!俺を一人にしないでくれ!"
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「リーフ!!!!」
起き上がった俺の目の前には見慣れた部屋の壁が見えた。
殺風景な"今の"俺の部屋だ。
夢・・・・か・・・
最近よく見るな・・・
俺の名はアレク。
"元"冒険者で今年20歳になる。
3年前。俺はある事件で多くの仲間や友・・・そして故郷を失った。
そして、俺自身も大きなダメージを負った。
状態などから考えて助かったのは奇跡的だったらしい。
俺は大切な人を守るために強くなったのに守ることも出来ず・・・俺だけが生き残る結果となった。
傷の癒えた俺は、皆の仇でもあるローブの男を探し各地を回ったが、結局その足取りも見つけることが出来なかった。
そして、無力感に苛まれた俺は冒険者を辞めた。
今俺は以前ギルドの依頼で立ち寄ったこともある港町ラクルで暮らしている。
昔は漁業や海洋貿易の要所として発展していた町だけど今は主要航路も新しくできた港町アクティに移り、静かな田舎町と化している。
だけど、ここの景色をリーフが好きだって言ってたんだよな。
それに町の人達は皆よそ者の俺に親切にしてくれた。
2年前にこの町に来た俺は、しばらく冒険者として働いた後、貯めていた貯金を資金源として道具屋を始めた。
森で薬草を採取したり、調合したポーションや冒険者時代の伝手で王都でから仕入れたアイテムを販売したり・・・刺激は無いけど新たなコミュニティーの中で静かな生活を送っている。
冒険者時代の装備もほとんど売り払ってしまった。
今の俺には必要ない。
残っているのは冒険者になったばかりの頃にリーフにプレゼントしてもらった短剣だけだ。これは今でも護身用として常に持ち歩いている。
あの時は冒険者になった記念にってお互いなけなしの貯金を出してお揃いの武器をプレゼントしあったんだよな・・・・
今となっては鈍らだけど当時の俺には十分すぎる武器だった。
リーフも・・・最後の時まで俺がプレゼントした短剣を握りしめていた。
もっといい武器も持ってたはずなのにな・・・・
視線を窓に移すと陽も高くなっている。
物思いに耽っている場合でもなさそうだな。
流石にのんびりしすぎだ。
早く店を開けないと。
そう思い着替えようと近くの椅子に脱ぎ散らかしていた服を手に取ろうとしたところで外から大きな声が聞こえた。
「アーレーク!!もしかしてまだ寝てるの?もう昼だよ早く起きなよ!!
今日はシンと薬草取りに行くんでしょ!」
窓の外から町長の娘さんのユズハの声が聞こえた。
相変わらず元気がいい。
ユズハは俺より5つ年下の15で、今年成人したばかりだけど"町を守るんだ"と衛兵やギルド所属の冒険者たちから剣術の指導を受け日々鍛錬している。
魔法はどうも苦手らしく剣士を目指しているんだそうだ。
本当は冒険者登録もしたいらしいけど町長さんが許してくれないらしい。
まぁ心配なんだろうな。
この間も嫁の貰い手が・・・って嘆いてたし。
でも"町を守る"か・・・結局俺は強くなっても何も守れなかったけどな。
ってシンと薬草取り?・・・・・しまった!
今日はシンを薬草取りに連れて行く約束してたんだっけ!
完全に忘れてた。
とりあえず急がなきゃな。
「あ あぁすぐに今行くよ」
慌てて着替えをして外に出ると少しイライラした感じのユズハが腕組みをして俺を待っていた。
「悪い!待たせちまったな」
「遅い!いつまで経っても待ち合わせ場所に来ないから迎えに来たんだよ!」
「ごめんごめん。あんまりいい天気だったからつい寝過ごしちまった(流石に忘れてたとは言えないよな)
あんまり怒ると可愛い顔が台無しだぞ♪で肝心のシンは?」
「か 可愛いって・・・ご誤魔化さないでよ。
シ シンは行き違いになるとまずいから待ち合わせ場所で待ってるよ」
「そっかじゃあ急がなきゃな」
「ちょ ちょっと待ってよ!!」
シンはユズハの幼馴染で武器屋の息子だ。
歳もユズハと同じだけど彼はユズハとは逆でおとなしく真面目な性格だ。
争いごとも苦手で親父さんは大人し過ぎっるて嘆いてたけど俺は悪いことではないと思う。
それにシンは魔法の素養がある。独学で勉強をする傍ら俺のところに来て魔法の扱いや薬草の調合なども勉強している。
本当真面目ないい子でユズハにも見習ってほしい。
ちなみに今日の薬草取りもその一環だ。
(まぁユズハが来るまで忘れてたけど・・・)
「よぉアレク!この間頼んでた薬草どうなった?」
「こんちわ。ルークさん。今から薬草取りに行くんで見つけたら後で納品するよ」
「おぅ頼んだぜ。そろそろ在庫がなくなりそうなんでな」
「了解!」
「こんにちわ アレクちゃん。今日もいい天気だねぇ~何処かお出掛けかい」
「あ、ユミカの婆ちゃんこんちわ。薬草取りに行くんだよ」
「そうかい そうかい。気を付けていくんだよ」
「あぁ ありがとう。行ってくるよ」
知り合いも増えたしここでの生活にも馴染めてきたと思う。
冒険者時代は王都を拠点にはしていたけど、依頼を受けて旅をしていることが多かったからこういったご近所付き合いってこともなかったよな。
こういう生活も悪くない。
出来ればこういった日常を君と一緒に過ごしたかったよ・・・リーフ。