とりあえず、異世界へ行きますよぉzzz……
私の可愛い子…… ごめんね……
暗いシェルターの中で呟く。
まだ小さい我が子をあやす
もう温もりもなく、羽虫も寄り付きだしている。
可愛い可愛い私の子……
私ももう…… 口に水分がなくて言葉も出ない。
シェルターの壁にもたれて子供の背中をゆっくり摩る
腫れた指のいくつかは骨に罅があるんだろう爪は剥がれたけどもう痛みもないようだ
可愛い子を墓に寝かせたいのにシェルターの床は固く……
備蓄された食料は高カロリー食で袋に入っていたから穴を掘るのに使えなかった。
指で爪で頑張ったが……
目を向けた先の地面には掻き傷しかなかった。
※壁に埋め込まれたスピーカーからは外の戦争の状況が伝わってくる。
夫は生きているだろうか?
シェルターから出ようとしたが、外に何かが詰まり開かなくなっていた。
我が子を見る。
はだけた私の服からおっぱいが隠さずにでている。
高カロリー食がきれて、私のおっぱいが出なくなってから可愛い子が死ぬまではすぐだった。
可愛い子……
たくさん遊んでたくさん食べて
長い人生を歩めたのに……
「あぁ…… ぁああ…… 」
私の枯れた喉から鳴き声がでる
守ってあげれなくてごめんなさい……
私はもう一度、抱いた可愛い子にキスをしようと顔を屈めると、そこで意識は途絶えた。
ある国の出来事……
この国は戦火は人々の命を燃やし続けている
人の命は紙のように脆く
たくさんの命が毎日毎日、失われていく……
ここに小さな二つの命があったなんて
もう神様ぐらいしか知らなかった。
ーーーーーーー?
「あれ? 」
私は真っ白な空間に立っていた
座るしか体力が無かったのに…… !?
ふと抱っこをしている重さに気づく
その重さは目を開き動いている。
私はぎゅーっと手の中にある宝物をやさしく抱きしめる。
私のタミーの子供…… コラットだった。
もう会えないと思っていた可愛い子は私を見てキャッキャと笑う
「コラット…… 大好き」
娘の名前を呼び雨のようにおでこにキスをする。
涙が流れる。
ニパーと笑う子供と目を合わせて目を細める。
「すまんのぅ」
いきなりの声に気付きハッと目を上げると、そこには辛そうに私達を見ている老婆がいた
「ここはどこですか? 」
敵意がない表情と雰囲気の老婆に問いかけると、老婆はコツンといつのまにか持っていた杖で叩く
すると今まで無かった椅子が2つ現れて老婆はそれに座ると私にも勧めてきた。
「さて、分かってるとは思うが…… ここはあの世さね」
老婆は苦々しく声を出す。
そうかやはりかと椅子に腰をかけながら私は頷く
でも、死後にコラットとまた会えたのは嬉しい
「ありがとう」
「え? 」
「娘にもう一度、会えたから…… です 」
私の言葉に老婆は腕を組み、目を閉じて唸る。
「私はね案内人さ。死神や閻魔やカロンやそれに似たようなもんさね」
「娘を地獄に行かせないわ…… 」
老婆の自己紹介…… 死神という言葉に冷や汗が出る。
コラットを隠すように抱きしめ、まるで肉食獣が威嚇するような顔を老婆に向ける。
「フン、 人の魂なんかで私をどうにかできるもんかい」
ニヤリと笑う老婆の顔を見ながら涙を流す。
「命ある時も地獄をみて、死んでも地獄に行くなんて…… コラットが可哀想だわ。 」
最後は泣き声になりながら訴える。
「全く…… その母性愛はその辺の下級神よりよっぽど高尚だわね…… 違うよ案内は案内でも転生…… 違う世界で生をやり直さないかい? と提案に来たんだよ」
クックックと俯向き笑う老婆からの言葉に息を飲む。
「コラットと2人で…… 」
「1人だけだよ! 」
ピシャリと言葉を切られる。
どうやら転生をするにはそれなりの神様としての権限と格が必要で老婆の…… 神様の権限では1つの魂だけを転生させる事ができるという。
「ーーー、 なら転生者はコラットでお願いします」
「まあ、そう言うと思ったよ。 なにかアンタの希望はあるかい? 」
分かってたよと神様は自分の膝を摩って笑みを浮かべる。
ーーー 私は神様に伝えた
楽しい事をさせたかった
美味しいものを食べさせたかった
色々な物を、世界を見せたかった
なにより毎日つづく戦争の発破音により安眠を与えれなかったコラットがおだやかに寝れる環境を与えたかった。
「…… 涙を拭きな」
「ありがとうございます」
涙を流す私に神様が空中からハンカチを出して受け取る。
「なら魔法がある世界とかどうだい? 文化水準や科学力は随分と遅れているが代わりに大量破壊兵器とかはないしね」
ファンタジーの世界かしら?
なら、コラットも楽しめるかしら?
私は神様に肯定を示すように首を縦にふる。
「アンタはここから娘の助けをしてやりな…… もう触れ合えないがそれぐらいは許可してやろう」
「ありがとうございます」
コラットの成長が見れる……
嬉しい。 嬉しい……
ゆっくり人差し指のお腹でコラットの頬を撫でる……
「では、娘ちゃんはアンタより先に死んでるからね魂が弱っているから時間があまりない。 早速その世界に送るよ? 」
「ちょっと待って下さい! 」
私は慌てて神様の動作を声で止める。
「なんだい? これでも色々と便宜を図ったんだよ? これ以上を望むなら辞めてしまおうか? 可哀想ってだけには十分な話だけどね? 」
機嫌が悪い声になる神様に慌てて頭を下げる。
「最後に、私のおっぱいをあげさせて下さい。お腹が空いたまま来世への旅をさせたくないんです」
驚いた顔の神様は次には笑顔になりゆったりと座り直した。
私はそれを見て胸をはだけコラットにおっぱいを向ける。
「母乳…… でた…… よかった………… コラットお母さんですよ…… ごめんね…… 次は幸せにね…… 」
コラットに涙顔を覚えて欲しくないから精一杯に笑顔を作りおっぱいをあげ、飲み終わると最後に抱きしめてゲップをさせると神様と目を合わせる。
神様は授乳が済んだと理解すると一度、笑顔を見せ立ち上がり杖をゆっくりコラットに当てる。
「あぁ…… ! 」
コラットは光の玉になり私の体からスルリと抜け出すとゆっくり透明になる。
「コラット! コラット! 愛してるわ! 」
私は手放した幸せに後悔と健康にこれから生きて欲しいという思いでぐちゃぐちゃになり椅子から床に倒れてしまう
「ーーー コラット! 」
手を天に広げてももうそこにコラットの魂はいなかったーーー。
神様はポソリと呟く
「可哀想だから思わず娘ちゃんの魂にチート能力をあげてしまったわ…… まあいいかねぇ」
神様はコラットを探し狂乱する母親に憐れむ目を向けてため息をついた。
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ふわぁぁ……
とにかく眠い……
そんな顔を娘が見せている。
ここはセルドラード王国の南端にある地方領。
「おやおや、おねむかい? 」
「ふふふ」
凛々しい顔の父親と、ふんわりと優しく笑う母親がまだ5歳になったばかりの娘の顔を覗き込む場所に大汗をかいた鎧と剣を携える青年が走ってくる。
「隊長! 鍛錬ノ一、終了しました! 」
父親は娘に向けていた緩んだ吊り目をキッと引き締め青年を見る
「よし! 鍛錬ノ二に移る! 」
父親は大声で青年…… というよりこのサッカーフィールドと同じ程の広さがある未舗装の修練場に並ぶまだ顔に幼さが残る兵士達に向けて応答した
「よろしくお願いします! 」
新米兵士達が父親に敬礼をする。
「ふふふ…… お父さんはコラットにいい所を見せたくて必死ね…… ふふふ…… コラットちゃん大人しくまた昼寝をしておいてね」
母親は優しく娘のおでこにかかる銀色の前髪を優しく寄り分け撫でて〈安眠の魔法〉を軽く娘にかけた。
「おかあしゃん、ガンバって…… 」
娘はトロンとした父に似た吊り目で母親を送り出す。
この国は軍事に予算を割き、人材の育成を大事にしている。
それは国父が発言からきている
「軍事に秀でなければ魔物や外敵から国民を守れない。 ならば鍛えよ! 」
――― 魔物がいる世界
――― 戦争がある世界
――― 種族間抗争がある世界
それから一般市民を守るにはまずは力を欲しなければならない。
その考えは15代続く国の理念になっている。
小区画の黄金と名付けた通りに小国であるにも関わらず混沌とした世界で滅んでいないのは個々の能力が優れている事も一つ……
「オラー! 新入り供! この南の訓練場を卒業したら中央の司令部にいけるかもしれんぞ! 頑張れ! 」
「ふふふ…… 死なない程度にアビリティを鍛えなさい」
コラットの両親は娘に見せるのと違う鬼の形相で新米兵士を訓練する……
「オラ! さっさと能力を打ってこい! 」
「―――! 師範いきます! 」
新米兵士にハッパをかけると5人1組で様々な魔法や剣の技を父に打ち出す。
燃える火の玉の魔法や剣の斬撃を飛ばす能力……
この世界は能力により使える能力が分かれる。
魔法のアビリティがあれば魔法を
剣のアビリティがあればその技を
剣の閃光や魔法の熱や雷撃を父は躱しながら木剣で1人ずつ新米兵士の意識を奪っていく
「やっぱり…… アーネストさんには敵わない」
「右手を失わなければ国王の剣になれたと噂されるぐらいだもんな」
コラットの父、アーネストは左手だけでも異常な強さを新兵達に存分に見せつけ、見せつけられた若者達はブツブツとアーネストの事を仲間で愚痴る。
身長170センチで痩せ型、ある事故で右手を失った金髪の30歳手前のこの世界では普通の見た目なのだが戦闘能力は高いようで誰の攻撃にも当らず木剣で新米兵士の気絶者を増やしていく。
「おとーしゃん…… つよぉい…… 」
コラットは花火のように光り輝く様々なアビリティを寝惚け眼に焼き付ける
「…… アーネストったら娘の前だからって頑張り過ぎね…… 兵士傷だらけじゃない――― 〈ヒール〉 」
「あ…… ありがとうございますマリアさん 」
コラットの母、マリアはアーネストが砕いた手や擦過傷を魔法で治癒していく……
コラットと同じ銀髪のマリアは目鼻立ちがハッキリしたポッチャリとした体型の女性……
包容力があり治療を受けた兵士はマリアの笑顔に暫しの安堵を得る。
「おとーしゃんもおかぁしゃんも…… すごいな…… 」
コラットはポーッと自分の体温が高くなるのを感じ鍛錬場のベンチに敷かれた毛布の中でゴソゴソと丸まる……
――― アビリティを取得しました
そんな声を夢の中で聞きながらコラットは〈おひるね〉を始めた。
コラットのイメージ(仮)です。
間違えていたらごめんなさい