聖女さんの話はためになるなぁzzz……
「おかあしゃん、あの話をして…… 」
父と母の鍛錬の仕事が終わり家で夕食が終わり、歯を木の楊枝で磨くと寝る前のお話をコラットがねだる。
「…… ほんとに好きね 」
少し泣きそうな笑顔で母が言葉に詰まる。
この話はある聖女の昔話……
あまりに強いアビリティがあったせいで人々に頼られ、苦難を重ね最期の最後には国に利用され冥府に繋がれた聖女様の昔話……
「おかあしゃん…… 強い力は隠した方がいいの? わたしも力を隠した方がいいにょ? 」
「うん? …… うん…… そうね女の子だから尚の事…… にね? 」
そう言いながら母はコラットの背中をポンポンと優しく叩く
コラットはゆらゆらと揺れる暖炉の火を見ながら定期的なポンポンが気持ちよくてゆっくりと眠りに落ちた
「マリア…… 泣いているのか? 」
「アナタ…… ごめんなさい」
妻の涙と眠りにつくコラットを見て父は理解した。
ーーーこの世界では出産と同時に神の祝福を受ける。教会の神父の使う神聖魔法で人間になら誰にでも神から授けられる祝福の内容を確認する。
祝福とは能力の事で
出産後の検査は能力の発芽と言われているのだが……
この世界では人生は短い。
無理をすれば魔物に殺されてしまう虞がある。
『人生の方向』 の目処が立つなら、早ければ早い方がいいと考えられている。
〈味覚の舌先〉なら料理人
〈剣技の才能〉なら兵士や冒険者
ーーー などなどだ
父と母はセルドラード国でも貴族階級にある。
一番下の階位だなのだが、それは武芸と魔法によって得た物でつまり能力は常人のそれとは違うかなり優秀なモノだった
その為、娘であるコラットも強力な何かを祝福で神から与えられただろうと期待しかしていなかった。
「は? どういう事ですか? 」
神父に父が聞き返す。
母はまだ首も座らないコラットを抱きしめて苦しそうに泣いている……
「いや…… 娘様はアビリティがありません」
神父はチラリとマリアを見るとその嗚咽の姿を見るのが辛くなり目を空に彷徨わせるようにしながらハッキリと伝えた。
「そんな…… せめて女の子に向いた裁縫とか…… 料理とか…… 」
父は緊張か絶望感かで舌が急速に乾くのを感じる
娘の未来を繋ごうと縋るように神父に問うが…… 返ってきたのは神父が首を横に振るジェスチャーのみだった。
一人一人に必ずある能力が無いという事は…… つまり……
「うわぁぁぁぁぁ!! 」
母の泣き声に幼きコラットはビクリと目を覚まし泣き出す。
震える手で父は暫く拳を握りしめて気持ちを幾分か落ち着かせると神父に御礼金を渡す。
そのお金は悔しさか哀しみかで強く握りしめた為に父の血が……
泣かないように遠方を見つめる父の手からはポタリポタリと涙の代わりに血が流れ落ちていた。
「コラットが死ぬまで生活が出来るように頑張ろうな…… マリア…… 」
「ええ…… お金を貯めて1人でもこの子が生きて行けるように頑張りましょう」
2人は確認するように意思と自分の人生を縛り付ける。
娘が出来るだけ苦労しないように…… それだけを考えて……
ーーーおかあしゃん…… 強い力は隠した方がいいの? わたしも力を隠した方がいいにょ? ーーー
コラットの言葉を思い出し胸に短剣が刺さるような辛さを感じる
いつまで私はこの辛さを味わうのだろう?
揺れる暖炉の火を目に映し虚ろな思考で母は思った。
「さて…… 稼がにゃならん。 とりあえず今夜も領地の収支と金勘定をしないとな…… 」
「ええ、出来るだけ計算を読み上げて確認しながらしましょう」
夫婦は眠るコラットの隣で静かに領地運営の仕事を始めるのだった……
――― アビリティを取得しました
〈計算(レベル2)〉 〈運営(レベル1)〉
ーーー アビリティを取得しました
〈語学(レベル4)〉〈理論〉〈思考力+〉…………
コラットは夢の中でまたこの声を聞いていた。