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ギルディック・カンパニー(仮)  作者: 朧月 夜桜命
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第一話:夢?現実?

五話短編です。

息抜きに書いたため、続きを書く予定は無いですが、楽しんでいただけると幸いです。

「いててて……え? ここどこ?」


 唐突に尻に痛みを感じた。

 何なんだよと擦りならが視線を前に向けると、そこは知らない場所だった。



――


 栗枝(くりえ) 五十巧(いたくみ)、17歳。

 何処にでも居るただの高校生だが、ゲーム好きがゲームに飽きてしまい、これだと思うゲームが無いなら自分で作ってしまえと思い至った一般男子だ。


 RPG作成ツールで作ったゲームを自分で遊んでは売り、作っては売りとしていたら気付けば一部界隈では有名人になってしまい、リリースした数は軽く50を超える程だ。

 今は新作ゲームを作り途中で、新しいゲームジャンルに手を出していたところ……だった筈なのだが、楽しすぎて徹夜をしたせいだろう、太陽の光がカーテンの隙間に射し込むのを見届けた所で寝落ちしてしまった。


 バランスを崩して椅子から落ちたのかと思ったが……そこは見知らぬ街の噴水前。

 実はまだ夢の中なんじゃないだろうか?



――


「夢ならいずれ覚めるだろうけど……こんなバリバリファンタジーな場所、探検しない方が間違ってるよな!」


 右を見ても左を見ても西洋ファンタジーのような街並み!

 歩く人達は人間! 獣人! エルフ!

 興奮するなと言う方が無理な話だろ!


 どうせすぐ覚めるかもしれないんだし、時間が許す限り見て回って糧にしようと一歩を踏み出すのだった。


…………


 少し歩いてみて分かったのは、生活水準はやはり中世ヨーロッパ風でよくある感じだ。

 武器屋に防具屋、道具屋に教会もあり、宿屋の看板にはINNとベタな文字まで。

 ドワーフが剣を打っているのが見えた時は最高に興奮した。


「そろそろ誰かに話しかけて情報でも得るとするか、すいませーん!」


 丁度近くを通りかかった女性に声をかける。


「ようこそ冒険と商いの街ルーステリアへ」

「え?」


 それだけ言うとまたスタスタと歩き出してしまう。

 慌てて追いかけて再び声をかけるが……


「ようこそ冒険と商いの街ルーステリアへ」


 機械のように同じ言葉を発してニコリと笑顔になると再び歩きだす。

 なんだなんだ、どういうことだ?

 汗がツーっと背中を伝い、嫌な予感が全身を駆け抜ける。

 慌てて駆け出し、近くの家の前で談笑する二人組に話しかけた。


「最近旦那の帰りが遅くてさ、どっかで女でも作ったのかしら」

「やだ奥さん大丈夫よ、あんなに誠実な人が浮気なんかするはずないじゃない」


 声をかけたはずなのに此方を見ようともせず、決められたかのような会話をし始める。


「あの……」

「最近旦那の帰りが遅くてさ、どっかで女でも作ったのかしら」

「やだ奥さん大丈夫よ、あんなに誠実な人が浮気なんかするはずないじゃない」


 まただ、この人達もだ。

 まるでゲームみたいじゃないか……というかゲームそのものじゃないか!

 絶望に血の気が一気に引き、胃から逆流する物を吐き出してしまった。

 その光景が目に入っていないのか、二人組はニコニコと笑っている。


「なんなんだ此処は……待てよ? この街、ルーステリアっていったよな……さっきまで作ってたゲームのメインマップ名じゃないか!」


 寝落ちする直前まで作っていたゲーム『ギルディック・カンパニー(仮)』そのものであるとようやく気が付いた。

 街の形も、建物の配置も、視線の先にそびえ立つ拘って厳選した城も……何故気づけなかったのかと頭を抱えた。


 落ち目の商人である父が病に伏せってしまい、後を継いで立て直す為に新しい事業に手を出すことに。

 冒険ギルドが存在する世界だが、この街は商業がメインの街であるために中継地点のように使われている。

 そのためか商業ギルドが幅をきかせ、冒険ギルドは護衛の仕事ばかりで冒険者が長く居着かないという問題を抱えている。

 そこに目を付けた主人公が新たに冒険者派遣会社を始める、という設定だ。


 そう、まだ設定段階で完全には練りきれていない中途半端な状態なのだ。

 『冒険と商いの街』というのも仮置きで設置した、仮セリフでしかない。

 街の人だって入り口の女性しか設置していないのに、何故か沢山の人が存在している……色々とまとめたノートはあるが、先に述べた通り設定段階のものだ。


「こうして自由に歩けるってことは……俺は主人公ってことなのか……? なら……」


 ゲーム会社の知り合いから、作っているゲームの夢を見る事があると聞いたことがあるが、もしここが夢でないとしたら。

 もし主人公として何故かこの世界に来てしまったのだとしたら、ステータス画面を開けるのではないだろうか?

 もし開けたら、夢でない証明になってしまう気がして怖くはあるが……。


「ステータスオープン! 状態確認! コンソール展開! よし、開かない! 夢かは分からないけど、少なくとも主人公じゃないってことか!」


 なら自由に喋って動ける俺は一体何なんだ?

 単純にゲームの夢を見てるだけ?

 それとも特別な存在としてゲームの世界に呼ばれた?

 不安と恐怖心が全身を包み、足がガクガクと震えだす。


「これは夢だ! 夢なんだ! 大丈夫! 時間が経てば勝手に目が覚めるんだ! 学校もあるしアラームもセットしてあるから大丈夫だ!」


 震える足をバンバンと叩き、なんとか自分に言い聞かせ震えが治まるよう努める。

 これだけ大声を出しても誰も見向きもしない事にゾッとする。

 異常に口の中が乾いている事に気が付きフラフラと噴水前に移動する事にした。


 水を手で掬い、震える手で少しずつ口の中を潤していく。

 噴水の縁に腰を降ろし、落ち着きを取り戻そうと思考を巡らせていると、こちらに駆けてくる足音が聞こえてきた。

 ふとそちらの方を見ると、白と緑を主体にした制服のような服を着た女性が手を振りながら走り寄っているのが見えた。


「イタクミさーん! お待たせしましたー!」


 見知らぬ人が俺の名前を呼んでいる。

 俺の名前を? 何故?

 目の前で立ち止まり、フーッと息を吐いて呼吸を整えると満面の笑みでこちらを見て口を開く。


「冒険ギルドから派遣されたイネニマです、一緒に頑張っていきましょうね!」


 胸の前で両手をグッと握りしめるその姿に愕然とした。

 ストーリー設定ノートの2ページ目、主人公がイネニマと出会う最初のシーンそのものだった。

 俺は目の前が真っ暗になり、バタリと倒れてしまった。


「ちょっイタクミさん! イタクミさーーーーん!」


 あれ……こんなシーンとセリフ……入れる予定だったっけ…………?

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