4. 初仕事
定刻になり乗り合い馬車は王都に向けて出発した。
俺の席は御者のおっさんの隣。
当然のことながら座り心地のよさそうな馬車の中ではない。
ちなみにお客様であるサラはもちろん馬車の中だ。
そして同乗者は、商人風の夫婦が1組と同業者(冒険者)なのか格闘家っぽい服装の小柄な女性の3人だ。
結構大きな馬車だったけど思いの外に乗客は少ない。
この馬車が王都につくのは3日後の予定らしく、その間の護衛が今回の仕事だ。
あくまでも予定という事らしいけど、途中の村や町での休憩をはさみながら進むと御者のそれくらいかかるんだそうだ。
電車や車ならそんなにかからない距離なんだろうけど・・・この世界での移動は馬車がメインらしいからまぁ仕方ないんだろうな。
それにしても馬車に乗るのは転生前含め初めてだけど結構揺れるんだな。
酔わないか心配だ。
俺が歩いてきたのと同じような砂利道を数刻進むと馬車は樹木が生い茂る森へと入った。
まだ昼過ぎだと言うのになんだが薄暗く気味が悪い。
地理的に確かサラに教えてもらった情報だと・・・
「なぁサラ。ここってドミナの森であってるか?」
「うん。正解です。ちゃんと覚えててくれたんですね。偉い偉い♪」
後ろを振り返り馬車に乗るサラに話しかけると笑顔で返事が返ってきた。
毎回思うけどサラって俺のこと完全に子供扱いだな。
失礼かと思って年齢は聞いてないけど俺よりは年下だよな。。。
でも、前に教えてもらったドミナの森だとすると確か魔獣が居るんだったよな。
少し気を引き締めないと。
その後も馬車は森の中を順調に進んだ。
少し暗くはなってきたけど今のところ異常はない。
もし魔獣が出てきたら・・・俺に倒せるんだろうか。
一応サラの指導で低級の魔獣とは何度か戦って勝てたけど人を守って戦うのとは違うだろうし今回も低級の魔獣が現れるとは限らない。
そんなことを思い少し真剣な顔をして身構えていると
「兄ちゃん、確か迷い人なんだよな?護衛の仕事も今日が初めてなんだろ?」
「え?あ、はい・・・」
御者の人が話しかけてきた。
俺より一回り以上は年上だろうか、気の良い感じの人だ。
でも迷い人って・・・御者の人も知ってるくらいメジャーなのか?
てっきり教会関係者の人しか知らないものかと思ってた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だぞ」
「で でもこの森は確か魔獣が出るんじゃ」
「まぁ確かに魔獣は出るが・・・今走っている"街道"は結界の魔法で守られているからな」
「結界の魔法?」
「そう。王都を中心に町や村を結ぶ主要な街道には聖女様の結界が張られていてな。余程強力な魔獣でない限りこの道に入ってくることは出来ないんだ」
「そうなんですか?」
なにそれ。そんな便利なことになってるの?
サラから聞いてないんだけど・・・と後ろの馬車の中を見るとサラは気持ちよさそうに寝息を立てていた。
ったく。ビビッて損した気分だ。
「そもそも、そんな頻繁に強い魔獣が出るんなら新人の冒険者一人に護衛は頼まんよ。一人しか雇わなかったのも襲われる可能性が低いからだ」
「成程」
だよな。
確かに客が少ないとは言え、護衛が俺一人だけってのは普通ないよな。
そんな裏話があったのか。
「まぁ大丈夫とは思うが、護衛は万一の保険だな。
あ、後は俺の手伝いで雑用を行うのも仕事の1つだったな。こっちは頼むぜ」
「はぁ」
確かにギルドの依頼には御者の手伝いも依頼に入ってたな。
何を頼まれるのか知らないけど・・・まぁ何とかなるだろ。
「そう言うことだからもう少し肩の力を抜いてくれて大丈夫だぞ」
「ありがとうございます」
まだ会話が不自由でわからないような言葉もあったけどおっちゃんとはだいぶ打ち解けて色々な話を聞くことが出来た。
この世界のことはまだまだ知らないことも多いしすごく勉強になった。
そして、そんなやり取りをしながら馬車は森を進んでいき
「そろそろ森を抜けるぞ」
「そこで休憩でしたっけ?何事もなく抜けられそうですね」
ようやく森の出口とも言える地点へと差し掛かった。
少し気味悪い森ではあったけど結局魔獣に襲われることもなく抜けることが出来そうだ。本当結界って凄いな。
が、そんな会話をした直後だった。
進行方向にある樹々が大きく揺れ、4本足の黒い影が街道に立ち塞がった。
やばい・・・"何事もなく抜けられるは"言っちゃいけないフラグだったか?
それになんだあれ?オオカミ?でもあの纏っている黒い靄は・・・
「馬鹿な!!魔獣が街道に!!」
御者のおっちゃんが黒い影を見て叫んだ。
やっぱり魔獣らしい。
でも、街道には結界が張られてるんじゃなかったのか?
それとも結界をキャンセルできるレベルの魔獣?
どちらにしても何事もなく通してくれる様には見えないし俺が戦うしかないかな。




