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ギルディック・カンパニー(仮)  作者: 朧月 夜桜命
2/5

第二話:明かされた正体

「知らない天井だ……」


 目を覚ますと最初に飛び込んできたのは天井だった。


「イタクミさん目を覚ましたんですね、よかったー!」


 声がする方を見ると、目に涙を浮かべたイネニマが抱きつかんとしていた。

 不意に顔を柔らかい物が包み込み、上からは「よがっだですー!」と泣き声が聞こえる。

 くっ苦しい……


 腕をバシバシ叩いてギブアップを伝えると、パッと離れてようやく解放された。

 ゼーゼーと新鮮な空気を肺に入れているとイネニマが涙を拭いながら話しかけてくる。


「イタクミさんが倒れちゃったので焦っちゃいましたよ。病気ですか? 怪我ですか? どこも悪くないですか?」


 ペタペタと体を触ってくるが、何処にも異常がないことを確認すると安堵の溜息と共に椅子に座り直した。

 確かに悪いところはないが、精神的にはかなりきているものがあるのだが……


「イネニマさん……でしたっけ。ご心配おかけしました」

「いえいえ大丈夫ですよ! 私チカラだけは自信がありますので!」


 そう言って力こぶを作るポーズを取るが、どう見ても筋肉があるようには見えない。

 どちらかと言えば華奢に見えるくらいだが、どうやらイネニマさんがベッドまで運んでくれたようなので感謝の気持ちを伝えた。

 まだ頭の中も気持ちも整理はできていない、だが現実逃避をしていても何も分からないままだと思うよう考えを改めることにした。


 もし設定の通りであれば、噴水の前で出会った後は建築を専門とするドワーフの棟梁に会いに行き、父親の商店を改築。

 暗転後に改築が完了して最初のメインストーリーが進行する流れだ。

 最初は主人公とイネニマの二人しか居ないが、主人公が依頼をこなしながら信用度を集めて、カンパニー所属の仲間を勧誘していくのだ。


「動いても大丈夫そうですし、改築のお話をしに行きましょう!」

「え、あ、あぁ分かった」


 ストーリー的にイレギュラーはあったが、どうやら本筋の通りに進んでいくようだ。

 イネニマの設定は最初キリッと真面目系にしようと思っていたが元気系にしておいて良かった。

 真面目系は真面目系で良いのだが、今の不安定な精神からすると設定を変えて本当に正解だったと思えた。


 ちなみに人気受付嬢とかそういう設定は付けていない。

 どちらかと言うと落ちこぼれで、ミスが多くて左遷されたという裏設定になっている。

 ストーリー上はこの話を絡ませるつもりは無かったので、クリア後に見れる設定資料に載せるだけのものだ。



――


 搬送された建物は宿屋だったようで、受付の人にお礼を言って建物を出た。

 相変わらずの定型文だったが、もう諦める事にした。

 気にしたら負けだ、そう負けなのだ……お礼とは気持ちの問題だから良いのだ……


 宿屋を出て少し歩くと目的地はすぐだ。

 噴水から歩いてすぐ、宿屋はその中間くらいの場所だから当然だ。


 イネニマが扉を叩いて少し待つと、ずんぐりとした男が出てきた。


「イネニマさんじゃないですか、棟梁に用ですか?」

「はい、商店の改築の件でうかがいました!」

「どうぞ、奥の部屋でお待ちですのでお入りください」

「ありがとうございます!」


 二人で扉を潜り、受付の奥の部屋へと進んでいく。

 再び扉を叩くと、野太い声が返ってきた。


「入んな」


 促されるまま中に入ると、棟梁然としたドワーフが机に向かって書類仕事をしていた。

 書類二枚ほどにペッタンペッタンと判を押すと立ち上がり、二人の前に歩いてくる。


「改築の件だったな、店主はそのひょろい男か?」

「店主のイタクミさんです! 今日はよろしくお願いします!」

「よ、よろしくお願いします」

「ふんっまあいい。そこに座んな」


 応接室を兼ねている部屋で、低い机を挟んでソファーが一対置かれており、入り口に近い方に腰をかける。

 棟梁が反対側に座ると、葉巻を咥えてフーッと煙を吐き出す。


「んで、どう改築するんだ?」

「今回頼みたいのはですねー」


 淡々と話は進み、途中デザインを選ぶなどはあったが特に問題も起こらず改築内容が決まっていった。

 流石に導入部分だし変な展開は用意してない。

 まだチュートリアル段階だし、当然と言えば当然なのだが。


「んじゃ、三日後には終わるだろうから待ってな。きっちり良いもん作ってやるからよ」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

「お願いします!」


 本来はここで暗転してカンパニー前のシーンから始まるのだが……そうはならなかった。

 ストーリーに無い部分に突入してしまったが、これからどうしようか……



――


 この三日間、何をしようか悩んだが正直何をして良いのか分からなかった。

 外に出て誰かと喋ろうにも定型文しか喋らないし、精神にも来るから無理。

 街の外に出ようにも街に人が配置されているのだ、当然モンスターも居るだろうと思うと無理。

 確認だけでもしようかと思ったが、結局その勇気は出なかったってオチだ。


 結局宿屋と飯屋の往復だけで、基本寝ているしかできなかった。

 しかし改築が終わる前日の夜、飯屋で肉とパン、スープを食べているとふいに会話が聞こえてきた。


「なんか新しくギルドみたいなのができるらしいな」

「ギルドではないらしいぞ? 冒険者を派遣する店とか言ってたが……なんののためにって感じだよな」

「派遣ねー。たしかに冒険ギルドの状況見たら何かしようってヤツが出てくるのは分かるけどなー」

「まあな。護衛メインの俺らには関係無さそうだし、関係ないっちゃないないんだがな」

「何も困ってないしな、間違いないわ、はっはっは!」


 空白の三日間なのを考えれば、こういう会話がされててもおかしくはないのか?

 にしても「のの」とか言ってるし、修正したいわー、気になるわー。


「こういう時、コマンドパネルでも出せれば……修正……するん……だが……」


 ポツリと呟いただけだった。

 たったそれだけだった。

 しかし、目の前には見慣れたコマンドパネルが現れており、横にはステータスが表示されていた。


「なんだよ……これ……」


 ステータスにはこう書かれていた。


 イタクミ・クリエ Lv1

 職業:商人Lv3、冒険者Lv1、創造神Lv-

 技能:算術、暗算、交渉、剣術、鑑定、無限収納、クリエイト

 装備:頭/なし、右手/なし、左手/なし、体/商人の服、足/革のサンダル、アクセサリ1/懐中時計、アクセサリ2/なし

 称号:異世界からの来訪者、ゲームクリエイター、創造神


 見間違いかと目を擦ったりしたが、相変わらずそれは表示されたままだった。

 心臓がバクバクと早鐘を鳴らしている。

 恐る恐るコマンドパネルの『イベント』に指を伸ばして触れると、パネルが切り替わりNPC等の設定画面が表示された。


「おいおいマジかよ……」


 急いで飯屋のマップを開き、イベントからNPCの設定を見ると、さきほどの会話を編集する事ができるようだった。

 為しに「のの」となっている部分に触れ、下に表示されたキーボードを使って「の」を一つ消す。

 すると……


「なんか新しくギルドみたいなのができるらしいな」

「ギルドではないらしいぞ? 冒険者を派遣する店とか言ってたが……なんのためにって感じだよな」


 修正できてしまった……そう、聞こえていた会話が修正されてしまったのだ。


「創造神……クリエイトのチカラってことなのか……? 主人公であってクリエイターって……デバッグじゃねえか……ははは……」


 乾いた笑いが出たが、その頬を一筋の涙が伝っていく。

 気持ちを切り替えたつもりだったが、どこか諦めていたのかもしれない。

 もうゲームを作れないんじゃないかと、もう元の生活に戻る事はできないんじゃないかと。


 正直現実に戻れるかは分からないし、戻れる可能性があったとしても条件が分からない。

 だが、目の前にはコマンドパネルがあるのだ。

 好きな事を辞めなくて良いのだと思えると、喜びから涙が出てしまった。


「あれ、イタクミさん? どどどどうしたんですか! なんで泣いてるんですか!」

「いや、これは、なんでもないんです! なんでもないですから!」

「本当ですか? あ、もしかして今日のスープが美味しくてとかですか? 食べるの楽しみですー♪」

「ははは、そんなところ……かな? ははは」


 ふとコマンドパネルを見ると、店内のイベントが全て表示されていたが……

 イネニマの登場イベントなど設定されていなかった。

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