第3話 ロボット漫才
宇宙船を改造し、ロボットは鼻歌まじりに操縦までやってのけた。
「すごいね、チャーリー。きみ、宇宙船の改造だけじゃなくて操縦もできるんだ」
恐竜は帰りのことを考えていなかったので、たすかったと思った。火星へくるときは自動操縦だったのだ。
「ちょろいもんさ、このくらい」
「十何年ぶりになるんだね、地球は。ほら、あれ、地球が見える。どう、なつかしいかい」
「ふん。あんなクソバカどもの星なんか。クソ食らえだ」
そんなふうにヒドいことばを投げつけながらも、青くぼんやりと輝く地球を、ロボットはじっと見ていた。
やがて月をかすめて地球にせまり、ものすごいガタガタゆれがおさまると、海がせまってきた。まっ青な海に、白いさざ波が立っている。
恐竜はひとまず、海がいまどんなようすだか、見に行くことにした。ロボットにたのんで、ちょいと深いところまで宇宙船でもぐってもらった。
カプセルをつかって海にでた恐竜は、クジラやシャチが集まって話しているところへ行ってみた。
「やあ、海はどんなようすかな」
「ああ、恐竜。おそかったじゃないか。もう、みんなヘトヘトさ。きょうはなんとか海を引きとめたけど、あすはどうかな。なにしろ、ほら」
クジラにいわれて恐竜は、平たい砂地にズラッとならんだ貝を見た。貝はいっせいにパタパタとひらいたり、とじたりして、声らしきものをだそうとしていた。
「なにしてるの、貝は」
「落語だってさ。海にいわれたそうだ。貝が落語をやるんなら、あすまで待ってやるってな」
「ええっ! でも貝なんてしゃべれないのに」
「いや、例によって特訓しているんだけど、ふしぎなもんだね。失敗すれば、あさってという日はないって思うと、とんでもない力がでるようだなあ。ほら、貝が声を」
「ほんとだ。きこえる」
「でるにはでるんだが、あまりにかぼそい声なんで、あれだけたくさんの貝にやってもらっているんだ」
「あのカニは」
カニが何匹も、貝たちのまわりで、ひろげた両手をさかんにふっていた。
「落語の先生さ」
「へーえ、カニがねえ」
そういえば口からアワをブクブクさせながら、カニは「おい、八っつあん。なんでい、クマ公」などとやっている。
「それより、恐竜。火星はどうだった。海を説得してくれるって?」
「いや、そのことなんだけど、説得はムダらしいんだ」
「ムダって・・それは」
「火星がいうには、海は気まぐれをおこしているわけじゃないので、その決意をぼくらは重んずるべきだって」
「じゃ、どうすることもできないのか。おれたちの芸がとぎれたら、それでおわりなのか」
「いや、それより、たいへんなことが進行しているらしいんだ。あまりに海を引きとめておくと、海もぼくらもおそろしいことになるそうだ」
恐竜はクジラやシャチを前に、火星にきいた話をつたえた。
ずっとむかし、火星にも海があって、おなじことが起きたこと。
木星の説得で海が残ることになって、そののち、みんなが身もはりさけんばかりのかなしみに、死ぬまで苦しめられたこと。
火星が、いろんな流星にアンケートしたこと。その流星たちはみな、もとは海だったことなど、早口にまくしたてた。
クジラもシャチも口をあんぐり、目を白黒させておどろいた。
「では、海は行かないと死んでしまうのか。海にすむぼくたちも」とシャチがいった。
「ああ。それも、むごい死に方で」
シャチもクジラも息をのみ、だまりこんでしまった。
「でも、もう方法がないかというと、それは、まだわからないんだ」
「どういうことだ。なんでもいいから、方法があるのなら、早くやろう」
「これも火星がいったんだけど、方法があるかどうか、人間にきいたらどうかって。だからぼくは、これから行ってきいてくるよ」
「人間だって! 火星にわからないものが、あんなやつらにわかるはずがないよ。だいいち、きみはジュラシック・パークにつれ去られる危険が」
「変身するよ、人間に」
「うーん、でも気をつけなよ、ヒドイやつがいるから」
「おいおいおい、人間になることはいいけど、いったい、どこの、だれに会いに行くんだ」と足もとにきていたウミウシがいった。
「えーと。王様とか大統領とかソーリとかいう人間が、いちばんいばってるそうだから、そこへ」
「バカいうなよ。いきなり行ったって、会わせてくれるもんか。それに、いばってる人間はたいてい口だけのアホだって話だぞ」
「そうだよ。だいたい分野がちがうよ。科学者に会いに行かなきゃ。それも海の専門家にさ」
「じゃ、大学か研究所だな」
「でもやっぱり、いきなり行って、もし会ってくれても、てんからバカにして本気にしてくんないだろうね」
そこで恐竜は考えこんだ。
みながだまると、落語をしている貝の声がきこえた。とたんに恐竜はひらめき、手を打って「これだ!」と叫んで走りだした。
「おおい、どうするんだあ!」と背後でクジラの声がした。
「名案が浮かんだんだ。急ぐから行くよ。ぼくが帰ってくるまで、海を引きとめておいてくれ!」と走りながら恐竜はこたえた。
海を飛びでた宇宙船は、まっ青な空にむかって上昇をつづけた。船内では恐竜のあわてた声がこだましていた。
「ちょっと、待ってくれよ、チャーリーったら! そんなに怒ることないだろ。とにかくおちついて、もう一度、よく話をきいてくれないか」
「ワタシ、人間ノコトバ、ワカラナイ。ムカシ、ワカッタケド、イマハ、ワカラナイ」
「ぼくは恐竜だよ。人間じゃない。恐竜のことばはわかるだろ。ねえ、そんなにへんなことじゃないよ。どうしてきみとぼくとで漫才をすることが、そんなにイヤなんだ?」
「ワタシ、プライド、トテモ高イロボット。漫才? フン!」
ロボットは鼻で笑おうとしたが、顔のまん中にあるセンサーがピピピと光っただけだった。
「きみならできるよ、チャーリー。そんなにしゃべるのがうまいんだもの。たのむよ、ぼくたちはもう、このさいごの手段にかけるしかないんだ」
「ワタシ、ヨイ考エトハ思ワナイ。漫才デ、海ガタイヘンダト知ラセル? フン!」
「テレビで広く知ってもらえば、心ある人はきっと、わかってくれると思うんだ。そういう人なら、むこうからコンタクトしてきて、なにか方法を考えてくれるさ」
「アリエナイ! オマエ、バカ」
「おいちょっと、チャーリー。ひどいじゃないか。ぼくはぼくなりにいっぱい考えて、きみがいたから、漫才にかけようと思ったんだ。それをバカというのか」
「バカ、アホ、マヌケ、トンチキ!」
「なんだって、この、わからずやのポンコツロボット! いいよ、もう。火星でも、ヘッポコ星でも、どこでも帰っちまえ! なんだい! エラそうなこといったって、しょせんはロボットじゃないか。チャレンジする気持ちなんか、持っちゃいないんだ。じゃあね、バイバイ! 火星でまた、ヘタクソな歌でもうたってろ」
いうが早いか、恐竜は脱出カプセルで船外へとびだした。
カプセルは空中を飛んで、やがてパラシュートが大きく開いた。フワリ、フワフワ、落下傘はゆっくりとおりていく
そこへ、ものすごいスピードで、もうひとつのカプセルが落ちてきて、ななめから恐竜のカプセルにぶつかった。恐竜のカプセルは大きく左右にゆれ、パラシュートがしぼみそうになった。
「わ、なんだ!」
「オレだよ、ケンタ」
スピーカーから声がきこえた。
恐竜が相手のカプセルを見ると、窓からロボットが顔をのぞかせた。ロボットのカプセルはパラシュートではなく、ヘリコプターのようにプロペラがてっぺんでまわっている。
「やってくれるのかい、ロボットのチャーリー!」
「オレがうまいのは、歌だけじゃないってとこを、見せてやろう」
「ああ、ありがとう、チャーリー」
「そのかわり、おれの特訓はきびしいぜ。こう見えても、ギャグにはちょっとウルさいんだ。もちろん漫才だって、ちょろいもんよ」
「それはそうと、宇宙船は?」
「ああ、あれは自動操縦にしてあるから、火星にむかってまっしぐらさ。じゃ、行こうか」
ロボットがそういうと、カプセルからアームがのびてきた。アームはパラシュートを切りはなしたかと思うと、恐竜のカプセルの頭のところにあったリングをつかんだ。
ロボットのカプセルは、恐竜のカプセルを、まるで買い物袋でもぶら下げるようにして、陸をめざして飛んでいった。
二つのカプセルは、海に面した広大な倉庫の一つに、そっと入った。
「チャーリー、ここは?」
「空き倉庫さ」
「へーえ。なんでこんなとこ知ってたの。ずっと火星にいたのに」
「かんたんさ。オレのアンテナからは、インターネットにも入りこめるんだ。だから、火星にいるときでも、ときどき地球のニュースなんか見てたのさ」
「すごいね。でも、そんなことまでできるんなら、火星でじっと待ってなくても、自分からご主人のとこへ連絡すればよかったのに」
「アー、エヘン。ワタシ、ロボット。命令サレタコトシカ、ヤリマセン」
「ほんとかなあ。実はサボっていたかった、とか」
「アー、ピー、キー。時間アリマセン。急イデ特訓。特訓。特訓。トックンデス!」
それからまる二日にわたって、恐竜とロボットは、ねないで、食べることも忘れ、漫才の特訓にはげんだ。
そのかいあって、テレビのオーディションで注目を浴び、いきなり番組に出演することになった。
もちろん、恐竜は人間に変身していたが、ロボットはそのままのかっこうだった。
「ねえ、チャーリー。そのままのかっこうで、きみ、だいじょうぶかい。きみのご主人が見たら、つれもどされるんじゃないか。変装したほうがいいんじゃないかなあ」
「オレは、ほこり高いロボットなんだぜ。へんなかっこうができるか! それに、このままのほうが、よろこばれるのさ」
そのことばどおり、ロボットが漫才をするというので、よけいに人目をひき、すぐ出演してくれということになった。
漫才のテーマは『海』だった。
恐竜とロボットの漫才
『なあ、おい、ケンタ。海がな、たいへんなんやて』
ロボットはレンズみたいな目を、ことさら大きくしている。
『どないしたん、チャーリー。キミ、目ん玉、飛びでてるやないか』
『あほ。これはもとからや。それよりな、海がたいへんねや』
『キミの目ん玉かて、えらいこっちゃで。そんなん、もとからやったら、つけまちごうとんのや。返品せえ』
『だからな、海がたいへんなんや。わての目ん玉なんか、どないでもよろしがな』
『そんな、ええかげんな目ん玉で、たいへんや、たいへんや、ゆわれてもなあ。どうせ、ええかげんなこっちゃろ』
『知らんで。そないゆうてたら、いまにほんまに、たいへんなことになるんやで。そんときになって、後悔してもおそいんや』
『そない、いわれたかてなあ』
『ええか、海が死んでまうんや』
『なにいうてんね。海あるやないけ』
『あるわいな。あるけど、死にかけてんのや』
『そんなばかなことがあるかいな。なんやねん、スカートはきおってからに、へんなことばっかいうて』
ロボットのおなかのあたりは、スカートみたいなプレートにおおわれていた。
『ほっとけや、これだいじな部品なんや』
『部品て、それ、女もんとちゃうか。キミ、男やろが。やっぱり、まちごうとんのや。返品せえ』
『ちゃう。これで、おうとんのや。ほっとけ。そんなことよりな、海がな』
『なんや、海が』
『海がな、死にかけとるんや』
『なんや、またかいな。そやから、海、あるて』
『あほやな、ケンタ。よう考えなあかんで。おまえ、横町のジジイのこと、おぼえてるか。あれどうやった。ジジイ、朝、ベンチにすわっとったけど、お昼にはポックリ死んどったやないけ』
『ああ、そういうたら、そやな。昼前まではピンピンしとったけど、お昼食べて、あくびするなり、それっきりやったそうな。ほんまに死ぬまで生きとったいうて、娘さんもあきれとったわ』
『あれとおなじや、海もな』
『おなじて、なんや。海もお昼食べたり、あくびしたりするのんかいな。それとも、娘はんでもいてるんか』
『あほ、だれがそないなこというた』
『海とジジイとおなじや、いうたやないけ』
『ちゃうちゃう。ポックリ死ぬのがおなじやいうことや。いまは、元気そうに見えても、死にそうなんや』
『そない、足をバタバタさせんでも。わ、なんや、キミの足。それタイヤやないけ。やっぱりまちごうとんのや。はよ返品せえ』
『わてのことは、ほっとけいうとるやろ。だいたい、足がタイヤでなにがわるいんや。歩きやすいで、これ。とくに火星なんか歩くとき、サイコーやで』
『なにいうとんねや。ここ地球やで。そないなもんついとったら、クルマや思われるで。キミ、免許証もってんのか』
『あほか。なんで、わてがわてを動かすのに、免許とらなあかんのや』
『そやかて、キミ、クルマやんけ』
『ちゃう! クルマちゃうでえ。わて、ロボットやん』
『ぶかっこうなロボットやな。ちいとはスマートなとこ、ないのんか』
『わての頭、スマートやで』
『それ、バケツちゃうか。だいたい、頭、スマートやったら、なんで、海が死ぬなんて、そない、どんくさいこというんや』
『あ、そやった。海の話や。たいへんなんや、海が死にそうなんや』
『あのなあ、キミ、ええかげんにせえや』
『ほんまや。そいでな、海は死ぬんが近いと、なんとなくわかったもんやから、宇宙の果てへ旅にでるいうとんのや』
『はあ? キミ、いうとること、ムチャクチャやで。いっぺん、病院行ってこな、あかんわ』
『病院て、わて、ロボットやんか。病院行ったかて、だれも、よう診察せえへん。せっかくきたんやから、そうじでもしてってもらおか、いわれるのがオチや』
『なんや、キミ、おそうじロボットかいな。ほな、あ、そこ、床がよごれとるがな』
『どれどれ、おなかから、ぞうきんアームをだしまして・・・あ、アホ。なにやらすねん』
『キミ、べんりやなあ。そないなとこから、おそうじ道具でて。こんど大そうじのとき、きてもらおうかいな』
『ワシ、おそうじロボットちゃうて』
『やっとるがな、自分で』
『あんなあ、ええかげん、話、そらさんでほしいわ。こないなことしてるあいだにも、ええか、海が旅にでてまうねんど』
『また、そないなことを。海いうたら水やないか。水がどないして旅にでる、いうんや』
『せやからな、ケンタ。おまえかて知ってるやろ。このまえの巨大いん石事件』
『ああ、あれな。海にでっかい、いん石が落ちて、なんやしらん、いっぺんに海の水がふっとんだっちゅう、あれやろ。世界中が水びたしで、えらいめにおうたなあ。それが。どないしてん』
『それやがな。それ、いん石とちゃうで。海や。海なんや。海がまさに流星になろうとして、なりそこねたんや』
『なあ、チャーリー、ちょっと確認させてや。ボクら長いつきあいやったけど、ボクら、まちがいなく、あかの他人やな。な』
『なんや、感じわるー。まあ、ええわ。ケンタ、ようきいてや。わてのいうとること、でたらめやないで』
『そんなこと、でたらめやのうて、いえるやなんて、ますます、あれやな。とにかく、な、ボクら、見知らぬ他人同士やで』
『ヒドイなあ、ケンタ。そないなヤツやったんかいな』
『キミこそ、そない、わやくちゃなこと、いうロボットやってんな』
『わややない。どない、いうたら、わかってくれるかなあ』
『そんなもん、だれが本気にするかいな。プッ、海が旅立つやて。ウソでも、もうちょっと、マシなことがいえんのかい』
『せやから、ウソ、ちゃうて。わて、ロボットやで。ウソついたろ思うても、ウソつけんねん』
『わ、キミ、目ん玉からションベンでてるで。バッチイなあ』
『これ涙や。泣いてんのや。なさけないやら、くやしいやら。やい、ケンタ、おまえ、ともだちやないか。ともだちに、そない、ヒドイこといわれて、話もまともにきいてもらえん。これが泣かずにおられよか』
『わ、わかった、わかった。きいたるさかい、ションベンこっちに飛ばさんといてくれ。なんやったかいな。そや、海が旅にでよるんやな、な。そいで、海がキンタマになって』
『ちゃう! キンタマ、ちゃう! 流星や! キンタマて、どっからそないなこと』
『え? そやかて、海いうたら、太平洋と大西洋やんか。二つが流星の玉になって、へっついとったら、でかいキンタマやないけ』
『インド洋やら日本海はどないすんねん』
『そんなもん、一本にまとめてやな、ひょろっとしたサオに』
『やめい! いたいけな少年少女があいてなんやど』
『あ、そやった。ほな、ロボットのチャーリー、ちゃんときいたるさかい、話さんかい』
『なんや、エラそうやな。ま、ええわ。とにかく、海が変身して流星になってやな、宇宙の果てを見に行きたい、いうてんね。それをな、海の生きものたちがやな、ストップかけてんねん』
『どないしてストップかけてんのや。どこかひっぱって、とめてんのか』
『海やど。ひっぱったってあくかいな。だいたい、つかむところ、あらへんがな』
『へたら、どないしてんねん』
『気をひいとんのや。海の気をひいてやな、一日のばしに海の出発をおくらせてんねや』
『ふーん。なんや、芸でも見せとんのか』
『そや。ケンタ、おまえ、よう、わかったなあ』
『あほらし。ボク、やっぱ帰らせてもらうわ。ほな、サイナラ』
『ちょっと、まちいな』
『あ、いたたたた。なにすんねん。いたいなあ。こんな釣り針、どっからでてきよるねん。わかった、わかったから、はなしてくれ。ふう、まったく。なんや、釣りもしよるんかいな、ロボットのくせに。ああ、いたたた』
『ちゃんときけや、ケンタ』
『でもな、おかしいやん。どこの世界にやな、芸をする海の生きもの、なんておるんや。おかしいで』
『おかしいこと、あるかいな。タイやヒラメがコーラスしよるんやで』
『なんやて、タイやヒラメのコーラス? あほなこといいなや。どこの世界にタイやヒラメがコーラスなんぞすんねん。タイやヒラメいうたら「舞いおどる」やろ』
『おどろくのは早いで。クジラなんかマジックしよるねん』
『クジラがマジック? マジなんか? どうやってトランプなんかいじるんや。クジラいうたら、やっぱ歌やろ』
『まだあるんや。イカやタコはバレエや』
『イカやタコのバレエ・・・うーん、そんなん、ありそやな』
『そう思うやろ。それがなかなか。足ぎょうさんで、めちゃ長いやん。そやから、からまるんや。からまってな、まともにおどられへんね。むつかしいで』
『そんなもんかいな』
『まだ、あるで。ペンギンのサッカー』
『ペンギンにサッカーって。あいつら、あし、ごっつう短いねんど。ボールなんか、けられへんやんか』
『まだまだ、あるでえ。貝の落語』
『はあ? 貝て。あの貝か。しゃべられへんがな。それ、虐待やで』
『とにかく、そんなこんなで、海の生きものたちがやな、海をひきとめてんねん』
『ふーん。なら、ええやんか』
『ええて、なにが?』
『いやな、そないしてひきとめてんのやろ。そんなら、そのままずっと、毎日、芸してたらええやんか。ずっとしとけば海はそのままっちゅうわけやろ。なんなら、ボクらも漫才しに行ったらええやん。そや、人間も参加したらええのや。そしたら、ほとんど永久にひきとめられるやないけ』
『あんなあ、わて、いうたやろ。海、死にそうなんや』
『またかいな。あ、キミ、頭でプロペラまわってるで』
『ほっときいな。ええか、海はもうすぐ死ぬんや。いくらひきとめてもな、そのときがきたら、海、死ぬんや。あとが、えらいこっちゃで。海のモン、みんな生きたまま、溶けてまうのや。痛いでえ。おとろしいでえ。地獄や』
『はいはい。地獄でんな。ボクかて借金地獄や』
『ケンタ! わて、真剣なんやで』
『チャーリー、おい、キミ、ボクら、いつでも真剣や。真剣に漫才やらしてもろうとるんや。ほいでも、なんで、そんな、海が死んだら、生き地獄になるてわかるんや』
『あんな、びっくりしなや。じつはな、火星にも海があったんや』
『ええ! って知ってるわい。ほいでも、あったかもしれんていわれとるだけやろ』
『いいや、あったんや! わて、火星にきいたから、ほんまや』
『おい、キミ、チャーリー。ええかげんにしとき。火星にきいたて、火星がしゃべるんかいな』
『歌もうたうで。えらいヘタくそやけどな』
『あかん、もう、あかん。キミ、ここでじっとしとり。ボク、救急車よんだるわ』
『またまた、そないなことを。とにかくな、火星がいうにはや、海が旅立ちを考えたときは、二つに一つなんやて。死ぬか流星になるか。いくつも流星にきいたいうとったわ、火星が』
『キミ、熱ないか』
『わて、ロボットやん。でも、熱くらいはあるで』
『どれ。あ、冷たい! キミこそ死んどるんやないけ』
『わて、ロボットやど。なかなか死なんで。ともかくや、火星がいうには、方法はないねんて。せやけどな、まあ、人間やったら、すこしは考えもあるかしらんから、きいてみい、っちゅうこっちゃ』
『あ、キミ、スカート、いつのまにか広がってるで。パンツまる見えやん』
『わて、パンツはいてないで』
『え、ノーパンかいな、あちゃー』
『なんや、「あちゃー」って。話そらさんといてや。わて、ごっつう真剣なんやで。人間のみなさん、どうぞ、よろしゅうたのんまっせ。どないしたら、海を救うことができるか。人間のみなさんやったら、なんや、ええ方法思いつかれんともかぎりまへんによってな。むかし、火星におらはったころは、ただもう野蛮なだけやったらしいけど。ほいでも、きょう、こないして見てみると、ちっとはよさげの頭もありそうや。ひとつ、よろしいに』
『なんや、いま、キミ、なんというた。「人間が火星におったとき」て、なんや』
『おったんやて、人間は火星に。まだ進化する前やったらしいけど』
『あんなあ、ボクもう、ようついていかんわ。キミ、ひとりでやってんか』
『わてひとりで、漫才なんかできんがな』
『火星とやったらええがな。なんなら、海とでも』
『そないムチャいいなや。火星はともかく、海は、わてらがこないしてるあいだにも、行ってしまいよるかもしれへんねや』
『気持ちよう、行かせたったらええがな』
『ええのんか、みんな死んでまうで。海の生きものだけやない。地上のあらゆるモンが死んでまうんや』
『したら、ひきとめなあかんな』
『ええのんか、いつまでもひきとめとくと、海、死んで、地獄やで』
『ほんなら、どないせいっちゅうねん』
『せやから、人間さまのお知恵をやなあ』
『しかし、キミ、そんなえらい重大なことをやで、漫才なんかでうったえたかて、だれが本気にする?』
『そんなこというのんかいな。ええで、べつにええで。わてはただの漫才師やけど、ロボットだすさかいな。海がどないなろうと、それで地球がえらいことになったかて、わてはだいじょうぶなんや。こまるんは、海の生きものやら、あんたら人間なんやから』
『あ、キレよった。ロボットのくせにキレよったがな。しょむないやっちゃな。みなはん、テレビ見てはるみなはんも、このロボットをあわれやと思うてくれはったら、ええ知恵かしてやっとくんなはれ。おい、キミからも、よう、お願いしとき』
『たのんまっせ、ほんま。とくに科学者のセンセ、おねがいしまっせ。あ、へてからな、地球に説得をたのむっちゅうのは、あきまへんで。もう、ことわられてまんねやわ』
『はいはい。ほたら、木星なんかは、どや。たのんだら、海を説得してくれるんか』
『アカン! アカンでえ。木星だけはアカンねや』
『なんでやねん』
『OKしよるんや。海を説得したるいうて』
『なんや、そんならええやないけ。説得してくれるんやろ』
『してくれるんやけど、やらせたらあかんねん』
『なんでや、してもろたら、えやないか』
『アカン。木星が来たら、海な、木星のいうこと、ききよるんや』
『きくんなら、ますます、ええやないか』
『あかんやん。わての話、ちゃんときいとったんかいな。海な、残ったらな、死ぬんやで。海のみんなが、ひどいめにあうんや』
『はいはい。ほな、あかんねんな、木星も』
『あかん』
『ほな、やっぱり、科学者のセンセーにたのむんやな』
『せや、たのむでえ』
『ついでにキミも、みてもろうたほうがええで』
『照れるがな。わて、そんなにカッコええか。どんどん見てもらいまひょ』
『もう、ええわ』
『(ふたりそろって)ほな、さいなら』
放送がおわるや、ものすごい反響だった。テレビ局の電話は鳴りっぱなし。ほとんどが、あのロボットはほんものなのかという問い合わせだった。漫才をやるロボットなんて、みんなはじめて見たからだ。
一回の出演でケンタとチャーリーは、とても有名になった。
その日から、テレビや週刊誌のインタビュー、イベントへの出演の申しこみがどっと押しよせた。
ケンタとチャーリー、恐竜とロボットは、目がまわるようないそがしさだった。漫才だけでも日に二・三回はこなした。
漫才は、なれればラクだったが、インタビューはやっかいだった。ロボットの製造元や恐竜のケンタの出身地などを、しつこくきかれるからだ。はぐらかすのはかえってめんどうなので、それぞれ、ありのままを答えるようにしていた。
「ボク、じつは恐竜でんねん。海の底に住んでます」
「ワタシ、宇宙観測ロボット。火星ノデータ測定シナガラ、カラオケヲ火星ト楽シンデマシタ」
そんなふうに答えると、ギャグだと思われて、またおもしろがられた。
いちばんかんじんな海のことについては、あえてさけているようなかんじだった。ちょっと生々しいからかもしれない。
人間界はあの巨大いん石事件でたいへんな被害を受けた。できれば忘れたい思い出なのだ。それを漫才のネタにつかうなんてことは、ほんとうならば、さけなければいけない。
「でも、海がなくなったら、あれくらいじゃすまないもんね」
「そうさ、でも、あせっちゃいけない。いま、海のことを強引にうったえても、反感をかうだけだ」
「漫才はいいアイデアだったろ」
「ふん! オレのネタづくりがうまいからだよ。とにかく、漫才のなかで伝えていけば、そのうち人間のほうからコンタクトしてくるさ。あの事件で、海がなんかヘンだと感じている人間も多いからな」
チャーリーのことばどおり、海のことを心配する人たちはたしかにいた。
漫才をしていても、日がたつにつれ、お客の顔色が変わってきたのがわかった。ロボット漫才のものめずらしさから、海を心配する顔に変わってきたのだ。
こうなるとマスコミの反応は早かった。海に関する特集記事が、いっせいに週刊誌やテレビをにぎわすようになった。
ケンタたちのところへも、いろいろな企画がもちこまれた。
「なあ、ケンタ。これ、いいかも。バラエティだけど、有名な科学者がゲストだぞ」
「どれどれ。よし、チャンスだ。いい考えがあるかきいてみよう」
さっそくふたりはスタジオに入り、科学者たちと対面した。
「きみたちか、デマを流して、人を不安におとしいれているのは」
科学者のひとりが、ムッとした顔でケンタとチャーリーをにらみつけた。
司会のお笑いタレントが、まあまあ先生、相手はロボットですので、お手やわらかにと、とりなす。
「いいか、きみたち。きょうは、おとなしく白状しなさい。きみらのいってることは、ぜんぶデタラメの作り話だって」
ケンタはびっくりしてロボットのチャーリーの顔を見た。チャーリーはすこしもあわてていなかった。
「ワタシ、ロボット、ウソツキマセン。ホントノコトシカ、ワタシ、イエマセン。海ハ近イウチニ死ニマス」
「なんだ、漫才じゃコテコテの関西弁だったのに、こんどはロボット弁か」
「とにかく、きみたちの漫才はまぎらわしいんだ。すぐ、あのネタをやめなさい。社会不安をあおるだけだからな」
「事実です。すべて事実なのです。ぼくは直接、海と話しました。海はまだ自分がもうすぐ死ぬのだとは知りません。ただ、なにごとかを感じているので、旅立ちという意思表示をしたのです」
「なんだ、きみは標準語に早変わりか。ずいぶん器用に方言をあやつるもんだな。しかし、人心まであやつってはいかんよ」
「なんの下心もありません。時間がないのです。いますぐ、手をうたないことには、地球は、おそらく火星のようになってしまいます」
「きみ、海とどこで、どうやって話したの」
「海があるところなら、どこでも話せます」
「ふーん、私も話せるのかな」
「もちろん、話せます」
「じゃ、行ってみようか。みなさんもいかがです。論より証拠。すべてがこれで明らかになります」
幸い、このテレビ局は海辺にあったので、急な予定変更にも対応できた。科学者とお笑いタレント、見学者などがみな、砂浜に集まった。
「さあ、話してもらおうじゃないか」
カメラが回りはじめ、ケンタに注目があつまった。おだやかな波に、キラキラと陽がきらめいて、そよ風が気持ちよい午後のことだった。
「海!」とケンタは力強くよびかけた。するとどこからともなく声がきこえた。
「だれだ、ぼくをよぶのは。いま、いいところなんだ。チョウチンアンコウのパントマイムがはじまったところだからね。だれだか知らないけど、用があるなら、あとで」
それっきり声はきこえなくなった。
「なんだ、いまのは。やっぱり、インチキじゃないか。おおかた、そこらにスピーカーでもかくしてあるんだろ」
「スピーカーなんて。いまのが海の声です。海のものたちが毎日、いろんなパーフォーマンスをやって、海が旅立ってしまうのをひきのばしているんです。きょうは、チョウチンアンコウの番のようです」
「もう、たくさんだ。みなさん、帰りましょう」
博士たちやスタッフが、さっさとひきあげ、見学者たちもそれにつづいた。ケンタとチャーリーは、海を見おろしたまま、砂浜にすわった。
ぽかぽか陽気に春の風がひと吹き、のどかな海には、さざ波が立っていた。
「はーあ、やっぱり漫才じゃ、よくなかったのかなあ」
「なにいってんだ。漫才だったから話が早くなったのさ。人間はいつも、手おくれになってからあわてるんだ」
「でも、どうしようか。まだ漫才つづけるかなあ」
「海がへんだってことは、みんなに知れわたったし、あとは、かってに人間どもが考えるだろうさ」
「おーい、きみたち。ケンタとチャーリー!」
そうよばれてふたりがふりかえると、さっきの番組のテレビ・ディレクターが走ってきた。
「ごめんね。あんな内容にするつもりはなかったんだ。いま海の心配が、じょじょに広まっているだろう。でも、あの人たちをはじめ、専門家たちは、きみたちがいっていることを、きちんと否定できないでいる。だから、あんなふうに、きみたちに食ってかかったのさ」
「そうですか。ぼくたちはありのままを伝えて、なにかいい考えがあれば、海をたすけてほしいとおもっただけなんです」
ケンタは立ちあがったが、ロボットのチャーリーはすわったまま海をみつめていた。
「よくわかってるさ。きみたちがあらわれる前から、海がおかしいと感じていた人間もいたんだ。ぼくもその一人なんだけどね」
「それならどうして、海をなんとかしようとしないのですか」
「なにが海におころうとしているのか、まるで見当がつかなかったからさ。しかし、きみたちのおかげではっきりした。海は、としをとったんだ」
そのディレクターも砂浜にすわった。ケンタは立ったままきいた。
「ぼくたちのやりかたは、まちがっていたんでしょうか」
「漫才のことかい」
ケンタはうなずいた。チャーリーは陽気にさそわれたのか、居眠りをはじめた。眠るロボットなんてきいたことがない。
「そうです。漫才です。貝が落語をしているのを見て、とっさに浮かんだのです。海のことを広く早く知ってもらえると思って」
「大正解だったさ。みんなが知って、解決をもとめればこそ、研究がすすみ、糸口もつかめるのだから。ところできみたち、ある博士をたずねてみないか。ああ、だいじょうぶ、きょうみたいなレベルの低い博士じゃないから。もちろん海の専門家で、巨大いん石事件以来、海中研究所にとじこもったままなんだ。近くまで送っていくから、あとはカメラをきみたちで回して、博士の研究をルポしてきてくれないか」
恐竜のケンタは、ちょっと光が見えたような気がした。ふと気がつくと、ロボットはガーガーといびきをたてていた。