第10話 おわりに、火星にて
海の流星が火星の近くをとおりかかったとき、ロボットのチャーリーはちょうど、火星とカラオケをやっていた。
火星のごきげんがまだわるいので、チャーリーは、火星の点数を何十点も上乗せしてやった。
「お、あれは、海の流星じゃ。うまくいったようじゃな」
「へーえ、あれがね。思ったより小さいな。月より小さいぐらいかな」
「あれで、ギュッとつまっておるんじゃよ。いのちのみなもとのすべてがな」
「ケンタたちが復活するのは、いつごろなのかな」
「さて、どうじゃろな。むかしとおりかかった流星は、恐竜が復活するのに、何千万年だか、何億年だか、かかったというておった。そのくらいはかかるじゃろな」
「なんだ、そんなにかかるのか。たいへんだな」
「いや、いいんじゃよ。ヘタに早く復活したところで、生きていくのに適した星なんか、この近くにないじゃろ。何千万年も何億年も旅しなければ、生きるのに適した星は、見つからんよ」
「そうか、こんなところで復活したら、生きていけなくなっちゃな」
「そうじゃよ。あの流星はあくまで、乗り物みたいなもんじゃからな。生活するとしても、せいぜい数万年かな。その間に、生きていける星を見つけなくてはならんのじゃ」
「ごくろうなこった。見つからなかったら、パーか」
「そんなこともないじゃろ。この流星はなんか、ある力でコントロールされておるようじゃ。むかし流星でやって来た恐竜たちが乗っておるんじゃろ。だとすれば、帰ろうとしとるんじゃな。ふるさとの星に」
「ふるさとの星って。そこの海が飛んできたんじゃないのか。だとすれば、そんな星、もう住めないだろ」
「何千万年も、何億年もたっておるから、もう住めるように回復しとるかもしれんて」
「そんなつごうよくいくもんかな」
「いかんともかぎらん」
「ふーん」
「それでまた、何千万年か何億年かたったら、また流星に乗って、こんどはこっちへ来よるかもしれんな」
「そうかな」
「あれに乗っておるものたちにとっては、地球もふるさとじゃからな」
「それまでオレは生きているかな」
「せいぜい、サビないよう気をつけて、がんばることじゃな。くたばったら、わしの鉄分にしてくれようぞ」
「ふん、そっちが先におだぶつかもしれないぜ」
「なに! わしは火星だぞ。ロボットなんかより、先にまいるはずがなかろう」
「おあいにくだね。あいつらが来るかもしんないんだぜ」
「なに? だれが来るというんじゃ」
「人間さ」
「げ。ほんとうか、それは」
「たぶんな。今回、オレを調査によこしたのも、そのためさ。生きていけるかどうか、こまかく調べているのさ。どうする? あいつら来たら、あんたの命もグッと短くなるだろうな」
「うーむ」
「なんだ、予想してなかったのか。人間て、むかし、ここに住んでたんだろ。もどってきても、ふしぎはないじゃないか」
「もう忘れておるじゃろうと思ってな。うーん、いや、しかし、地球が住めないとなったら、来るじゃろな」
「なんだったら、デタラメのデータ送っといてやろうか。毒ガスがいっぱいだとかいってやれば、あいつら来ないぜ」
「そんなもん、すぐ、バレるじゃろ。かまわん。来るなら来い」
「あいつら、むかしとちがって、いろんなもの作ったりしてるから、すぐボロボロにされちゃうよ」
「負けはせんよ。人間の力がどれほどのもんか、見とどけてやろう」
「ムリすんなよ。トシなんだから」
「おまえにも負けんぞ。さあ、カラオケで勝負じゃ」
「よおし、いっちょう歌うか。ケンタたちにもきこえるかな」
「長い夢を見ておるじゃろうから、夢のなかで、きいておるかもしれんのお」
「では、オレの美声を」
「バカモン! おまえなんかの声じゃ、うなされるわい」
「なんだって! いったな」
「やるか、ポンコツ!」
そこで、ふたりは歌いはじめた。
火星とロボットの歌
岩はくだけて 石となり
石はこなごな 砂となる
赤い砂漠に お日さまのぼる
のどはカラカラ 水はない
ここは火星だ すごいとこ
どんなひみつに みちびかれ
宇宙をはるか どこへいく
ゆくえさだめぬ 流星の旅
それでもいつか つかれたら
火星へおいで まってるぜ
とめてもムダと わかってる
どんなに遠く はなれても
おれたちここで 見ていてやるぜ
時をわすれて いつまでも
火星とロボット ここにあり
ふたりの声が、火星の空にひびきわたった。どちらもおなじくらい、ひどい声だった。そのせいか、海の流星がゆらりと、ほんのすこしゆれて、スピードが落ちた。まるで、耳をかたむけているように見えたので、火星もロボットも、いっそう大きな声で歌った。
すると、海の流星は、ぶるぶるとふるえた。
「お。うっとり、ききほれとるぞ」
「オレの声が、わかったんだ」
「なにをいう。わしの声こそ」
海の流星は、また、ゆっくりとすすみだした。
「おおい、ケンタ、きこえるかあ! ハンナ! オレをゆるしてくれ」
「うん? ハンナってだれじゃ」
「オレが泣かしちまった女さ」
「このポンコツが! おまえなんぞ、みんなの笑いものじゃ」
「いったな! 老いぼれ火星」
「なんじゃと! ポンコツ! よし、カラオケで勝負じゃ」
「おお、のぞむところだ!」
ふたりのひどい声がまたはじまったとき、海の流星は逃げるようにスピードをはやめた。はるか宇宙のはてをめざして、流星の旅はいま、はじまったばかりだった。
了