2話 状況把握
別名ゲーム設定説明回
ふっと視界が明るくなったかと思うと、周りに人がたくさんいた。やっぱり人が多い。最悪だ。眉が寄るのを感じながら誰かと目が合う前にスキル<気配希釈><隠密>の起動を念じて移動した。
「あれ、今ここ誰かいなかったか?」
「誰か? 俺は見てないぞ」
「アタシも気付かなかったけど…」
「マジかぁ…気のせいかなあ」
背後の喧騒の中からそんな会話が聞こえてきた。危なかった。PKはできることの把握をしてからの方がいい。
ぶつからないように人波を抜け大通りから路地へ入る。裏通りの商店街といった感じで、まだ人がいる。更に小路へ入っていった。
数回繰り返し、ようやく人の気配がなくなった。薄暗くお世辞にも清潔とは言い難い路地だが、我慢できないほどではない。周囲の窓が小さく高い位置にあるのも高ポイントだ。
思ったよりも歩くことになった。この街はかなり広いようだ。小さく息を吐いてステータスウィンドウを開いた。
このゲームにいわゆるステータスというものは存在しない。少なくともプレイヤーに見える形では、だが。行動によって種族レベルを上げ、それによって得たスキルポイントでスキルを習得する。SPの獲得方法やスキルの習得方法は他にもあるようだが、基本はこれで強くなったりできることを増やしたりする、らしい。全て公式サイトからの知識だ。
そしてスキルの中には、パッシブかアクティブかを自分で選択できるスキルが存在する。私の獲得した<気配希釈>や<気配察知>、<隠密>もその類だ。ウィンドウを操作しどれもパッシブに変更する。恐らくMPかそれに準ずるものの上限が消費されているのだろうが、目に見えないので分からない。分からないのなら無いのと同じでいいだろう。
(おや…)
どうやらあの3つ以外にパッシブにできるものがあったらしい。<識別>だ。試しにパッシブに変えてみ、みみmmmrrrrrrrrrrr――――
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生ごみ
廃棄者:ニーシォ
内容物:料理油、アインツ鶏の筋、白菜の芯、アインツ鶏の卵殻、玉ねぎの皮
腐臭レベル:3 腐敗レベル:3
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ロリン草
どこにでも生える生命力の強い草。主に雑草とされる。
花弁を磨り潰すとポーションの原料の代わりになる。
花粉に毒が含まれている。
毒レベル:1
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赤煉瓦の壁
建築者:アーオナ 建築年:ライネル暦560年
所有者:ニーシォ
赤煉瓦で出来た建物の壁。
硬度:15
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ヘキサ草
どこにでも生える生命力の強い草。主に雑草とされる。
根に毒が含まれている。
ヘキサ虫と共生中。
毒レベル:1
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ヘキサ虫
ヘキサ草と共生する虫。繁殖力は強くない。
養分を貰う代わりに他の虫を追い払う。
人体に入ると胃腸を食い荒らす。
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(無理!)
そっこうでアクティブに戻した。なんだあれは。周囲の物の情報が一気に頭の中になだれ込んできた。
頭痛と耳鳴りと吐き気とめまいが一気に襲ってきたような感覚だった。頭がパンクしそうだ。こういうのは普通徐々に情報を増やして慣らしていくものじゃないのだろうか。
息を整え今度は壁を対象に<識別>をしてみる。何も出てこない。
おかしい、パッシブの時には確かに材質に建築年代、建物の所有者まで頭に入ってきたのに。パッシブの方が効果が高いということか。
ならば絶対にパッシブに慣れた方がいい。だがいつ治まるのかも分からないままあの感覚に耐えるのか。ゲームでまでストレスを溜めこみたくはない。かと言って初期から手に入るスキルにずっとあんな代償があるとは思えない。恐らく何かしらの鍵があるはずだ。発動回数か、発動時間か。あるいは他のスキルや称号が必要なのか。
(……よし)
10分以内にどうにもできなければアクティブのまま、代償を我慢できる範囲に抑えられればパッシブでいく。
まずは少しずつ発動時間を延ばしていく。パッシブに切り替える。おや、意外と楽にににnnnnnnn――――
(アウトー!)
戻す。そう簡単にはいかないようだ。
しかし希望は見えた。ほんの僅かだがあの感覚が来るまでに時間があった。繰り返せば耐久時間も延びるだろう。
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繰り返すこと数十回、ようやく痛みが消えた。違和感は拭えないがこの程度なら問題ない。我ながら何でこんなことをと思わなくもないが、人に頼れない以上情報は自分で得るしかないのだ。ちょっと思考の邪魔だが、それも暫くすれば慣れるだろう。
途中で<痛覚耐性>とかいうスキルを習得したのには驚いたがむしろ嬉しい誤算だった。これの習得してから痛みががくんと減ったし、スキルレベルがあっという間に上がった。
なお自分で設定した10分はとっくに過ぎている。途中で目途が立ったから適当な目安は意味をなさなくなったということでひとつ。
さて、あと必要な確認事項は……あぁ、装備か。
初期装備にマントがあるのは重畳だった。顔を隠すことができる。あとは武器だが……インベントリに入っていたのはダガーと針だった。よく見たら手甲に隠す場所がある。手の甲側に針、手の平側にダガーを隠した。
(分かってたことだけど、中々暗殺者めいてるなあ)
ひとまず確認は済んだことだし、そろそろ移動しよう。宿にはNPCに話しかけないと入れないから、どこか人目に付かない拠点が必要だ。毎回あの広場でログインしなきゃいけないのは勘弁してほしい。
<薬学>に使えそうな草の類を採取しつつ歩き始める。大通りから更に離れるよう進むと人の気配がしてきた。感覚的な問題だが、どうやら<気配察知>はちゃんと仕事をしているようだ。
種族:人族
種族レベル:1
スキル:
<暗殺術>1
<気配希釈>1<気配察知>1<隠密>1<変装>1
<識別>1
<薬学>1<言語学>1
<痛覚耐性>1