第8話 ふたたび火星へ
ものすごい地ひびきに、ロケット打ち上げ基地は、上を下への大さわぎとなった。
大地震だと思ったのだ。
木星ロケットの打ち上げがせまっていたので、基地の人間は、よけいにあせってバタバタした。
「地震じゃないみたいです」とテレビをつけた人間がいった。
「たいへんだ。見てください!」
窓から外を見て、みんな息をのんだ。
巨大な恐竜たちが、大きな口をあけて、どっと基地に押しよせている。
「なんだ、あれは。恐竜じゃないか。どうして、こんなところへ」
基地の人間たちには、頭をひねっているヒマはなかった。フェンスをやぶって基地内に入りこんだ恐竜たちが、手当たりしだいに、なんでもかんでも、かたっぱしから、こわしはじめたからだ。
「おい、なにをやってるんだ! あいつらは!」
「ジュラシック・パークの恐竜たちだ」
「やめさせろ! 早く!」
「戦車をよべ。軍隊を出動させろ! それから消防車だ!」
恐竜たちの先頭にはケンタがいた。
ケンタは、ロケットが打ち上げられないよう、発射台を中心に、とにかくこわしてしまうよう恐竜たちにいった。
基地内の人間たちは、クルマやヘリコプター、あるいは走って、あっというまに逃げていった。
ケンタは基地の建物に入り、高い窓から外を見た。白いけむりが何本も立ちのぼっている。発射台はあとかたもなかった。
「これで、よし。もう木星へは行けないだろう」
ケンタは安心し、早く海へ帰ろうと思った。恐竜たちもつれていってやるつもりなので、急がなければならない。
部屋を出ようとすると、つけっぱなしになっていたテレビが、早くも、この基地のことをニュースで伝えはじめた。
「臨時ニュースをお知らせします。えー、先ほどのことですが、木星ロケット打ち上げ基地が、恐竜たちにおそわれました。えー、発射台がめちゃくちゃになったもようです。ジュラシック・パークの恐竜たちのようです。くり返します。えー、先ほど、木星ロケット打ち上げ基地が・・」
ケンタは窓のところにもどり、外にむかって「もう、いいよ。ひきあげよう」と恐竜たちにいった。
そのとき、テレビでは画面が切りかわって、レポーターがでてきた。
「いま、関係者から話が入りました。木星ロケットは、ほかの基地から打ちあげることに決定したもようです」
「え」とケンタはことばを失った。
しかし、考えているヒマはない。行って、またこわすしかない。
ケンタは、そこにあったパソコンで場所を確認し、恐竜たちをつれて、その打ち上げ基地へ行った。
そこの基地も、恐竜たちの姿を見るや、上を下への大さわぎとなって・・・
その基地のロケット発射台も、きれいにこわした。ところが、こわしてから、そこの基地でテレビニュースを見ていると、またもやレポーターがでてきて、木星ロケットは、ほかの基地で打ちあげるといった。
ケンタはつぎの基地にむかいながら考えた。
『こんなことをしていると、きりがない。地球上のすべてのロケット発射台をこわさねばならなくなる。なにか、ほかの方法を考えなくては』
また、そこのロケット発射台をこわしてしまうと、やはり、テレビで、レポーターがでてきて、木星ロケットはほかの基地で打ちあげるといった。
しかし、今回は、その基地の名前も場所もいわなかった。
インターネットでしらべてみても、いろんな情報が飛びかっていて、どれが、ほんとうなのか、まるで見当がつかない。
ケンタはこまった。
こまっているヒマはないけれど、どうしようもない。こうなったら、手分けしてこわしまくるのみだ。
ケンタは恐竜たちに、それぞれ地図をわたしてロケット発射基地へむかわせた。ケンタ自身も大きな恐竜に変身して、あるロケット発射基地へむかった。
ケンタは、ひと仕事おえて、テレビでニュースを見た。画面には地球上の各地から、ロケット発射台をこわす恐竜の姿が映しだされた。
なかには、戦車や戦闘機とたたかっている恐竜もいた。爆弾を落とされたり、大砲をうたれたりしながらも、なんとか発射台やロケットをこわしていた。残念ながら、つかまってしまった恐竜もいる。
『これで、もうだいじょうぶだろう』と思ってホッとしたら、こんどは、またレポーターがあらわれて、とんでもないことを伝えた。
「ここは、さいしょにこわされたロケット発射基地です。ごらんください。新しい発射台がつくられ、準備が着々と整えられています。もう、まもなく木星ロケットがスタンバイする予定です」
「げ」とケンタは、体がかたまってしまった。
しかし、かたまっているヒマなどなかった。
『このままだと、木星へロケットが行ってしまう。しかし、あれをこわしても、新しくつくられたんじゃ、またもイタチごっこだ。どうしよう・・・そうだ!』
それからまもなく、木星ロケットは打ちあげられた。
ロケットが切りはなされ、宇宙船が宇宙空間へ飛びだした。
宇宙船に乗っているのはただひとり、木星へのメッセージをたくされた使者だけである。使者は地球上のあらゆるところから、いちばんふさわしい人間がえらばれた。
ただし、乗っているのは、その人間本人ではなかった。
えらばれた人間は、ロケットが発射されたころ、広大な砂漠をラクダに乗って旅をしていた。
「どこなんだ、ここは。こんな砂漠、いつ出られるのかなあ。でも、いちどやってみたかったんだ、こんな冒険を」
もちろん、ケンタのしわざだった。
『大役をひき受けていただいたお礼に、ステキな冒険旅行をプレゼントしましょう。木星への打ちあげ前に行っていただかないと、ひょっとしたら地球に帰ってこれないかもしれないですからな』
変身したケンタはそういって、その人間をつばさのある竜に乗せて砂漠へやってしまったのだ。
そしてケンタはその人間に変身し、木星ロケットに乗りこんだ。
「これで木星に行って、なにか、テキトーなことをいって帰ってくればいいんだ。でも、これで、ぼくはみんなといっしょに行けなくなっちゃったなあ」
ケンタは宇宙船の窓から地球を見て、ため息をついた。青い海がこれほど美しいと思えたことはなかった。
「もうすぐ、あの海は流星になって出発する。ルシン博士もハンナも、海のみんなも流星に乗って行ってしまう。ぼくが帰ったころは、もう海はないんだ」
ケンタはかなしくなって泣いた。そのあいだにも、地球はどんどん遠ざかり、小さくなっていった。
宇宙船は自動操縦だから、なにもしなくても、そのうち木星に着く。
「ああ、ぼくに操縦ができたら、木星なんか行かないで、火星に行くのに」
ケンタは、ロボットのチャーリーや火星のことを思いだした。また会えるだろうか。会えるとしても、いつのことになるやら。
ジュラシック・パークの恐竜たちには気のどくなことをしたなあ。つかまった恐竜はパークにもどされたけれど、ほかの恐竜たちは、ぶじにルシン博士のところへたどり着けただろうか。
「ああ、つかれた。眠ろう、すこし」
恐竜のケンタは眠った。深い眠りにすーっと入ったかと思ったら、ストンと落ちるような感じがして、宇宙船がとまった。
「あれ、もう着いたのかな。やけに早いなあ。まてよ、木星はガスの星なんだから、着陸なんてできないはずじゃないか」
ケンタはハッチをあけて、人間の姿のまま、外にでた。
「ウッ、寒い! えーと、あれ? なんか見たような星だな」
ケンタはあたりをみまわす。でこぼこの土地が、ずっとつづいている。
「あれ、ここは・・・」と足もとの石ころをけっていると、
「ギー、ピピッ、ピ、ピピピ、グアー、ザアー、ピッピピ、ポー」
遠くでへんな音がした。ケンタは、くびをのばしてキョロキョロ。見わたすかぎり、土と石ばかりだ。
「まちがいない。ここは・・・」
「クックックー、キッ、キキキキキ」とまた音がした。
「そうだとすると、あれは!」
ケンタはかけ出した。岩山の上に出ると、むこうから走ってくるロボットが見えた。
「チャーリー!」
「ケンタ!」
「なんじゃ、また来おったか」
火星も声をだした。
三人でひとわたり、話がすむと、ケンタは、チャーリーに宇宙船をしらべてもらった。
なぜ火星に来てしまったのか、木星に行くようにプログラムされていたはずなのに。
「ふん、かんたんさ。これ、火星プロジェクトの宇宙船だぜ」
「え、火星プロジェクト?」
「そ。人間は、火星と木星に説得をたのむつもりだ。木星のほうが遠いから、先にプロジェクトをスタートさせた。つづけて火星プロジェクトにかかる予定で、火星用の宇宙船も準備してたんだ。でも、なんでまちがったのかな」
ケンタは、ジュラシック・パークの恐竜たちにロケット基地をこわしてまわらせたことを話した。
「知ってるよ。ニュースで見た。たぶん、木星用の宇宙船がこわされたんで、火星用をつかったんだな。そのとき、プログラミングを直すのを忘れたにちがいない」
「なるほど。でも、また会えてよかった」
恐竜のケンタは再会がうれしかったが、心配なこともあった。
「宇宙船が木星に行ってないって知ったら、人間はまたべつの宇宙船を飛ばすだろうか」
「だいじょうぶ。まかしときな」
ロボットのチャーリーは、宇宙船のコンピューターをいじりはじめた。
「さ、これでオーケーさ。ここから木星へ行くようプログラミングしておいた。人間たちに、そのことを知らせて、これを宇宙へ飛ばせばいい。無人でね」
「ああ、チャーリー。きみはやっぱり、すごいロボットだ」
さっそく宇宙船を発進させた。宇宙船はするすると木星めざして遠くなっていった。
「さあ、オレたちも行こうか」
「え、どこへ」
「地球に決まってるだろ。なんか、海の異変をあらわすデータが送られてきてるんだ。ケンタもルシン博士たちと出発するんだろ。送ってやるよ。でも、急がないと、おいてきぼりを食うぜ」
チャーリーは、自分が乗ってきた宇宙船の発進準備にかかった。恐竜のケンタはその間に火星と話した。
「火星さん。やっぱり海を旅立たせることにしました」
「おお、そうか。それがいい。行きたいところへ行かせてやるんじゃな」
「はい。それで、ぼくたちもついていくことにしました」
「ほお。では地球には、あのボンクラどもだけが残るというわけじゃな」
「ボンクラって人間のことですか。あいかわらず、口がわるいなあ」
「なにをいうか! わしは事実をありのままいっておるだけじゃ。あいつらは海のために、なにかしたか?」
「えーと」
「しとらんじゃろ。自分らの心配ばっかじゃろ。でも、それでいいんじゃよ。あいつらは、また、いろいろ考えるじゃろ」
「火星さん、これでよかったんですね」
「いいもわるいも、ありゃせんよ。みんなが海のことを考えてしたことじゃ。海はうれしいだろうて」
「おおい、ケンタ。用意できたぞ」
「あ、じゃあ、火星さん。いろいろと、ありがとう。ぼく、行きます」
「これで、ほんとうに、さらばじゃな。どこへ行っても、元気でな」
「はい。火星さんも、いつまでも、お元気で」
「おお、ありがとうよ。さらばじゃ。おい、ロボット、おまえは早くもどってこいよ。カラオケで勝負じゃ!」